オーディオ初心者がゆく、イヤホンレビュー ~イマキュレート・イニング~(音楽編)
はじめに
初めましての方は初めまして、そうでない方はお世話になっております。
Missing、あるいは踪無影勿(あとなし・ような)と名乗るものです。
今年に入ってから四編20機種にわたってレビューを投稿した、オーディオ沼に落ちた人間ではない、普通のオーディオ初心者です。
最後にレビューを投下してから約1ヵ月半が経ち、平穏な日々を過ごしていたのですが、なぜか新たな有線イヤホン3機、『KZ PR3』『Twistura D-Major』『CVJ Night Elf(夜精灵)』が立て続けに手元にやってきたので、やむを得ずこれらについてもレビューしたいと思います。
と、いっても機体としては各々比較的低価格帯のものなので、やはりオーディオ沼からは遠い所にいる感はありますが、よろしければお付き合いいただければ幸いです。
今回、最初のレビューからは時間が経ちましたので、試聴環境や評価基準等を再掲しますが、既読の方は『レビュー本文』に飛んで頂いて結構です。
レビュー方式
試聴環境
デジタルオーディオプレイヤー:SONY WALKMAN NW-A306/MK
オーディオソフトウェア:Spotify(高音質モード)
有線イヤホン接続時DAC:FiiO BTR5 2021(USB-MQA接続)
有線イヤホン接続時は、WALKMAN側の音量を「100」に固定のうえ、DAC側の音量ゲインをいじるかたちにしています。
リスニング環境は家屋の室内で、多少の空調雑音以外は静かな状況での試聴となっています。
試聴楽曲
以下のプレイリストを使用して、一機体ごとに25曲通しで試聴しています。楽曲の表記は省略しますが、私自身が元から知っている曲なので、ジャンルの偏りがあることはご了承ください。
なお、前回レビューから期間が空いたため、もう一度リファレンス機としてSONY MDR-EX800STを用いて耳に評価基準を焼き付け直しています。
レビュー項目
以下の項目について、個人で出来得る限り客観的に評価を行っています。
素点の最大値は「100」で、「70」以上であれば実用に堪え、「80」以上であれば優秀、「90」以上であれば特に優れた特性であることを示します。
・明瞭性
音が耳に明瞭さを伴って届くかどうか、つまりこもった音になっていないかを評価しています。
・分解能
音と音の境界がはっきりしているか、音の要素同士が団子にならず、分解された状態で聞こえるかを評価しています。
・迫力
音の力強さを感じるか、強く圧倒するような音の圧力感があるかを評価しています。
・艶感(質感)
音全体の艶やかさ、逆に言えば粗さのなさを評価しています。高いほど艶のある、なめらかな音として聴こえるという評価です。
・高域
高い音域の質感と、量的な過不足がないかを総合的に評価しています。
・中域(Vo.)
ボーカル域の質感と、量的な過不足がないかを総合的に評価しています。
・中域
ボーカルを除いた中音域、ピアノ・ギター・シンセサイザーなどの質感と量的な過不足がないかを総合的に評価しています。
・低域(Ba.)
ベース音の質感と、量的な過不足がないかを総合的に評価しています。
・低域(B.Dr)
バスドラムの音の質感と、量的な過不足がないかを総合的に評価しています。なお、この項目についてはキック感も評価の中に畳み込んでいます。
・素点平均
明瞭性~艶感(質感)の素点の平均です。基本性能の総合評価と考えてください。
以下の項目は言語的な評価となり、また、個人的な感覚が色濃く反映されていることに留意してください。
・音域バランス
音域の特性を言語的に評価しています。「〇〇特化」であればその音域に特に強みを持つ特性、「○○強化」であればフラットな特性にその音域を上乗せした特性、「平坦」であれば全体がフラットに鳴る特性です。また、「ドンシャリ」は高域と低域が強く中域が弱い特性、「凸型」(一般的に言う「かまぼこ型」)はその逆、中域が強く高域と低域が弱い特性を指します。
・遠近感
音が鳴っている位置が耳から遠く感じるか近く感じるかを概ね評価したものです。近く感じる方から順に、「近+2」「近+1」「中立」「遠+1」「遠+2」となります。
・刺さり(聴き疲れやすさ)
耳に刺さる感覚、長時間のリスニングで耳が疲弊しやすい特性をおおむね評価したものです。疲れの小さい方から順に「小+2」「小+1」「中立」「大+1」「大+2」となります。
・外観
そのまま、見た目のファーストインプレッションです。基本的に本体のみの外観の印象になります。
・装用感
身に付けた時の感触です。この部分は個々人の耳の形などで大幅に変わってくると思いますので、軽く流す程度の記述になっています。
・コメント
音楽を試聴し切ったうえでの全般的な感想です。主に音の傾向などを記述していますが、その他の機能で気になる点があればそれも含んでいます。
・相性の良い曲
25曲を聴いたうえで、そのイヤホンの性能を引き出せる曲を3つチョイスしたものになります。これは全くの主観によるもので、かつなるべく曲が偏らないように選んだものなので、チョイスする人によって全く違う結果になるかと思います。
レビュー本文
それではレビューに移ります。今回は調達した順番でのレビューとなります。
KZ PR3
概算価格:11,280円
接続:有線
ドライバ:1PD[平面駆動ドライバ](13.2mm)
公称周波数:20Hz~40kHz
インピーダンス:15Ω
感度:98dB
(DACゲイン:56)
その他:リケーブル(JSHiFi Hi8)
【外観】
スリットが複雑に組まれた、金属質なフェイスプレートが美しい。内側はクリア素材で、平面駆動ドライバがよく観察できる。
【装用感】
全体は大柄だが、軽量で疲れを感じさせない。耳への接触感はあるが特別不快ではなく、合格点。
【コメント】
全般に音のキレ味を感じる音作りで、鋭く伸びて煌めく質感で、爽快かつ開放的な感覚がある。特に中音以降のボーカルから弦楽器、シンバル音までが広々としたステージ音楽のように聴こえ、残響も適度に有する。
中低域から低域にかけては量感の不足こそ感じないが、全体的に重心が高く感じ、ダークな表現はやや不得手。ただし、スピード感のある楽曲での低音のレスポンスは良好で、DD機とは一風異なった魅力がある。
一方でかなり鳴らしづらい機体で、スマートフォンに変換ケーブルを差しただけでは鳴らし切れない。また、標準ケーブルでは低く感じる明瞭性だが、リケーブルで一挙に化けるため、リケーブルは必須級に思われる。
【相性の良い曲】
PRESERVED VAMPIRE
地球最後の告白を
ハルトキ~Spring Moment~
Twistura D-Major
概算価格:8,800円
接続:有線
ドライバ:1DD(10mm)
公称周波数:15Hz~37kHz
インピーダンス:22Ω
感度:108dB
(DACゲイン:42)
その他:リケーブル(TRIPOWIN C8)
クリアイヤーピース(※標準付属品)
【外観】
D字型の独特な形状の合金製ハウジングは、光沢のある非常に綺麗な仕上げになっている。直線に近い側が前方になる。
【装用感】
異形の機体だが耳への収まりは良い。重量は大きいため、長時間使用時に耳が下に引っ張られる感覚はある。
【コメント】
まず感じるのは高域の鮮烈なノビで、楽曲によっては刺さるラインに差し掛かるほど伸びやか。低音もアタック感が強く、衝撃力を感じるバスドラムと深く響くベースが相まって、高品質のドンシャリサウンドを提供してくれる。
中音域も高・低音の迫力に埋没しないだけの、過不足ない存在感を示す。音場の広さや繊細な質感という点で他機種に一歩譲る面があるが、硬質で余分な残響を抑えた音の個性がマッチすれば、優秀なリスニング機と言える。
標準ケーブルで聴くと刺さりが強く感じるためリケーブルしたが、本機の個性と割り切っても良いかもしれない。
なお、2pin端子がやや奥まった配置になっているため、ケーブル選びは慎重に行う必要がある。※後述
【相性の良い曲】
飛天
Scars
ultra soul
CVJ Night Elf(夜精灵)
概算価格:4,800円
接続:有線
ドライバ:3DD(10mm+6mm/8mm)
公称周波数:1Hz~20kHz
インピーダンス:16Ω
感度:105dB
(DACゲイン:40)
その他:リケーブル(JSHiFi Lavender)
【外観】
何よりも目立つ、魔女っ娘が描かれたフェイスプレートが印象的。プリントは意外と精密に行われているように思う。
【装用感】
かなり大柄な機体のため、耳介への接触面積が大きい。安定性は良好だが、やや違和感があるかもしれない。
【コメント】
重心が低く構えた、3DDという構成を余すことなく引き立たせた、厚みのあるノリの良い音が魅力的。低域の量感は圧倒的だが、バスドラムは輪郭が膨らんだ印象で余韻を引き摺る傾向があるため、キック感はやや弱め。
中高域から高域にかけては、刺激の少ない、透明感のある突き抜け方をする。そのコントラストのためか弱ドンシャリの傾向を示すが、特に女性ボーカル帯のクリアさが非常に目立つ、複雑性のあるサウンドビルドになっている。
異口径3DDに特徴的な絵柄という強烈な個性を持ちながらも、均整の取れたドンシャリサウンドを提供してくれる機体と言える。なお、標準ケーブルも十分に仕事をするが、見通し感の点でリケーブルした方がより詳細になる。
【相性の良い曲】
電波感傷
切札
Killer neuron
あとがき
乱文、長文にて失礼しました。
以前のレビューと併せて、素点平均が高い順に並べた表を掲示しておきます。
特筆すべきはTwistura D-Majorで、アンダー1万円という価格帯ながら88.0点と非常に高い位置に入りました。これはFiiO JH5やradius HP-TWF00に迫るスコアで、コストパフォーマンスという観点では今回最も良好な機体と言って良さそうです。
もちろん、KZ PR3は平面駆動ドライバ機の入門として十分な実力を発揮していますし、CVJ Night Elfも異口径マルチDD機として面白いポジションを確立していると思います。
安価な機体でも、より上位の機体に肉薄する音質を確保できるのがこのカテゴリのストロングポイントですね。
なお、今回三機種全てについてリケーブルを行ったのですが、Twistura D-Majorは本来別のケーブル(TRN T2 Pro)を使用する予定でした。このケーブルはピンのギリギリの位置までシュラウドがあるタイプ(フラット2pin)だったのですが、D-Majorは若干の凹部に端子口があるタイプ(いわゆるCIEM形状)だったため、完全に刺さり切らないという現象が起きました。
幸いKZ ZS6に刺していたTRIPOWIN C8と入れ替えて事なきを得ましたが、リケーブルの選定時には端子部の形状に注意する必要がありそうでした。オーディオ沼に落ちた人間ではない、そのへんの一般人が陥りがちなミスですね。ちなみに蛇足として、TRN T2 ProとKZ ZS6の相性は良好だったものの、再レビューするまでは行かないぐらいの変化でした。
さてさて、20機種を揃えた所で終わるかに見えたオーディオレビューに新たに3機種が加わったわけですが、いかがでしたでしょうか。今回レビューした3機種はいずれも独自の個性がある機体で、イマキュレート・イニング(三者連続三球奪三振)の名を冠するに相応しい回だったと思います。
なお、やるやると言ってやっていない『ボイスチャットやラジオ試聴、あるいはASMRなど、それ(音楽視聴)以外の用途での特性』についての評価の予定は未だに立っていません。まあ、さらに追加の機体が無ければ年内ぐらいにはやろうかな、といった所で、ご容赦を。
それでは、お付き合い誠にありがとうございました。
Missing/踪無影勿
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