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著書【坂本龍一の音楽】に書かれていた音楽理論について (1)

2008年に発売された【坂本龍一の音楽】という山下邦彦氏のよる著書。

この本では、坂本氏のインタビューや作曲時のメモやスケッチや、坂本氏の楽曲を中心にクラシックやポップスのコード進行やメロディーを「独特な音楽理論」で分析されており、とても興味深い内容になっています。

この本が発売された当時すぐ書店に買いに行きました、定価は1万円少しぐらいだったと思います。
1000ページを超える本で重いので、店員さんに「無料で配送できますがいかがしますか?」と言ってくださったのですが、すぐに読みたかったので頑張って持ち帰りました。

このnoteでは、今まで特殊な音楽理論として、[バルトークの中心軸システム]や、

[メシアンの移調の限られた旋法]をご紹介しました。こちらもぜひご覧いただけたら嬉しいです!

【坂本龍一の音楽】での「ディグリー表記」について

まず、おもしろいなと思ったことは→「ディグリーの表記の仕方」です。

ディグリーというのは → そのコードが曲のキーの何番目になっているか、ということを表示するものです。このディグリーを使って楽曲のコード進行を分析したりします。

よく販売されている音楽理論の本は、ほとんど(全部と言ってもいいかもしれません)がジャズ理論の【バークリーメソッド】で書かれていて、
Ⅰ, Ⅱ, Ⅲ といった [ローマ数字] で表記されます。

例えば、キーがCのダイアトニックコードはこのように表記されます。

Cmaj7 - Fmaj7 - G7 - Am7
というコード進行を【バークリーメソッド】のディグリーで表記すると、
Ⅰmaj7 - Ⅳmaj7 - Ⅴ7 - Ⅵm7
というようになります。

【坂本龍一の音楽】で用いられいる「ディグリーの表記」はこちらです。

DO, RE, MI, FA, SO, LA, TI[ドレミを大文字のローマ字] で表記します。

Cmaj7 - Fmaj7 - G7 - Am7
というコード進行を【坂本龍一の音楽】のディグリーで表記すると、
DOmaj7 - FAmaj7 - SO7 - LAm7
というようになります。

まとめますと、key=CのときのCmaj7の「ディグリーの表記」は、
【バークリーメソッド】では:Ⅰmaj7
【坂本龍一の音楽】では:DOmaj7
となります。

【坂本龍一の音楽】での「ファンクション」について

次に、特徴的なのは「ファンクション」についてです。

ダイアトニックコードのファンクションはこのように、
T:トニック
S:サブドミナント
D:ドミナント

として書いています。
Bm7(♭5)のみ ? としています。

この記事の最初にご紹介しました [バルトークの中心軸システム] の記事内で私は、
※Bm7(♭5)は、多くはD(ドミナント)とされていますが、
私はS(サブドミナント)として捉えています。理由はここでは割愛します。
と書きました。

key=Cのときの7番目に出てくるこのコードBm7(♭5)は、
【バークリーメソッド】ではドミナントとして扱いましょう、とされています。

理由としては、
Bm7(♭5) [シ レ ファ ラ] は → G9  [ソ シ レ ファ ラ] のルート音を省略したコード(根音省略形)で、(根音省略形に関しては:クラシックの和声 [理論と実習 (1)] にも書かれています。)

G9はドミナントだから、Bm7(♭5)もドミナントということのようです。

しかし【坂本龍一の音楽】のなかでは、Bm7(♭5)はサブドミナントとして扱われています。なぜそうなのか?どういう違いがあるのか?
その理由は「メジャーキー(長調)とマイナーキー(短調)」の扱い方に違いがあるからです。

【バークリメソッド】と【坂本龍一の音楽】での「メジャーキー(長調)とマイナーキー(短調)」の扱い方の違い

大きな違いはこの部分にあると私は感じています。

【バークリメソッド】での「メジャーキー(長調)とマイナーキー(短調)」

は、 [同主調 (同じルート音を持つもの)] で考えます。
つまり、key=Cに対する [同主調] でのマイナーキーは → key=Cm というように、同じ [C] の音を共通させて考えます。

そうすると、Cmの方にはト音記号の右に調号が付きまして、今回はフラットが3つ付いたキーになります。ダイアトニックコードをそれぞれで書いてみました。
2つのキーには1つも共通のコードが無いことがわかると思います。

ディグリー付きはこういう感じになります。
ディグリーも、メジャーキーとマイナーキーに1つも共通点は無いです。

【坂本龍一の音楽】での「メジャーキー(長調)とマイナーキー(短調)」

は、 [平行調 (同じ調号を持つキー)] で考えます。
key=Cに対する [平行調] でのマイナーキーは → key=Am となります。

今回は調号はどちらも同じです。ダイアトニックコードをそれぞれで書いてみました。
すると、2つのキーはどちらも全てコードが共通していることがわかると思います。

ディグリーを見てみると、
メジャーキーとマイナーキーはコードもディグリーも全く同じで共通しています。

Bm7(♭5) のファンクションについて

では、本題のBm7(♭5) のファンクションについてです。
なぜ【坂本龍一の音楽】のなかでは、Bm7(♭5)はサブドミナントとして扱われているのか。

それは、
key = Cとkey = Amを、メジャーキーとマイナーキーに分けて考えず、ずっと続いているもの。
として捉えていることが大事な考え方です。

key = Cとkey = Amを繋げたダイアトニックコードを書いてみました。
Cmaj7からBm7(♭5)までを見ると:key = C
A7からG7までを見ると:key = Am

のダイアトニックコードになっていて「key = Cとkey = Amは繋がっている」のが見てわかると思います。

Bm7(♭5)のコードは、
key = Cでは:7番目
key = Amでは:2番目

に出てきます。

詳しくは省略しますが、メジャーキーでもマイナーキーでも2番目のコードのファンクションはサブドミナントになります。
なので、
Bm7(♭5)は:key = Cでは7番目key = Amでは2番目に出てくるのでサブドミナントということになります。

key = CでのBm7(♭5)は:ドミナント、
key = AmでのBm7(♭5)は:サブドミナント
と別々で考えてしまうことは「key = Cとkey = Amは繋がっている」ということを考えるとおかしいことになっていまいます。

転調は作曲でよく用いられる手法です、key = Cからkey = Eに転調等です。
大多数の転調は、調号が変化するので劇的な転調感がありドラマティックで聞いたらすぐにわかります。

しかし、
key = Cからkey = Amも「転調」なのですが、ほとんど転調した感が無くドラマティックでもありません。
どちらかと言えば意図的では無く、key = Cで作曲していたのにkey = Amにいつの間にか偶然変わっていた、ということも少なくありません。
「key = Cとkey = Amは繋がっている」ので、一体どこまでがkey = Cで、どこからがkey = Amなのかが曖昧になります。

なので、繋がっているので「key = Cとkey = Amは1つの共同体」と考えてファンクションを統一した方が良いのではという考え方だと思います。

長くなってしまったので、近日にpart.2を投稿しようと思います。
参考になりましたら嬉しいです、お読みくださりありがとうございました!

UN.a 宇津木紘一


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