見出し画像

汚れなき人 第2話:先生

生徒たち「先生さようなら」

山縣「寒いから、風邪引かないよー」

山縣先生は、学校の中でも目立つかっこいい先生だった

まだ30歳と教師の割に若いし、先生の事好きな女子は多かったと思う

私はあの日、先生に助けられてからちょくちょく気にかけてもらえるようになっていた

山縣「おーい、菅野!お前どうせ暇だろ?ちょっと手伝って」

菅野ゆづ「はー?私早く帰って録画してるドラマ観ないといけないんだけど」

山縣「やっぱり暇じゃん。せめて勉強しないととか言えないのかお前。はい、そっち持って」

ゆづ「なにこれ?めっちゃ重いーー。」

山縣「これは春に咲く花の球根。春には綺麗な花が咲くぞー。」

ゆづ「へぇーなんて花?」

山縣「アネモネ。」

ゆづ「アネモネ?何色の花?」

山縣「アネモネはいろんな色の花が咲くんだ。白、紫、赤とか青も」

ゆづ「へぇー楽しみ!花言葉は?ある?」

山縣「もちろんあるよ。ただアネモネはその咲く花の色によって言葉の意味が違うんだ。僕は白い花が沢山咲いて欲しい。春に咲く花にぴったりの意味だから」

ゆづ「白はどういう意味なの?」

山縣「希望」

ゆづ「希望?でも希望とかいう花言葉の花多そうw」

山縣「確かになw他にも期待とか真実とか、どっちかというか「信じる」っていう意味合いが強い花だな。まぁ花言葉までいちいち意識してないけどな。ただ単純に咲く花が綺麗ってだけのチョイスだよ」

ゆづ「え、なんか急に雑になったけど」

山縣「そうか?はい!おしまい!お手伝いありがとう。暗くなる前に帰れよ」

ゆづ「はーい。先生さよなら」

山縣「はい、さようなら」


ピピピーピピピーピピピー

先輩「菅野さん?目覚まし鳴ってますよ?」

ゆづ「あ、すみません。休憩交代ですね。」

先輩「高木くんと交代してくれる?」

ゆづ「わかりました」

夢か。珍しく思い出してしまっていた。

まだ記憶に残ってたんだな

ただの教師と生徒だった時の記憶

あの時植えたアネモネはあんなに綺麗に咲いたのに

アネモネの草には毒がある

だからどんなに綺麗に咲いても触れてはいけない

触れていいのは花だけ

ねぇ、先生、私たちはどこで間違えたのかな

(職場)

お客「いやー高木くんの施術は最高だよー。また来るからね。またよろしくね!」

高木「いつもありがとうございます。出来るだけご自宅でも肩甲骨を意識して回すようにしてくださいね」

ゆづ「高木さん休憩いってください」

高木「はい。ありがとうございます。」

ゆづ「入ってまだ1ヶ月なのに、固定客沢山ついてて流石ですね。」

高木「いえ。とんでもないです。僕はこれしか出来ないですから。休憩行ってきます」

高木さんとの関係は、最初に会った衝撃の割に全く縮まらなかった

別に私も彼が好きとまではいってないけど、どこか影がある気がして何となく他の男性よりは気になっていた

先輩「菅野さん!!今電話があって、、、お母様が、、」

ゆづ「え?」


(病院の一室)

信じられないぐらい痩せ細せて髪の毛もない

これが母??

別人すぎて暫く母と認識できなかった

私は17で家を出てから、一回も会ってなかった

一度も連絡もとってなかった

あり得る?仮にもまだ10代だった私を母親は探そうともしなかったのだ

母親に愛されない子供なんて珍しいことではないと思う

よくある話だ

同性ならではなのか、いつの間にかライバルみたいになって、どんどん歳をとる自分とどんどん綺麗になる娘への嫉妬

母親の周りにはいつも男がいたけど、母は誰の事も愛していないように見えた

この変わり果てた母の姿を見て思う

母はずっと孤独だったんだと

私は母を許せてないけど、もし私が母から逃げてなければ、もしかしたら今頃も二人で暮らしてたりとかして、仲良く出来たりしてのかな

「ゆづ!」

ゆづ「..え?ママ??なんでここに」

ママ「ゆづ。今までずっと黙っててごめんね。私があの日ゆづに声をかけたのは、偶然じゃないの。私とゆりさんは(母の名前)は銀座の先輩後輩でね。ゆりさんから連絡もらって、銀座行きのバスに乗ったっていう情報は聞いてたから、待ち伏せしてたのよ。」

ゆづ「え、ちょっと待って頭の中が整理できない」

ママ「うん。そう思う。でもあなたのお母さんは私に貴方を銀座で育てて欲しいとお願いしてきた。20までの3年は働けないから、ずっと仕送りも送ってきてたのよ。貴方はゆりさんにちゃんと愛されてた。それだけは事実だから。」

ゆづ「急に、、だって9年だよ?9年放置されてると思ってて、実は全部知ってました。って言われても」

ママ「うん。私も何度も会いにきて欲しいってお願いしたんだけどね。。ゆづが二十歳になってちゃんと働けるようになって、No.1になった日に今日だけでも来てくれないかって連絡したんだけどね。その時も頑なに断られて。でも今思えばその時にもう病気が発症してみたいで、ゆりさんって完璧主義でしょ?今の自分の姿で銀座のこの場所にどうしてもこれなかったみたい。それから一方的に連絡を切られて、私も暫くゆりさんと連絡が取れなくなってたの。」

ゆづ「ママのせいじゃない。」

ママ「随分痩せてしまったけど、やっぱり綺麗な顔してるよね。ゆりさん」

ゆづ「うん。」

ママ「ゆづ、貴方はゆりさんに似てるよ。店で接客している貴方を見て、何度もゆりさんかと見間違えた。」

ママ「ゆりさん、ゆづが来てくれたよ。やっと会えたよ」

ゆづ「、、、お母さん。9年分の出来事話さないといけないんだから、早く目あけてくれる?」

(今夜が山場です。みたいな事を言われてそのまま一週間が過ぎた)

看護師「わぁー柚子のいい匂いですね」

ゆづ「母の好きな柚子はちみつ茶をいれてみました」

看護師「匂いも届いてるはずですよ」

ゆづ「そうだとよいんですけど」

私はこの一週間、ずっと母に話しかけ続けた。

この9年間の話をした

お母さんみたいになりたくて、ママみたいなりたくて、努力したこと

女一人が、お金を、稼ぐのはとても大変だということ

そして、今の職場に目の見えない男性がいる事

母はずっと眠ったままだけど、たくさんの話しを母に話した

看護師「菅野さん!!」

ゆづ「お母さん!!?」

一瞬だけ、目を開けた気がした

看護師「何か喋ろうとしてる!口に耳近づけてみてください」

母「き、れ、いにな、っ、た、ね、ゆ、づ」

ゆづ「おかあさん、、お母さん!!お母さん!!」

その日母は亡くなった

必死でお金を貯めてきたのは、自分の老後の事だけじゃない

あの人と、、、

だけどいつか母とも一緒に、暮らしたいと思っていたのに

(葬儀の日)

ママ「これ、ゆりさんが送ってきたし送り。お葬式代もここから出してしまったけど、返しとくね」

ゆづ「え、これはママへの仕送りでしょ。それに私もうお金はいらないの。お母さんは最後にちゃんと私を認めてくれたから。その言葉で十分」

ゆづ「私お母さんの事大好きだったの。だけど、お母さんは抱きしめたり、手を握ってくれたり、そういう当たり前のスキンシップをしてくれなかったの。それが地味に小さい頃の私にはとても寂しかった。だけどね。褒めてくれる時はいつもおでことおでこをくっつけて、「よくがんばったね。」って言ってくれたんだ。」

(職場)

ゆづ「一週間以上お休み頂いてしまってすみませんでした」

院長「いや、まだ無理して出てこなくてもよかったのに」

ゆづ「逆に仕事してたほうが気が紛れるので」

高木「おつかれさまです。あの、お母さまお悔やみ申し上げます。」

ゆづ「ありがとうございます。」

高木「、、、。あのごめんなさい。もしかして笑ってますか?オーラが白っぽくて、落ち込んでるだろうなと思ったのに、いつもよりも明るい色をしているので、、気になって。ごめんなさい、、不謹慎でしたね」

ゆづ「、、w笑ってます。母が亡くなった事は悲しいですけど、この一週間で一番親子らしい関係になれた気がしたんです。だから気持ち的にはとてもすっきりしています。」

高木「そうだったんですね。良かった。」

先輩「そいえば、さっき菅野さん宛にお花持ってきた人いたわよ!すごくきれいなお花!でもあんまり青いお花をプレゼントしようと思わないわよねー」

ゆづ「え、、誰だろう」

院長「おー花一華か。白とか赤とかピンクが一般的な花だよなー。青をあえてチョイスしてるって事は花言葉を意識してる可能性あるな」

先輩「うわ、でた。院長の花言葉うんちく」

院長「えっと、、花一華の青い花の花言葉はと、、」

ゆづ「あーーーいいです!私興味ないので!先輩お花好きでしたよね?あげます!」

先輩「え、いいの?ラッキー」

部屋から出て行く、先輩とゆづ

院長「あ、あった」

高木「院長、花言葉みつけたんですか?」

院長「待望。あなたを信じて待つ。だな」

高木「信じて待つですか、、」

院長「あれー?高木くん気になるの?菅野さん美人だからねー。でも彼女はやめときなさい」

高木「院長こそ、、」

院長「え?」

高木「いや、なんでもありません。すみません。失礼します」