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#みんなどんな入り口から将棋に入って来たの かを考える

 きっかけは不明ですが2021年1月20日頃から突如Twitterで #みんなどんな入り口から将棋に入って来たの というタグにツイートが投稿され始めました。そこで投稿されたツイートを元にテキストマイニングを行い、傾向を測ってみました。私自身が「観る」方にかなり偏ったファンであるため「観る」側の視点が多いこと、単なる一ファンの感想であることをご了承ください。

準備

 Twitterの#みんなどんな入り口から将棋に入って来たのタグに2017/1~2021/1/23までに投稿された約1,000ツイートを対象として取得。以下のようなツイートは文章の分析の際にノイズになりそうなので除外しました。

・明らかなネタツイート
・投稿されたツイートに対する感想ツイート
・文章から具体的な内容が読み取れないツイート(画像や動画などを引用して「これからハマった」など)

 また2020年にどれくらい将棋ファンが増えたのかというところが気になっていたのでツイート内容から年が判断できるものには年代をタグ付けしました。

 計量分析にはKH Corderを使用しています。本来は頻出語を抽出・集計し、その結果からコーディングルールを定めて分析を深める…のだと思いますが、今回は大まかな傾向が知りたいのとコーディングルール設定には自分の思想が表れやすく偏りが出そうだったので第一段階の機械的な分析のみとしました。なので語の細かいニュアンスなどは捉えきれていないところがあります。
参考:KH Coderの主な機能と分析手順
語の抽出段階である程度の表記の揺らぎをまとめています。例として、以下の語は全て「藤井聡太」としてカウントしています。

藤井聡太
藤井聡太くん
藤井聡太君
藤井聡太四段
藤井聡太七段
藤井聡太先生
藤井くん
藤井君
藤井四段
藤井七段
藤井二冠
聡太くん
聡太君
聡太先生

このような感じでデータをまとめて集計を行いました。

頻出語を考える

出現回数15回以上の語をピックアップして1ツイート内によく出現する言葉の組み合わせを見ていきます。

円の大きさは語の出現頻度に比例しており、円と円の距離はテキスト内での語の距離を表しています。例えばクラスター01、02が隣接した位置にあることから

・子供の頃に家庭や学校で将棋のルールを教わり、藤井二冠や羽生九段の活躍からより将棋に興味を持つ
・藤井二冠や羽生九段の活躍から将棋のルールを覚えた

という入り口が推測できます。逆にクラスター01とクラスター03、05は離れた位置にあることから家庭や学校で将棋を覚えて遊んでいたので藤井二冠や羽生九段の活躍とは関係なく将棋に入ってきた人が多い、という見方もできます。
同じ将棋漫画でも「3月のライオン」と「ハチワンダイバー」が全く別のところに位置付けられています。これは将棋の世界を舞台としたヒューマンドラマを描く「3月のライオン」と将棋というゲームを重点的に描いた「ハチワンダイバー」の作風の違いが出ているのかもしれません。
家庭や学校で将棋を覚えたと思われるクラスター02を見ると「父親」「祖父」と男親から教わった層が圧倒的に多いようです。近年は女性将棋ファンも徐々に増えているので将来的には母親から将棋を教わる人も増えてくるのでは?と予想しています。

頻出語のカテゴリを人物/棋戦/作品に絞って抽出しました。


突出している上位2名は予想通り。羽生九段は「将棋の棋士は羽生先生くらいしか知らなかったけど、」という文脈でも多く見られ、知名度の高さを感じます。一方で羽生・藤井の両名に次いで豊島竜王の名前が挙がっていたのは個人的には意外でした。※「豊島?強いよね。序盤、中盤、終盤(以下略)」は「豊島将之」としてはカウントしていません
理由としては近年のタイトル戦登場の多さと電王戦や車将棋など将棋ファン以外からも注目される場によく出ていたことから自然と将棋への入り口となる機会が多いのかなと思いました。木村九段もそれに近いところがあり、ニコ生将棋の大きいイベントではよく解説に呼ばれていたのでそこから「将棋中継って面白い」と思って興味を持ち始めた層が多いのではないかと考えています。

棋戦
電王戦とAbemaTVトーナメントという2つの非公式戦が目立ちます。
電王戦は2012年の第1回から形を変えて2017年まで行われましたが、中でも初の現役プロ棋士VSコンピュータ将棋ソフトの対戦となった2013年の第2回が特に目立ちました。また電王戦が始まる前後から徐々にタイトル戦のネット中継も増え始めたので、電王戦で興味を持った層を継続的な将棋ファンとして取り込めたのはかなり大きそうです。
AbemaTVトーナメントは2020年で3回目の開催で第1回から藤井二冠も登場していたのですが、このタグに投稿されていたのは2020年の第3回に関するツイートがほとんどでした。放送時期が4〜7月と新型コロナによる自粛期間中で家にいる時間が増えたタイミングに重なったことも大きいとは思いますが、これまでよりも人(棋士)にフォーカスが当てられたことにより棋士個人が認知されたことが「将棋を見る」という敷居を下げてくれたのでは?と思っています。

第3回Abema TVトーナメントの特徴
・ドラフト指名によるチーム制
・各チームごとに人となりが分かるような紹介動画の作成(過去回のインタビュー動画よりバラエティ色が強い)
・上記の動画がYouTubeでもアップされたことにより広い層に認知される
・対局中の控え室も中継されていたため棋士同士の関係性が見えやすい

一方で棋戦の中でも最も将棋への入り口から遠いのが「王将戦」というのはものすごく納得感があります。過酷なリーグ戦、タイトル戦での罰ゲー…勝利写真など引きの強い要素はいくつもあるのですが、囲碁将棋チャンネルの独占有料中継のみのため将棋ファン以外が目にする機会が少ないのです。

作品
「3月のライオン」の圧倒的強さ!羽海野チカ先生の前作「ハチミツとクローバー」からファンになり今作の「3月のライオン」を読み始めて現実の将棋にも興味を持った人やその後のアニメや映画化のタイミングなどで入り口になっているようです。
囲碁漫画の「ヒカルの碁」が入っていることに突っ込むところなんでしょうが「ヒカルの碁」がなければプロ棋士・阿部光瑠は誕生していなかったかもしれないので侮れません。私の知る限りではこの作品群の中で唯一「ヒカルの碁」がプロ棋士が将棋を始めたきっかけとなっています。
「マサルの一手!」は知らなかったのですが2001~2006年に森内九段監修で小学館の学年誌に連載されていた将棋漫画のようです。頻出語15以上の中には入らなかったのですが学童に将棋セットがあったからとか公文の教室に貼ってあった羽生名人のポスターを見て、など子供の目に触れるところに将棋があるのは大切ですね。現在学年誌は『小学一年生』以外は廃刊となっているのでコロコロコミックあたりでイナズマイレブンのような超次元将棋漫画でも始まらないかなあと思っています。

語の繋がりを考える

頻出語の中から語と語の関連性を探った結果、いくつかのグループが見えてきました。線の濃さは語の繋がりの強さを表しています。

視聴型
01:「3月のライオン」から将棋に興味を持つ
02:豊島竜王のタイトル戦や車将棋を見て
04:羽生九段や藤井二冠を知って将棋を見始めた
08:ニコニコ動画や電王戦、YouTubeの動画を見て
11:NHKの将棋番組を見て
体験型
03:地元のイベントに参加したり将棋道場へ行く
05,07:学校での流行りやクラブ活動や部活の一環として将棋を始める
09:父親や祖父など家族から将棋を教わる

ただ03のグループや10の棋書(入門書)を買って、というグループはすでに将棋への入り口を通過しているような…。

話題の中心を考える

Centrality=中心性が高いほど「多くの語と関連している、中心的な役割をしている」可能性が高いと考えられるそうです。つまりこの「どんな入り口から将棋に入って来たのか」というテーマにおいては「藤井聡太」が最重要ワードと言えます。続いて「ニュース」「ニコ生」「解説」でしょうか。
個人的に気になるのが「解説」で最近のAbemaTVの将棋中継では解説放送が減り、評価値表示のみの放送が増えています。確かに評価値表示は数字というこの上なくわかりやすい形でどちらが有利であるかを教えてくれますが、人間の勝負という本質を見誤りやすいのではないかと危惧しています。Abemaも私企業なので採算が取れないところにお金をかけるのが難しいのは重々承知ですが、評価値放送にこそ人の解説が必要だと考えているので少しずつ増えてくれないかなあと願っています。

年代別に見る

約1000ツイートの中でおおよその年を特定できたのは約300ツイートと全体の3分の1にも満たず、その多くは将棋界の出来事や特定の対局から判断しているためにかなり観る将棋ファンに偏ったデータとなってしまいました。なのでこれまで以上に参考程度のデータと思って見ていただければ。

2020年にTwitter上で将棋ファンがめちゃくちゃ増えた気がする…という体感は間違っていなかったようです。2008年は渡辺羽生の竜王戦の他にNHKの「プロフェッショナル 仕事の流儀」で「最強の二人、宿命の対決」として森内羽生の同年の名人戦が取り上げられ、そこから将棋に興味を持った人も多かったです。

終わりに

統計の結果がわりと体感通りだったので普通のことを普通に書いた感じになってしまいました。書きながら強く思ったことは
・解説付きの映像中継が増えて欲しい
・ニコ生でもまた将棋中継してほしいなあ………
・イナズマイレブンみたいな超次元将棋漫画が始まってほしい
以上3点です。よろしくお願いいたします。

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