ことばと思考

『ことばと思考』

読むように指定された本シリーズ第3弾です。指定された本シリーズの中でも読みやすい本でした。

【概要】
本書は「異なる言語の話者は、世界を異なる仕方で見ているか」というこれまでの問いを実験によるデータに基づき、科学の視点から考え直すモノです。同時に、ことばの学習が子どもの知識や思考の仕方をどのように変えるのか、ことばの存在あるいはことばの使い方が私たち大人のモノの知覚の仕方、記憶、推論や意思決定にどのような影響を与えるかという発達心理学、認知心理学、脳科学の観点を織り交ぜて、人にとって言語はどのような存在なのか、という問題に対して言及します。

【書評】
本書の中の実験の1つに、言語を通すことで認知にそれぞれ歪みが生じることが記されています。2つのまるを繋げただけの絵をみたとき、その絵を見ずに記憶を頼りに描いてみる実験についての記述がありました。通常であれば難しいことではありませんが、被験者を2つのグループに分けてそれぞれ「ダンベル」「メガネ」というラベルと一緒に見た結果、それぞれのグループが思い出して描いた絵は、最初に見せた絵とは異なる絵を描いていました。つまり、同じ絵を見せられても、その絵に名前がつくと、名前によってその記憶が大きく変わってしまいます。私たちが、無意識に何気なくみている世界の見方や記憶にことばは大きな影響を与えていることがこの実験からわかります。
言語は人の思考の様々なところに入り込み、色々な形で影響を与えます。世界に対するものの見方を変えたり、記憶を歪めたり、判断や意思決定に良くも悪くも影響します。当たり前のように異なる言語の話者に共通した、認識の普遍性や認知の偏りは存在します。
外国語を学ぶときの動機に、外国の人とコミュニケーションをとりたいから、海外にいってみたいから、仕事で有利になるからが多くあげられます。しかし、本書では外国語を学ぶことで、自分の中の認識を変えることができると書かれています。母語しか知らないと、母語での世界の切り分け方が世界中どこでも標準的なものだと思い込み、他の言語での切り分け方に気づかない場合が多いです。同じもの、同じ事象を複数の認知の枠組みから捉えることで、思考を大きく変容させます。
自分の思考を通してみている世界はまだまだ狭く、コミュニケーションやビジネス以前に多言語を学ぶことで、自分自身の世界の捉え方を増やし、思考の幅を広げられる可能性があると考えました。このことは、母語以外の言葉が普段の生活や仕事に必要かどうかに関わらず、多くの人に知ってもらいたい事であると感じました。

ことばと思考
著/今井むつみ

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