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【耳をすませば】目では分からない世界の奥行きが分かる

酒井貴弘さん撮影

パターン・ランゲージは、詩との関係が深い理論です。

クリストファー・アレグザンダーさんは、本書の中で、

「パタン・ランゲージ―環境設計の手引」クリストファー・アレグザンダー(著)平田翰那(訳)

「詩学」(ポエジー)という言葉を用いて語っていました。

【参考記事】
パタン・ランゲージ (pattern language) は、クリストファー・アレグザンダーさんが提唱した、建築・都市計画に関わる理論。
単語が集まって文章となり、詩が生まれるように、パターンが集まってランゲージとなり、このパタン・ランゲージを用いて生き生きとした建物やコミュニティを形成することができるとされる。

さて、本書は、深く音楽を愛する谷川俊太郎さんが、60年を越える創作の中から、

「沈黙と音と言葉」

についての詩とエッセイで編み上げられている魅力的な本であり、

「聴くと聞こえる on Listening 1950-2017」谷川俊太郎(著)

以下の点が、とても参考になります。

「言葉というものが何でも語ることができると思ったら大間違いだ。」(p.52)

「たとえば、言葉は音楽を語る事ができない。

音楽をめぐるいろいろな事、或いは音楽を聞く自分を語れはしても、音楽そのものは語れない。」(p.52)

「だが人間として生きること、それは沈黙して生きることであってはならない。

そして特に詩人として生きること、それは言葉や声がどんなに信じ難いものであるにせよ、沈黙ではないものに賭けて生き続けることに他ならない。

人を互いにむすびつけることだけが言葉の機能ではない。

言葉は人間のものであり、同時に人間のものでない。

〈青空よ…〉と詩人が呼びかける時、詩人はその言葉を、自分と、青空と、そして人々のために云うのだ。

そしてそうすることで、詩人は青空と戦い、かつむすばれる。」(p.108)

確かに、実践知は、身体的なものであり、

「言葉で表せるわけがない」

と言われれば、そうかもしれません。

ただ、それは、当然であり、言葉で、何でも表現できるなんて、思っているわけではないのですが(^^;

詩人が、

■世界について

■音楽について

■沈黙について

語るように、クリストファー・アレグザンダーさんも、私たちも、なんとかして、言葉にしようとしている筈です。

「プロの小説家が教える クリエイターのための語彙力図鑑」秀島迅(著)

そのものは、伝えられなくても、それが、どのようなものであるのかを。

人は、誰しも、心の中で、詩的に表現し、必要に応じて、対話の中で共有しながら、

「対話のことば オープンダイアローグに学ぶ問題解消のための対話の心得」井庭崇/長井雅史(著)

「対話型ファシリテーションの手ほどき」中田豊一(著)山崎美帆(イラスト)

言葉の限界を理解した上で、

■表せることに賭けている

■そこに挑んでいる

のではないでしょうか。

一筋縄ではいかない、身を削るような作業な筈ですよね(^^;

それは、人と、そして、社会・日本・世界・宇宙と向き合うことであり、言葉にならないものに、

■眼差しを向けて

■耳を傾けて

上手にできない事の方が多いけど、それでも、そのための言葉を、紡いでいくということなのではないかと考えられます。

また、本書にて、

「声が世界を抱きしめます 谷川俊太郎 詩・音楽・合唱を語る」谷川俊太郎(著)中地雅之(編)

■詩は、存在を表している。

■散文(小説など)は、因果関係や背景等、様々な事を描いて成り立っている。

事を知り、本書では、

「みみをすます」谷川俊太郎(著)柳生弦一郎(イラスト)

言葉は、心や体に、響くということを、実感できた、そんな詩集でした。

みみをすます
じゅうまんねんまえの
こじかのなきごえに
ひゃくねんまえの
しだのそよぎに
せんまんねんまえの
なだれのおとに
いちおくねんまえの
ほしのささやきに
いっちょうねんまえの
うちゅうのとどろきに
みみをすます
( “みみをすます”より )

素人ながら思うに、何かを「伝える」には、そこだけにフォーカスするのではなく、例えば、

■伝え合うより、受け取り合うこと。(初めましてのような気持ちで、相手の気持ちに向き合ってみることを忘れずに。)

■伝えるって、つなぐこと、だと思う。(自由に、人が、人と会えなかった時代であれば、会えない時間は、会っている時間より、人を想っている。)

■あるべきって、ないべき。(どうあるべきとか、こうあるべきとか、そんな決めつけから、とっとと卒業。一歩引いて、じっくりと考える。)

の様に、言葉も音楽も変わりなく、特に、音楽は、ただ、間違いなく、演奏されればいいというものではなくて、

■その旋律に込められた、作曲家の、そして、演奏する人間の思い。

■瞬間の音色の美しさと、メッセージ。

その両方に、心を動かされるのではないかと思われます。

それは、まさに、

「高度な知の共鳴」

でもあると、言えるかもしれませんね。

人は、心動かす演奏によって、どこまで、その領域に、踏み込んでいけるのか?(冒険)

人は、心動かす演奏によって、どこまで、人の心に、近づいてゆけるのか?(挑戦)

この本も、読んで頂けると、本書で取り上げられている音楽家のことを知らなくても、文章から、音が聴こえてくるように感じられるのではないかと、そんな風に思います(^^♪

そう思うのは、日本語で、ここまで音楽を表現するのって、とても、難しいんじゃないだろうかと、感じられたからです。

「天国からの演奏家たち」池田卓夫(著)

Vol.1 アイザック・スターン ヴァイオリンの謙虚な「王様」
Vol.2 ヘルベルト・フォン・カラヤン 日本では発揮することなく終わった「カペルマイスター」の真価
Vol.3 中村紘子 勝気でシャイ、最期まで努力家だった「天才少女」
Vol.4 栗本尊子 大正・昭和・平成を生き抜いた偉大な歌の女神
Vol.5 クラウディオ・アバド 「本番憑依」の天才、パスタ談義で盛り上がる
Vol.6 武満徹 取っつきにくい風貌、だが「話せばわかる」宇宙人
Vol.7 イダ・ヘンデル アルゲリッチを〝特訓〟した作曲家の使徒
Vol.8 ラドミル・エリシュカ 札響をこよなく愛したチェコの名匠
Vol.9 マリス・ヤンソンス 「命がけ」で全身全霊切り刻み、音楽と人間に尽くす
Vol.10 ヘルマン・プライ 自然児パパゲーノのように…、天衣無縫の人生を全う
Vol.11 イヴリー・ギトリス クリスマス・イヴに「星」となったヴァイオリンの怪人
Vol.12 アリシア・デ・ラローチャ 小さな手の大きな「ピアノの女王」
Vol.13 ジェリー・ハドレー あまりに「いい人」過ぎた米国人テノールの蹉跌
Vol.14 ニコラウス・アーノンクール 「基本は一人の再現芸術家」の分をわきまえる
Vol.15 ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ 最後まで舞台人の矜持を護った歌のエンサイクロペディスト
Vol.16 クラウディオ・アラウ 「リストのそばにいた」巨匠ピアニスト
Vol.17 ロリン・マゼール 稀代の「指揮ヴィルトゥオーゾ」の光と影
Vol.18 ヤーノシュ・シュタルケル 「気は優しくて力持ち」のチェロ名人
Vol.19 セルジュ・チェリビダッケ 実は人懐こかった孤高のマエストロ
Vol.20 エディタ・グルベローヴァ 孤高、永遠の「ルチア」&「ツェルビネッタ」
Vol.21 ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス ブラームスを愛し、愛された「スペインのドイツ人」
Vol.22 アルド・チッコリーニ 「望郷の念」を歌い上げて日本に別れを告げた「パリのイタリア人」
Vol.23 朝比奈隆 「明治人の教養」を体現した巨木のようなマエストロの〝人くささ〟
Vol.24 渡邉曉雄 「日本フィルの父」、世界に人脈を広げた外柔内剛のモダニスト
Vol.25 山田一雄 「指揮台の万年青年ヤマカズ」、マーラー孫弟子の自負にかけて
Vol.26 岩城宏之 木琴から半音に目覚め、指揮者になった昭和の快男児
Vol.27 若杉弘 オペラに生涯を捧げた哲人マエストロ
Vol.28 大町陽一郎 楽長らしく豪快にざっくりと、欧州楽壇で活躍
Vol.29 テレサ・ベルガンサ 「ベルカントの源流」自負、メゾの頂点極める
Vol.30 ジュゼッペ・シノーポリ R・シュトラウスの作曲技法を熱く語る

【今、読んでみたいなと思っている本】
「音の本を読もう 音と芸術をめぐるブックガイド」金子智太郎(編)

「音と脳―あなたの身体・思考・感情を動かす聴覚」ニーナ・クラウス(著)伊藤陽(訳)柏野牧夫(解説)

「NEIRO よい「音色」とは何か」横川理彦(著)

【参考図書】
「日本音楽の構造」中村明一(著)

「フィールド・レコーディング入門 響きのなかで世界と出会う」柳沢英輔(著)

「新装版 世界の調律 サウンドスケープとはなにか」(平凡社ライブラリー)R.マリー・シェーファー(著)鳥越けい子ほか(訳)

「音さがしの本 ≪増補版≫ リトル・サウンド・エデュケーション」 R.マリー シェーファー/今田匡彦(著)

「倍音 音・ことば・身体の文化誌」中村明一(著)

「西洋音楽理論にみるラモーの軌跡」伊藤友計(著)

「ハーモニー探究の歴史 思想としての和声理論」 西田紘子/安川智子(編著)大愛崇晴/関本菜穂子/日比美和子(著)

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