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辞書の話②~書棚に英語辞典が増殖するワケ

 世界中の様々な用法、英語の歴史的発展をたどった英語辞書の最高峰の一つOED(The Oxford English Dictionary)は本編20巻、補遺3巻という圧巻、学術研究にはうってつけ。欲しいのはヤマヤマですが、さすがに置き場に困るのでなかなか手には入れられません。その代わりに、自分の書棚には様々な英語辞書が占拠しています。

 英語辞書(英英辞典)だけをとっても、OEDのオックスフォード系列では、CED(The Concise Oxford Dictionary)コンサイスオックスフォードディクショナリー(第7版)やPOD(The Pocket Oxford English Dictionary)ポケットオックスフォード(第7版)、さらに、Oxford Advanced Learner's Dictionaryオックスフォード現代英英辞典(第4版)。さらにBerlitz Dictionary of American Englishなど。さらに英和辞典、和英辞典も数多く収まっています。

 そんな英語辞書だけに特化して書かれた本があります。

「英語辞書の周辺」(1983年/三省堂選書)

 著者は鵜澤伸雄さん。(株)三省堂に入社し長きにわたって辞書編集に携わった方です。この本の裏表紙には読者へのメッセージが短く記されています。

学生時代から「英語の辞書を読む」ことに夢中になってしまった。いってみれば「辞書につかれた」のである。辞書の出版社に入って足かけ29年、その大半を辞書編集者として過ごせたのは幸運であった。その間に、編集者としての発言を何回か求められたことがあり、本書はそれを一冊にまとめたものである

 「そして、僕はOEDを読んだ」の著者アモン・シェイさんと同じく、鵜澤さんも「辞書を読んだ」うちの一人だったのです。

 そして私が英語辞典を一冊だけでなく複数冊持つきっかけになった一節が本のなかに記されています。第一章、英語辞書の引き方「LOD3とPOD4」です。

辞書を引くのが上手、というのは、一つは自分の調べる目的に一番適した辞書をすぐ手に出来る人のことではないか。一例だが、熟語を調べるのにLOD(Little Oxford Dic.)を引いてもそれは無駄である。LODはそれらを収録していないのだから、その代わり、たとえばE.M.Forsterの『インドへの道』(A Passage to India)を読む時には、この小辞典はそれよりずっと大きな辞書よりはるかに有効である。LODはインドなど(当時の)英国自治領の語彙・意義。用法を丹念に拾っているからだ。

 著者は、各事典には持ち味があり、一冊で解決できるジョーカーのカードのような辞書はないことを記しています。この部分を読んで以来、英語辞典の種類が増えていくことになったのです。さらに調べていくとCOD(The Concise Oxford Dictionary)は、歴史的視点は取り入れず現代英語のみをカバーする役割で編纂されたことがわかったのです。さらに、CODはOEDを基にして編纂されたわけなのでOEDの子辞典、しかしPODとOEDは親子関係はなく、PODの親辞典はCODにあたるので、OEDからすれば孫辞典にあたることなどがわかってきて、俄然、CODもPODもLODも手元に置きたくなってきたのです。さらに、版によって内容が異なるわけですから、古書店で前の版のがあったりするともう大変なわけです。

 「英語辞書の周辺」にある英語辞書の引き方のタイトルでも「LOD3とPOD4」とあるように、LODの第三版とPODの第四版と明確に記しているわけで、その版違いが結構大切だったりするようなのですね。

 著者はこう記しています。

そのためには、何よりもまず各事典のPrefaceをよく読んでおかなければならない。ところがこの凡例というもの、たいてい小さな活字でぎっしり組んであって、読み通すのはおっくうなものだ。しかし読んでいるのといないのでは、結局能率の上で大きなちがいを生じる。

 と書いてあるのです。

 POD第七版のPreface

 確かに小さくて読む気にはなれません。辞書で「調べる」のが目的であれば、現代ですからデータベース化されたあらゆる辞典の全ての項目をビッグデータとして取り扱えば、用法の違いや意義、歴史経緯など一発で検索、検討できるのかなとも思います。ですが、「辞書を読む」ことの楽しさを見出してしまうと、このPrefaceですらそれぞれの辞書と版における「特徴あるコンテンツ」として価値あるものに見えてくるのだから不思議です。

 だから、単純な作業や仕事は機械化させて可処分時間を生み、その時間で一つの単語のCODとPODの表記や解説の違いなどを楽しむのも一興ですね。

最後までお読みいただきありがとうございました。




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