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手紙 東野圭吾【読書感想文】

20年ほど前に、毎日新聞で掲載されていた小説で、私は最終話とその前話ぐらいだけ読んだ。それからしばらくして直木賞の候補に上がったが落選、たまたま見た選評が酷評だった。刑務所から届く兄の手紙の内容がきれい過ぎる、出所したら風俗に行きたいの一つでも書いたほうが現実味があったとか何とか、という理由だった。

その後、映像化されたが今人気の俳優が出演するんだーぐらいで、特に気にも止めなかったし、東野作品を読むようになった近頃になっても『手紙』は候補に上がらなかった。

が、ががが。『東野圭吾公式ガイド』を読み、真っ先に購入したのがこちらの本である。以下、作者自身による作品紹介文抜粋

まず、刑務所から弟宛に届く手紙はどんなものだろうと、思ったんですよ。それで法務省に取材にいったら〜中略〜それで刑務所から呑気な手紙が来る、その手紙によって弟が苦しめられる、という話にすることにしたんです。

兄が強盗殺人犯ということが、就職や恋愛、あらゆるところで枷になる、ところが兄はそれに気づかず、かわりばえしない毎日だとか、子どもの頃に母親と3人でいった花見の思い出話だとかを連ねた手紙を弟によこしてくる、この構図に非常に興味を持った。

似たようなことってないだろうか。元凶をつくったのはそっちなのに、こっちの気も知らず呑気なメールを送ってきて困惑させられるなど。私にはあるので、この弟、なおきがどのように苦しめられ、そこから打破するのか興味があり読み始めた。

で、以下は読後感想。まず、残された犯罪者の家族を書いた重い話という先入観があったが、そこまで重っくるしい気持ちには陥らなかった。離れていく人がいる一方で、所々で救いとなる人が現れるからだ。知っても変わらず付きあい続ける友人、受け入れて覚悟を決める女、世間を教えた上で、なおきにどう歩むべきかを考えさせる社長など。

元々なおきは頭がよく、容姿も良い好青年のようで、だからこそ犯罪者の家族になったことで被る不幸も際立つのだが、まあでも元がいいわけで、だから仕事もできて女にももてる。それもあって読んでいる読者、少なくても私は気持ちがどん底まで陥らずに済んだ。

残念だったのが、加害者とその家族はどう生きたらよいかという東野さん自身が出した答えを、先に知ってしまったことだ。帯に書いてあったのだ。『会社の社長のアドバイスに込めました』と公式ガイドに書いてあったので、それも読む楽しみだったのに、そのままセリフが乗ってた。公式ガイドでは伏せていたに。帯にセリフを入れたのは東野さんの本望ではないと思う。

最終話とその前話を読んだとき、そういえば読んだことあるなと少し記憶を引き出せた。でも最後の最後はまるっきり忘れていて、ああ、そんな終わり方だったんだなーと。最後一文を読んで、もやもやする人もいそうだが、私は嫌いではない。だって生きるって、はっきり、すっきりしないことだらけじゃないか。

なお、公式ガイドによると、これを読んだ死刑囚から東野さんは手紙をもらったそうだ。以下抜粋

〜から手紙をもらったんですよ。「あなたはなぜ私たちの気持ちがこんなによくわかるんだ、あなたにも殺人者の素養があるとしか思えない」って。ちょっとショックでしたね。

東野さんは、解説に『売れませんでした(笑)』と(笑)を文末によくいれるんだけど、これにはナシ。なんだかマジでショックだったようで(笑)それがちょっと可笑しくて(失礼っ)読みたくなったのも一つだ。

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