#好き033 バガボンド
井上雄彦の宮本武蔵漫画。圧倒的な画力と、人間味あふれる様々なキャラクター、そして何よりも宮本武蔵の魅力にあふれた最高の作品である。原作は吉川英治の小説であり、この時点ですでに史実とはかけ離れているようなのだが、バガボンドでも井上雄彦によるさらなる脚色が多く見受けられる。宮本武蔵は五輪書を代表とする本人が著した文献が存在しているため、吉川英治の小説をベースとした、井上雄彦なりの宮本武蔵とその時代に生きた人々の死生観を表現した作品、なんだと私は受け止めている。はっきりいって、原作の小説とは全然違う(小説も面白い)。井上雄彦なりに宮本武蔵に真摯に向き合った結果、どんどんと深掘りをし過ぎて原作そっちのけになったのではないか?と思っている。そん理由があってかどうかは知らないが、本作は完結することなく連載が終わっていて、ものすごく中途半端なところで物語が途切れているのだ。是非とも井上雄彦氏には、生涯を掛けていずれは続きを執筆して頂きたいと願っているのだが、実のところを言うと、バガボンドは未完のままでも最高の作品だと思っている。佐々木小次郎との決闘の結果が気になるのであれば、吉川英治の小説を読めばいいので、オリジナル作品の未完に比べれば、遙かに罪は軽いはず…
なお、武術家の甲野善紀と井上雄彦との対談を記した武術への招待という本がある。これはバガボンド連載中に発刊されたもので、その時に「バガボンドで宮本武蔵の生涯を何処まで描くつもりですか?」という質問に対して「決めてはいませんが、少なくとも巌流島の戦いまでは描くつもりです」といった回答をしている。また、とても意外だったのは、井上雄彦は宮本武蔵のことをとことん研究して満を持してバガボンドの連作を始めたものと思い込んでいたのだが、対談の内容からは、初めからそこまでの覚悟があったわけではなく、連載を続けながら宮本武蔵のこと武術のこと武士のことを学んでいるという印象を受けた(甲野善紀との対談も、おそらくその一つ)。その結果として、本人にとっても予想以上の深みにはまってしまって、続きを書けなくなってしまったのであれば、それはそれで潔く好感が持てる。それほどまでに、バガボンドは魂が込められた作品だと思う。
スラムダンクも最高だし、自ら監督を務めた映画「THE FIRST SLAM DUNK」でも度肝を抜かれたけど、私は今でもずっとバガボンドを求めている。
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