価値を認めさせる対応

 写真を撮りに行ったら、まず、何に使うのかを聞かれた。証明写真なら、プリクラ的な機械でオッケー。しかし、今回は仕事で使うものだから、背景やらアングル、表情に至るまできちんとしたものが必要だった。2つの用途を説明すると、

「こちらへお座りください。」

とレフ板のあるスペースに案内された。

これまで訪れた数少ないスタジオの中でもちょっと格が違った。手の込んだ機材はもちろん、何より準備の様子に驚いた。とにかく動きが俊敏なのだ。3人がかりで着々とセッティングをして行く。

撮影が始まると、写真屋さんは渾身の技術を駆使して次々とシャッターを切っていく。アシスタントに指示を出し、モデルの私にもポージングの細かい指示を出しながら、次々とアングルを決めて進んで行く。

(これは完全なプロ中のプロだ・・・)

どんな写真ができるのか、ちょっとワクワクしながら、モデル役をこなした。

「いいですね。だんだん、上手くなってきた。」

などと、おだてられて、すっかり気を良くしてしまった。

(ああ、モデルはこういう感じで写真を撮るのか・・・)

「はい、おつかれさまです。」

その後、写真を選ぶ作業に入った。これまでに体験したことのない作業。2枚を比較して、どちらかに⭐︎をつけていく。証明写真用6ポーズ。背景あり3ポーズ。

計9ポーズをチョイス。データがもらえればそれで良かったのだが、「密着」と言われるサムネイルシートに加えて、アルバム作成の提案を受ける。ここで、

「ワンカット、¥?,?00円」

という価格が初めて明かされた。

予算を聞いてからスタートするのが定石だと思っていたが、ここのお店は価格の説明は最後だった。

つまり、素敵な写真を一緒に見せて、この写真の価値を説明し、良いと思えば、お金は出すだろうという想定で商売をするわけだ。プロの腕前の自信から来るプライドを感じた。ビジネスモデルをおさらいしよう。

1 まず写真を撮る体験を先にする。

2 シャッターをふんだんに切る中で、心の抵抗を取り払い、その気にさせる。

3 共同作業の過程を経て、オススメ商品の良さを見せつける。

4 見積もりで高額を示し、妥協点が出たところで、少し安いものを提示。

5 「この先も必要になった時に、持ってたらいいですよ」と、クロージング。

結局、想定予算の3倍の価格で手を打つことにした。車のリース料より高い価格、私にとっては、超お高い買い物である。それでもいいと思い切ったのは、お客をその気にさせた技術料への対価だと考えたから。

帰りがけ、「写真撮るのって面白いですね。」と言ったら、

「いい感じで撮れましたね」と送り出しの言葉をいただいた。

「ありがとうございます。技術があるからですよ。」

とペップトークで返して、店をでる。

次に、写真を受け取りに行く時が、縁を繋げるチャンスだ。顧客としては、高いお金を払うのだから、ビジネスパートナーとして応援してもらえるような関係性を築きたい。お店にとっては、次も使ってもらえるか、それとも1回で終わるか。その時の対応で、お店の価値が問われる。

例えば、注文した本を受け取りに行ったら、その本を平積みで置く本屋。注文された分だけを売って、他の売れる本しか置かない本屋。関係性を築く相手はどちらか?まちの本屋を応援したいから店で注文する。その心理をわかっているかどうか。店主の考え方は並んでいる本をみればわかる。

投資した分は、別の形になって戻ってくる。売り手にとっても、買い手にとっても同じ。ものの価値を決めるのは相手の価値観だということを肝に命じる。その人が幸せになるためのお手伝いをする意識が問われる。













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