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将棋観戦スターターパック

 藤井聡太棋聖のダブルタイトル挑戦で、にわかにまた将棋界に脚光が当たっている。これを機にまた「将棋を見てみようかな」「よく分からないけど見たら面白かった!」と思う人が増えることを期待して、そういう層へ向けて「将棋を見る方法」について書く。気軽に見始めてもらいたいのでなるべくお金をかけずに始められるものを書き出してみた。私(オタク)の主観がとても入っていることに注意してもらいたい。

藤井聡太棋聖の対局が見たい

AbemaTV 将棋チャンネル(無料)Abema TV 将棋チャンネルを見れば間違いない。体感では将棋チャンネルの8割くらいは藤井聡太棋聖なので「時間が空いたから何か見たいな」と思ったときに将棋チャンネルをつけると、大体藤井聡太棋聖の対局を見ることができるだろう。藤井聡太棋聖は現在のところ全ての対局が映像中継される唯一の棋士でそのほとんどがAbemaTV 将棋チャンネルで無料で見ることができるが、王将リーグだけは将棋プレミアム(有料)でしか見られないことに注意されたし。

将棋のことは分からないけど気になる

 Twitterなどを見ていて結構見かけるのが「将棋のことは分からないけど気になる」という層だ。このnoteはまさしくそういった方に向けて書いている。
 まず藤井棋聖の対局中継には必ず解説の棋士がいる。解説を聞けば「なるほど、難しい勝負なのか」「形勢良さそうだな!」とかなんとなくの雰囲気が掴める。解説の上手い棋士は視聴者を「分かった気」にさせるのが上手い。

 解説「この手にはこういう意味があります!(とっても分かりやすい説明)
   この先はこういう風に進むでしょう!(とっても分かりやすい説明)」
 わたし「なるほど分かった!(分かるとは言っていない)」
 解説「(どちゃくそ分かりやすい説明)こういう理由で先手がいいです!」
 わたし「なるほど分かった!(分かるとは言っていない)」

本当に、真面目な将棋ファンには申し訳ないがほぼ観戦専門の私は日々こういう感じで観ている。何だか偉そうにこんな記事を書いているが、このくらいゆるゆるで見ているくらいなので気軽に見始めてほしい。より深く興味を持ったときにでも実際に将棋を指したり棋書を読んだりすれば良いと思う。

 現在の映像中継にはソフトによる形勢判断を示す評価値が表示されることが多いのでそれも一つの判断材料だ。ただし気をつけて欲しいのはこの評価は「この先数十手をソフトが示した通りに指すとこのくらい良いですよ」という数値で、読み筋をよく見ると「こんなん絶対人間には指せない手じゃん…」というような指し手が混ざっていることもよくある。評価値上は80%良し!でも具体的に勝つにはまだ難しかったりして、人間同士の戦いは実戦的には人間の形勢判断の方が頼りになるのだ。

 駒の動かし方もルールもよく分からないんだけど…という場合には詰将棋がおすすめだ。将棋の目的である「相手の王様を詰ます」ということがどういうことなのか分かるし、やっていくうちにそれぞれの駒の動きも分かるようになる。1手詰なら簡単な脳トレくらいの難易度なので気軽に始めやすい。詰将棋アプリもいくつかあるが、解説付きが良いなら書籍がいい。

将棋本としては異例の大ヒットとなったらしいのが詰将棋作家としても有名な浦野八段によるこの『ハンドブックシリーズ』。1手詰からはじまり3手詰、5手目、7手詰まで刊行されている。

 駒の動かし方はなんとなく分かるんだけど…という方は山口恵梨子女流二段がYouTubeに上げている将棋講座がちょうどいいと思う。

駒の損得、玉の堅さ、攻めの早さなど見る上でのポイントをわかりやすく解説してくれている。いずれも将棋を見ている上で必ず出てくる要素だ。

いつでも対局を確認したい

将棋連盟ライブ中継アプリ(月額550円)
 将棋の対局は長い。主な棋戦の持ち時間とおおよその対局時間は以下。

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対局時間は持ち時間をお互いすべて使い切ったらこのくらいかなあ、という感じで内容によってはこれより短くなることもあるし、長くなることもある。過去には深夜にまで及んだタイトル戦(2012年王座戦第4局)や決着に23時間以上を要した順位戦などもある。恐ろしい。
いくら毎日何かしら放送されているとはいえ、その全てを見るのは難しい。でも忙しくても対局はめちゃくちゃ気になる…そんなときに頼りになるのが将棋連盟モバイルアプリだ。このアプリで何を中継しているのかというと棋譜である。

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 このような形で初手から終局まで1手1手が記録され、下のコメント欄に手の解説や控え室の棋士の形勢判断、ちょっとしたミニ情報が記載されている。この棋譜中継が将棋ファンの最もオーソドックスな将棋観戦方法だろう。将棋の対局は映像中継がされる方がまれで、棋譜中継のみの対局の方がずっと多い。(それでも全ての対局が中継されているわけではなく、対局翌日に連盟サイトにアップされる対局結果を見て一喜一憂するファンもたくさんいる)
 この棋譜中継のコメントを担当しているのが観戦記者と呼ばれる方々である。棋譜中継を1局通して見ると指し手の解説はもちろんだが、いかに彼らが我々ファンに少しでも現場の空気を伝えようとしているのかが分かる。

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▲過去の棋譜コメントから抜粋

Twitterには「声に出して読みたい棋譜コメ」というハッシュタグがあり、ファンが思い思いのグッときた棋譜コメントを投稿しているので(多分。私はそうしている)、興味があったら覗いて見てほしい。棋譜中継は対局者が作り上げる将棋というゲームの面白さと共に、こうした読み物としても楽しめる。

 とはいえいきなり課金するのも…という場合は名人戦・王将戦を除くタイトル戦ではPCから無料で挑戦者決定戦や番勝負の棋譜中継が見られるのでそちらを試しに見てみると良いだろう。
※PCから、と付け足したのはこの棋譜中継はFlash Playerを使用しているため
 竜王戦/叡王戦/王位戦/王座戦/棋王戦/棋聖戦清麗戦/マイナビ女子オープン/女流王座戦/女流名人戦/女流王位戦/倉敷藤花

名人戦棋譜速報(有料)
上記のモバイル中継とは別に名人戦棋譜速報という棋譜中継サービスもある。こちらは名人戦に繋がる棋戦・順位戦の中継に特化したサービスだ。モバイル中継ではA級のみ全対局中継されるがB1以下の対局は注目対局が何局か中継されるだけだ。例えば藤井棋聖の師匠の杉本八段の対局が見たいな、と思ってもモバイル中継では見られないこともよくある。そんなときに利用するのがこの名人戦棋譜速報である。
 名人戦棋譜速報では順位戦の全対局(年間約600局)を中継しており、サービス開始後の2003年から現在に至るまでの過去全ての棋譜を見ることができる。モバイル中継に比べて写真の量も多く、こちらも過去分すべて閲覧できるので気になる棋士がいたらそちらも見てみよう。(サンプル)
会員コースがが1日会員/7日会員/60日会員/月額会員と4つあるので目的に合わせて利用しよう。

新聞観戦記を読もう

 対局が終わるとどちらからともなく声をかけて一局を振り返る感想戦がはじまる。お互いどう考えて指していたか、負けた方はどこが悪かったかなどが話し合われる。この感想戦や後日取材の元にまとめて掲載されるのが新聞の将棋欄こと新聞観戦記だ。各棋戦には新聞社がスポンサーについており、主催をしている棋戦の観戦記を新聞に掲載する。どの新聞で何の棋戦の観戦記が読めるかは将棋連盟公式サイトに掲載されているので気になった方は見てほしい。タイトル戦なら1局につき約13回、予選なら約5回ほど掲載される。ちょっとした新聞小説のようなものだ。
※これは私が取っている名人戦・順位戦/朝日新聞で他棋戦については不明
 こうして日々掲載されてる新聞観戦記だが、名人戦を除き特に本としてまとめられることはない。つまり大多数の観戦記は新聞紙上でしか読めないのである。どうしても自分が取っている新聞以外の観戦記を読もうというのならば掲載されている新聞を買うか図書館を頼ろう。

もっとサクッと将棋を楽しみたい

 途中から見ても楽しめるといえば楽しめるが、もう少し軽めに1局通して見たい…そんなちょっとした悩みを解消し、エンタメ向けにギュッと凝縮しているのがAbemaTVトーナメント(非公式戦)だ。今ならすでに放送済みの対局を1局ずつ無料で見ることができる。
持ち時間5分、1手指すごとに5秒ずつ持ち時間に加算されていくチェスのフィッシャールールを採用しており、1局にかかる時間は約30分ほどなので気軽に見て楽しむにはちょうど良いだろう。将棋というと「静かにおじさんたちがのんびりなんかゲームをしている」というのがパブリックイメージかもしれないが、このAbemaTVトーナメントではそんなイメージを覆すようなバチバチの殴り合いをやっているのである。正直公式戦で指している将棋とは別競技と言ってもいいかもしれない。また今年の第3回は団体戦というのが今までと異なるポイントだ。「団体戦だからすぐには投げられなかった(投了できなかった)」「良い流れで大将に繋ぎたい」というような熱いコメントが出てきたりするのもまた良い。

他の棋士も気になり始めてきた

ニコニコ生放送(無料)
 藤井棋聖の対局を見ているうちに段々と気になる存在の棋士が増えていくかもしれない。「この先生の解説面白いな」「対局相手のこの人が気になる」「やたら将棋ファンの間で話題になっているこの人は一体何なんだ」…などなど。AbemaTVでも藤井棋聖以外の対局を放送しているが「いろいろな棋士の対局を見たい」という点ではニコニコ生放送という選択肢もある。最近は社長交代による事業刷新の影響か、将棋放送にも冷たい風を感じたりもしなくはないのだが、ニコニコ動画が積み重ねてきたものはとても大きい。
 親会社であるドワンゴが主催を務める棋戦が第八のタイトル・叡王戦だ。まだ非公式であった第1回から現在タイトル戦が進行中の第5回まで予選から数多くの対局を放送し続け、タイムシフトから今でもそれを見ることができる。叡王戦は予選は1時間、本戦は3時間と比較的持ち時間が短めなところも見やすくて良い。気になる棋士がいたらぜひ見てほしい。解説では穏やかで優しげな棋士が鬼の表情で戦っていたりするのだ。
 もう1つ、現在の将棋界に深く影響を与えたのが電王戦(2011-2017)である。これもまた現在でもタイムシフトで見ることができる。将棋ファンになると無料会員のタイムシフト枠では全く足りないのである。私は「推しの対局料になるのなら…」という思いでプレミアム会員に登録している。
電王戦には豊島竜王、永瀬二冠をはじめとして菅井八段や斎藤八段など現在のトップ棋士が若手時代に参加している。最近藤井棋聖とよく対局している「永瀬二冠」という名にピンと来なくても「コンピューターをバグらせて勝った棋士がいる」という話は覚えている人も多いかもしれない。(正確には将棋の内容でも勝勢だったが、より勝つ確率を上げるためにバグをついたという二重に恐ろしい話である) そう!あれが今の永瀬二冠です!
電王戦では棋士や開発者をフューチャーしたかっちょいい将棋PVがいくつも作られた。今でこそ人間よりもAIが優れていて当然という価値観の時代だが、ほんの10年前までは「AIがプロ棋士に勝つのはまだ早いだろ!」というのが大勢だったのである。古い順からPVを見ていくと当時の空気が少し分かるかもしれない。このあたりの将棋界の動きや空気については文化人類学者・久保明教氏のインタビュー記事が非常に分かりやすい。
「電王戦」5年間で人類は何を目撃した? 気鋭の文化人類学者と振り返るAIとの激闘史。そしてAI以降の“人間”とは?【一橋大学准教授・久保明教氏インタビュー】

またニコニコ独自の「棋士が競馬を楽しむ放送」「詰将棋カルタ」「登山後に山の頂で将棋を指す峰王戦」などの盤外企画もある。参加してくれる棋士に感謝。
こちらはつい最近放送された深浦九段とその弟子佐々木大地五段によるホラゲ実況。(なんでー?!)

【電王戦記念特番】将棋棋士の人狼
古い動画ではあるがこちらは私が羽生九段以外の棋士に興味を持つきっかけとなった放送。この放送で大活躍し、以後も人狼放送によく出るようになったコーヤンこと中田功八段(当時七段)が後の名人の師匠になるとはこの時は思いもしなかった。

NHK将棋トーナメント(Eテレ・毎週日曜日朝10:30-12:00)
 ここまでAbema TVとニコニコ生放送という2つの動画サイトを紹介してきたが、お手軽にそこそこの時間で将棋が楽しめるコンテンツといえば毎週日曜日10:30から放送されるNHK将棋トーナメントだろう。なんといっても録画放送なので1時間半以内に対局が終わることを確約されているのが動画サイトの将棋チャンネルとの違いだ。国営放送らしくお堅めの放送ではあるが、解説に対局者の師匠や兄弟弟子、昔ながらの付き合いのある棋士など対局者との関係が深い棋士を呼ぶことが多くニヤニヤしながら観戦を楽しむことができる。

将棋ペンクラブログ(無料)
 過去の将棋雑誌に掲載された観戦記や文章を引用する形で掲載し、ちょっとした将棋史アーカイブと化しているのがこの将棋ペンクラブログだ。このブログの存在を知った時には「こんなに読むものがあっていいのか……」と震えたものだ。見た感じでは20~30年ほど前の記事が多いだろうか。ベテランの棋士や昔の将棋界が気になったらここで記事を探してみよう。最近ではすっかり「将棋」といえば知的なイメージだが、昔の将棋界はそれはそれは破天荒な将棋指しが多く、めちゃくちゃ面白い。

終わりに

 長々と読んでいただきありがとうございました。自分が思う入りやすい入り口をいろいろ書いてみましたが、その他にもたくさん楽しめる手段はあると思いますので是非見つけてみてください。
ついでと言ってはなんですが私がとっても・大変・すごく応援している豊島将之竜王のことも覚えていただければ嬉しいです。

この記事は「将棋観戦は楽しいぞ」ということと「豊島先生はいいぞ」ということを伝えるために書きました。

それでは良い将棋観戦ライフを!

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