天才的

僕は、人見知りではないが、心を開くのが得意ではない。
昔から何でも噛みつく癖(物理ではない)があるし、自分と同じ水準で会話ができない人間を嫌うくせに、自分より高い水準の会話におびえるどうしようもない人間である。
極めつけには絶賛ニート中なので、社交の場がない。

故に、僕は友人が少ない。

数少ない友人の中でも、特におかしな奴について書こうと思う。
僕だけが友人と思っているという悲しい可能性はいったん無視する。

その人(性別不詳なのでそう呼ぶことにする)とは高校時代に知り合った。他人の身の上話ほどつまらないものはないので、どうやって仲良くなったかは書かない。
とにかくその人は、絵と歌がうまく、小説と映画と精神分析に精通していた。バンド活動をしていたが、なぜか変な奴に絡まれることが多く、解散してはまた組んで、を繰り返していた。
某有名大に入学したかと思えば、すぐに休学した。
「美術をやっている連中の中に入れば、自分も普通の人間だと思ったけど、しょうもない人間ばっかりだ」
と言っていた。
僕は、本当に頭が良い人間は気苦労するんだなと思った。

ハードロックを好む芸術家だが、酒も飲まない、タバコも吸わない、セックスやドラッグもやらない。お菓子だけで生活していそうな青白く痩せた見た目をしていたが、それなりにちゃんと食べる。
制作をはじめると、何日も眠らず食事もとらないことがあるらしいが、僕と会うときはとんでもない量食うこともあった。

僕はその人に多くのことを学んだ。現在進行形で学んでいる。
精神分析の基礎、映画研究の基礎、それらを学ぶ上で読んでおいたほうが良い本を教えてくれた。そのほかにもたくさん議論に付き合ってくれた。

その人と太宰の誕生日に太宰の墓に行ったことがある。
その人が、僕以外の人間との会話を目にするのはその時くらいだ。その人は平気で、何の意味もない嘘をつく。なんとなく、僕が会話をつなぐ。その人は飽きると、他の人と話す僕に気を使って、離れたところで何かを書いていた。

僕は、その人に対して、最大の敬意と、同じくらいの劣等感を覚える。
僕は、その人が大好きである。同じくらい、自分のことを嫌いになる。

その人を見ると、いかに僕がその他大勢であるかを思い知らされる。
天才が好きなので、その人を見るのは楽しい。

とにかく、スゲエのだ。その人が、大成しないならそんな社会は間違っていると言っていい。そのくらい、スゲエ。

僕も頑張らねば。凡人なりに。いや、劣等生なりに。生徒でもないが。


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