12シトライアル第四章 勝負のX-DAYpart40
第百二十四話 各々の激励
先輩たちの試合の決着がまだついていないことを不思議に思った俺は、先輩たちが試合をしているコートに近くの席を目指す。先輩たち、果たして大丈夫だろうか。いつの間にか負けてた、なんて事態が起こっていないだろうか。
「とーる!」
一人歩いていたところ、後ろから由香里が追いかけてきた。
「先輩たちまだなんでしょ?あたしもちゃんと先輩たちの勝ちを確認して決勝行きたいから観たい!決勝で先輩たちと闘うって決めたじゃん!」
そう、その一心で俺も先輩たちの試合を観に行くところなのだ。
「だよな。悪いな、お前を置いて先に行って。」
「まあ、そんな集団行動が苦手なところがとーるの性なんだからだいじょぶだいじょぶ!」
しれっとぼっち陰キャ属性を揶揄された。
閑話休題。先輩たちが試合をしている台は東帆高校の観覧席とは真逆の方角に位置するので、アリーナを半周せねばならずなかなかに時間がかかったが、やがて辿り着いた。しかし、コートを観ると先輩たちの姿も相手の姿もなかった。移動している間に決着がついたのか?だとしたら…頼む、勝っていてくれ!そう思ったが、杞憂だった。
「徹!お疲れ!」
後ろからよく知る声に名前を呼ばれると共に肩を叩かれたので振り返ると、桜森先輩と春田先輩が笑顔で立っていた。その表情から俺は悟った。
「やったー!勝ったんですね!」
しかし声に出すのは由香里に先を越された。
「由香里ちゃんと徹くんと当たるまでは何が何でも負けられないって思ってたからね!」
「まあ、途中ちょっと冷や汗かく場面はあったけど…莉桜がなんか決勝行かなきゃってプレッシャーで、途中から動きめっちゃ硬くなってさー。」
「ちょっ!春希!それ言わないでよ!まあ、その節は申し訳ございませんでしたーっ!」
「でも結局は決勝行けたからよかったじゃん?」
「春希は私を下げたいの?上げたいの?」
まあまあ…と桜森先輩が宥めた。なんだ、この痴話喧嘩みたいな会話展開は…
「ともあれ!これでお互い県大会決まった状態で決勝でぶつかるっていう目標は達成できたことですし…」
「決勝戦、よろしくお願いします!!」
「「よろしく!!」」
これでお互い、条件は同じ。お互い県大会に進むことは決まった上で勝った方がチャンピオン。それだけである。シングルスの時のように勝った方が県大会などという、今後を左右する大一番にならなかったことが個人的には一番嬉しい。無駄に気負う必要がなく、闘いに集中できるからだ。
一旦観覧席に帰ってから10分程経ち、他の試合が全て終わったところで、男子ダブルスの決勝戦と3位決定戦、女子ダブルスの決勝戦と5位決定戦のコールが入った。そしてミックスもまず3位決定戦のコールが入った後、遂に…
「ミックスダブルス、決勝戦。東帆高校、桜森くん、春田さん。同じく東帆高校、岸くん、織田さん。10コートで試合です。」
俺たちの決勝戦もコールを受けた。
「お兄!決勝戦ファイト!!自分自身と相棒を信じていけー!!」
「由香里!徹くん!遂にだね!優勝してね!」
「お二人なら大丈夫です!!」
「とーくん…おめでとう。」
約一名気が早いヤツがいたが、そこには触れないでおこう。
「岸くんも由香里ちゃんも頑張ってね。ただ…ごめんなさい、さっきも言ったけど私、今回はあの二人の応援に徹させてもらうわね。」
「大丈夫ですよ、両陣営いた方がより盛り上がりますし、本来は先輩たちの最後の地区大会って名目だから、俺たちが後押しされるのは筋違いなんですよ。まあ、いい友だちをもったおかげで、こんなに応援してもらっちゃってますけど。」
「そうですよ!いわばあたしたちは先輩たちが地区大会で有終の美を飾るのを阻止しようとしてる外敵みたいなもんなので、思う存分先輩たちを応援しちゃってください!あ、でもあたしたちのプレーに対してブーイングを送るのだけはやめてくださいね?」
「あなたたち、私を何だと思ってるの…?それとあの二人を応援しづらいこと言ってくれるじゃない…意外と気にしてる?」
「「……」」
すみません、割とぐうの音も出ないっす…
「由香里センパイ、岸センパイ、たしかに今回は三年の先輩たちが主役ですけど、花を持たせる必要なんてないです!」
「その通り!どっちが勝ってもどっちも県大会行ける状況なので尚更です!むしろ三年の先輩を超えることで、自分たちが成長した証を見せつけて、安心して世代交代できるようにしちゃいましょう!」
後輩である金本と下北からはそんな激励を受けたが…
「「最初っからそのつもりだよ!!」」
もちろん激励は嬉しいが、元から先輩たちに錦を飾らせるつもりなどさらさらない。ここで先輩に打ち勝つこと。それが俺と由香里が考える最大限の恩返しなのだ。先輩たちの全てを受け止めて、先輩たちに全てをぶつける。必ず…
「「先輩たちを倒す!!」」
改めて誓いを立てた。
みんなからの応援を背に受け、俺と由香里は指定された10コートに向かう。
「由香里、緊張してるか?」
「そりゃあね…そういうとーるもでしょ?」
「流石に緊張するなって方が無理だ。」
「だよね…」
やはり自分が思うより自分は緊張している。それだけこの一戦は大事なのだ。先輩たちへの恩返し、先輩へのリベンジ、様々な意義がこの試合にはある。それがわかっているからこそ緊張するし、絶対に負けられないというプレッシャーを覚えてしまうのだ。そんなことを思いながら歩き、アリーナへ降りる階段まで辿り着いた時、正面から人が飛び出してきた。その顔には大いに見覚えがあった。
「あっ…」
「信岡?!なんでここに?!」
俺の勉学の道におけるライバル、信岡だった。
「べっ…別にたまたま来てただけ…」
「いや流石に無理があるだろ…」
「委員長とか多田ちゃんから聞いたのよ。昨日今日が岸の大会だって…あんたとはライバルみたいなもんじゃない?あんたが頑張ってるって知ったら、対抗意識っていうか…触発されてあたしも頑張らなきゃってなるのよ。だから今日こっそり観に来ていい刺激もらおうと思ってたの!あたしも大会近いし…そしたらばったり出会すんだもの!」
めっちゃ喋るじゃん…
「で、しかもあんたこの後決勝なんでしょ?隣のその人がパートナーなわけ?」
「まあ、そうだけど…」
「ミックスのパートナーの織田由香里です!」
「じゃあせいぜい織田さんに迷惑かけないように頑張ることね!
お前は母親かって…
「てか、もういっそ観覧席で観ててくれよ。そんなとこで観てるよりは応援してくれた方が正直助かる。そうすれば先輩たちにも勝てるかもだし、それでお前にいい刺激与えられるなら一石二鳥だろ?」
「…ったく、調子がいいことばっかり…まあいいわ!そこまで言うなら応援してあげないこともないわ!」
「…信岡さん、ツンデレさん?」
「そんなんじゃないわ!!」
まあ、何はともあれ信岡と話してたら不思議と緊張は軽減された。
「ありがとな、信岡。行ってくる。」
「ええ、負けんじゃないわよ!」
俺と由香里は、観覧席に向かう信岡と反対側、決勝のコートへと歩みを進めた。
「とーる、勝つことももちろんだけどさ、まずは先輩たちとの最後の試合、楽しもうね!!」
「…ああ、そうだな!」
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