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汚れなき人 第5話:後悔

ゆづ「ねぇ、先生は初恋はいくつの頃?」

山縣「なんだよ、急にw恋でもしてんのか?」

ゆづ「いいから、教えてよ」

山縣「初恋かー俺は多分高校生かなー」

ゆづ「え!?普通初恋って幼稚園とか小学生とかじゃない?」

山縣「まぁその頃も好きな子ぐらいはいたかもだけど、あの初恋はね、一目惚れだったの。初めて見た瞬間に好きになった人」

ゆづ「へぇーそんな事って本当にあるんだね。綺麗な人だったの?」

山縣「もちろん綺麗だったんだけど、なんていうか俺それまでずっと親に引かれたレールの上をただ只管に歩いてきて、何不自由のない生活をさせてもらってて、何も考えず親を継いで医者になるんだろうなーって思ってて、でもあの人に会って、灰色だった世界が初めてカラーに見えた気がしたんだ」

ゆづ「先生、お医者になりたかったの?」

山縣「ううん、逆。俺は医者になりたくないって気づいたの。だから本当に自分がやりたい事を探した。教師になりたかったかは分からないんだけど、今の仕事は自分に向いてると思ってる」

ゆづ「そっか。先生人気あるし、私も先生が先生になる道を選んでくれて良かったw」

山縣「嬉しい事言ってくれるじゃん」

ゆづ「その初恋の人には告白しなかったの?」

山縣「名前も知らない人だったんだけど、奇跡的に再開してさ。でも、、見事に玉砕したw」

ゆづ「えーー運命みたい」

山縣「だろ?w俺もそう思ったんだけどさー。向こうからしたらただの勘違いな奴でしかなかったんだよなー」

ゆづ「まぁそうか、、」

山縣「おいっ!もっとこっちの味方でいてよ」

ゆづ「初恋は上手くいかないって言うもんね」

山縣「そうだなーそう思うと。あの時再開できたことがよかったのか悪かったのか、、綺麗な記憶のまま終わらせれば甘酸っぱい思い出になったのかもだな」

ゆづ「、、、。先生その人と、、」

キンコーンカーンコーン(チャイム)

山縣「あ、ほらチャイムなったぞ、気をつけて帰れよー」

ゆづ「はーい」

菅野ゆづは今の俺のクラスの生徒で、整った顔立ちで透き通る肌の白さは、クラスでも際立っていた

本来ならクラスや学校のマドンナになれる美貌だけど、どこか影のあるタイプで、いつも一人でいる子だった

何故だかわからないけど、俺は時々菅野を目で追っていた

なんとなく、本当に無意識にあの人にちょっと似てるような気がしていたのかもしれない

初恋の思い出

久々に思い出したな

あの人は今何してるのかなー

女の子もきっともう高校生ぐらいか

あの時俺は、、、いや、、

俺は最低だ

元々一目惚れだったから

彼女の事を何も知らなかった

ただただ見た目がタイプだったんだ

それだけだったのかもしれない

人を好きになるってなんだろう

少なくともあの時、俺はちゃんと彼女が好きだったと思う

他の男と話してる姿を見たら嫉妬したし

あんな仕事辞めて欲しかったし

一緒にいたいから、一緒に暮らしたいなぉとかも思ったし

だから彼女と子供のために必死で働こうと思ったし

だけど、そんな思いは彼女には全く届かなかった

彼女が積み上げてきた「男」への絶望感に俺は全く歯が立たなかった

「お金」という糸でやっと繋がれていた関係

あれから俺は人を好きになれてない

どうやって人を愛していいか分からない

親に反発して、やりたい事を見つけたくて結果教師になった

俺がやりたかった事ってこれなのか?

親戚も兄弟もみんな医者

生物や植物には昔から興味はあった

だから後悔はしてない

はずなのに

どこかで今の自分を昔の自分が憐れんでいる気がする

ゆづ「せん、せい?」

山縣「なんだ?お前まだいたのか?」

ゆづ「あ、忘れ物!携帯忘れてて、、って先生もしかして、泣いてる?」

自分でも泣いてることに気づかなかった

山縣「泣いてないわ!あ、さっきあくびしたからかな。いいから、帰れー。」

ゆづ「先生って時々そうやって、死にそうなぐらい寂しそうな顔するよね」

山縣「え?」

どっかで聞いたことあるようなセリフだった

ゆづ「私先生の事好きだよ。先生とどうにかなりたいとか思ってるわけじゃなくて、ただ先生の力になりたいって思うよ」

山縣「わーわーわーわー」

ゆづ「は?w」

山縣「お前なぁそういう事をさらっと言うんじゃないよ。俺だって男なんだからドキッとしちゃうだろ」

ゆづ「ドキッとしたんだ?」

山縣「ニヤニヤするじゃないよ。やめなさい。大人を揶揄うな」

ゆづ「別に揶揄ってないし。でも困らせたいわけでもないから。」

山縣「俺は教師失格だなー。」

ゆづ「ん?」

山縣「如何なる場合でも生徒への気持ちは平等じゃなきゃダメ。でも多分俺贔屓しちゃうだろーな。」

ゆづ「それは多分先生だけじゃないよ?w私男の先生から贔屓されてるもん。多分w」

山縣「お前って、、wっていうか男って、、わかりやすいよな」

ゆづ「私自分が好きじゃないけど、自分の見た目は結構好きなの。それだけは母に感謝してる」

山縣「お母似なの?」

ゆづ「ううん、私はお父さん似だと思う。一回も会ったことないけど。でも昔から美人なお母さんで羨ましいって死ぬほど言われてきたから。その遺伝子の影響を少なからず受けてると思う」

山縣「お母さんどんだけ美人なの?」

ゆづ「え、今そこ食いつくって最低じゃない?w」

山縣「冗談です。菅野は十分魅力的だと思うよ。こんなおっさんが言っても嬉しくないだろうけど」

ゆづ「先生に言われると嬉しい」

山縣「だから、そういう言い方すんなって。」

ゆづ「もしかして照れてる?w」

山縣「照れてません。早く帰りなさい」

ゆづ「ちぇっー。今日は帰ります。でもまたここに来てもよいですか?」

山縣「え?まぁべつに。いつでもどうぞ。愚痴や悩み相談ぐらは聞いてやる!」

ゆづ「良かったw先生の愚痴も聞いてあげるよ」

山縣「生意気言うんじゃないです。早く帰りなさい。」

ゆづ「先生またねー。」

山縣「はい、さよなら」

焦ったーーー。

生徒に告白されるなんて、今までも冗談では言われた事あったけど、、

なんでだか上手くジョークだと笑い流さなかった、、

菅野だからだろうか

ちょっと嬉しかった自分がいたのか?

まさか、16歳だぞ、、

流石にまずいだろ。俺。

変な事思い出してたからかなー



(帰り道)

先生ちょっと引いてたかなー

勢いで告っちゃったけど、、、

まぁ冗談だと思われてたし、大丈夫か

人との距離の詰め方がいまいち分からない

先生は私を受け入れてくれるかな、、

こー言う時お母さんならどうやって仲良くなるんだろう

なんて相談するだけバカだな

あの人は小細工なんて無しで相手から寄り付かせる才能がある

なんでも欲しいものは手にいれてきたタイプだ

私とは違う

なんでも不器用な私とは