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テンプラソバ

シーン1
蕎麦屋さんで昼食をとっている俺
隣では別のお客さんが蕎麦を英語で注文している
お店の入り口の自動ドアはランチタイムだからなのか開いたままである
お店の前に2人の子供(4〜5歳くらいの兄弟)が現れる
少し後からご両親がついてきている


店員「はい天ぷら蕎麦になります!」
ずずずず、、(俺は蕎麦をすすっている)
ず、ず、、
パク
ずず、、、
お店の入り口らへんに子供2人現れる
5歳「あ、お蕎麦だ!」
4歳「お蕎麦ー!」
5歳「お昼ご飯ーーでもお蕎麦はなーー」
4歳「なんでよ、お蕎麦に天ぷら、最高じゃん」


子供よ、その年でもう天ぷらと蕎麦の良さをわかってしまったのか、、、一口目はつゆに蕎麦を少しもつけず蕎麦の風味を楽しんだりしているのか、、、薬味はつゆに入れずに蕎麦に少しだけ乗せて味の深みを楽しんでいるのか、、、そしてつゆの中にエビ天をそっと入れてその中に衣を少しだけ崩し落として次のひとすすりを楽しんだりしているのか、、、もちろん蕎麦湯は欠かせないよな、わさびを少し取っておいて、ネギも少しだけ残しておいて、って考えながら蕎麦をすするとずっと楽しめるよな、、君らにはまだ無理だろうが、大人は日本酒をちろっとやりながらって楽しみ方ができるのはもちろん知っていて先の楽しみにしているだろうが、当然最初に聞かれる冷たいお水か温かい蕎麦茶は蕎麦茶を飲めばその蕎麦屋の実力がわかるとも言われてるくらいだから蕎麦茶を選ぶんだろうな、、、蕎麦はすずっと音を立ててすするのがいつもの事だけども、君もやはり隣に外国人のお客さんがいるとき少しだけ「ん、遠慮した方がいいのかな?それとも日本をそのままストレートに見せた方がいいのかな?」なんていうエンターテイメント的な迷いをしたりするんだろうな、、

そういえば子供の頃祖父の家に行くと必ずと言ってよいほど頻繁に出前を頼んでくれた。普段外食すらたまにしかする機会のないその頃の俺にとってはこの伸びきった麺の薄い醤油味のラーメンや、これまた汁をすって太くなってしまった蕎麦に申し訳なさそうに天ぷらが乗っているものがご馳走であり、楽しみであった。祖父は俺ら子供が蕎麦を頼むとき天ぷらののったいわゆる天ぷら蕎麦を注文すると必ずこう言った。「なんだお前ら天ぷらなんかのっけて。かっぺだなぁ」東京者はそんなもの食べない、俺らが茅ヶ崎から来た田舎者だからかけ蕎麦ではなく派手な天ぷら蕎麦を頼むのだという意味で言っていたのだが、これは単に天ぷらが乗っているものだと値段が高くなるから子供が贅沢をするなとそう言っていたのか、なんとなく田舎者だとからかいたくて言っていたのか、本当に東京の人は天ぷら乗せないのかは今はわからない。ただその俺らに対して悪態をついている時にする少し笑ったような、少し意地悪な祖父の顔が俺は好きだった。今の俺はイタズラをしたり嘘をついたりしているときに独特の顔をしているらしいが、それはその祖父の影響であろう。

そんな事を考えている間に当たり前だが2人の子供達と大人達はなんの余韻も残さずいなくなっており、俺は最後の一口を少しだけ遠慮がちにずずっとすすり、残しておいたお猪口1杯の亀の尾を飲み干し、蕎麦湯に残しておいたわさびとネギを入れ2口飲み席を立った。

今日も良い日になるだろう。


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