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きっとどこにでもある話


父のことが幼い頃から苦手で、嫌いだった。

でも、家族だから好きにならなきゃいけないと思っていたし、私の周りは学生時代から父親と仲の良い友達が多かったから、父のことが嫌いな自分は変なんじゃないかと思っていた。

いつか私が大人になって、結婚して、家族というものを理解できたら
父を許せるし、好きになれると信じていた。

それが「父が嫌いなんて変なんじゃないか」と思う自分の希望でもあった。

でも、私は31歳になって、結婚して夫と暮らしているけど、やっぱり父を好きになれない。


私の地元は雪の降る田舎で、母は専業主婦で、父は仕事をしていた。進学させてもらったし、何不自由ない暮らしをさせてもらった。

だけど、父方の祖父母の介護を母がずっとしていたことや、私と兄の子育ても全て母に任せ切りだったこと。それに対して父が、母本人に一度も謝意を述べなかったこと。全部が許せなくて、嫌いで仕方なかった。


酒を飲んで暴れて帰って来ること、吐いてトイレを独占すること、プライドが高く傲慢で、被害者意識が強いところも、自分勝手で押し付けがましいところも、大嫌いだった。


小さい頃にお酒を飲んだ父に「あっちで遊べ」と怒鳴られたことも、必死で勉強して挑んだ高校受験の当日に「お前どこの高校受けるんだ?」と冗談で聞かれたことも、私の夫の名前を何度も聞いてきたことも(多分覚えてるくせに)、もう亡くなった私の友達を馬鹿にしたことも、全て嫌だった。


こないだ、用事があって実家に帰った。
母はもう専業主婦ではないのに、相変わらず父は家事のすべてを母任せで、話し合おうとすると不機嫌になり怒鳴り散らしては有耶無耶にしていた。

だから介入して、なるべく穏便に話し合わせようとしたけど、駄目だった。
「お前には関係ない」「偉そうな口を聞くな」「今すぐ帰れ」「二度と来るな」「誰が育ててやったと思ってるんだ」「進学もさせてやったのに」と怒鳴りつけられ、もう全てどうでも良くなってしまった。

この人は大声を出すことしか出来なくて、話し合いも出来ない宇宙人なんだなぁと心から思った。

だから私は、言われたままにすぐ家を出て、二度と実家には帰らないと決めた。
母には悪いが、説得なんてとてもじゃないけど出来なかった。


幸い、母は私と同じバンドを推しているので、ライブの際に東京で会えるし、しょっちゅう電話もしている。介護などが必要になったらその時考えることにした。




父が嫌いだとか、仲が良くないと人に言うと、
「育ててもらったんだから感謝して、あなたが優しくしてあげなさい」と言う人がいる。

それも分かる。
感謝の気持ちがない訳じゃない。
私も仲良くできるものならそうしたい。 
だけど許せない気持ちは消せない。


もし、私と同じように家族の誰かを好きになれない人がいたら。

私は絶対に「もっとあなたが歩み寄りなさい」なんて言わない。あなたはもう、相手を好きになろうと努力をしていると思うから。それでも、どうにもならないことはあるから。

血の繋がりなんて関係ない。気の合わない相手も、好きになれない相手も、嫌いな相手もいる。
だから逆に、血も繋がってないのに、気が合う人や好きになれる人が世の中にはたくさんいる。



たかが家族だ。
仲が悪くても、世界がなくなるわけじゃないよ。

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