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12シトライアル第三章       疾風怒濤の11時間part29

第八十一話 疾風怒濤の眠らぬ夜会
 本日のメインイベントであるキャンプファイヤーも大成功という形で幕を閉じ、あとは風呂に入って眠りにつくだけ。今回の林間学校では、大浴場のようなものはなく、各々部屋についている風呂、あるいはシャワーだけで済ませることになっている。そして俺は…

「なんでこんな時に限って俺ラストなんだよ!」
俺、河本こうもと上原うえはら佐々木ささきの四人部屋で風呂順争奪じゃんけんを実施した結果、初手で一人負けを喫し、最後までお預けとなった。ちなみに最初は佐々木である。
「そういえば河本、キャンプファイヤー係じゃなかったお前にこそ聞きたいんだけど、キャンプファイヤーどうだった?」
気になっていたので聞いてみた。俺たちキャンプファイヤー係当事者としては文句なしの結果だったのだが、果たして第三者はどう見ているのか。
「最高だったよ!特にラストの花火!本当に綺麗だった…!佐々木くんもだけど、きしくんも上原くんもお疲れ様!」
「「ありがとな。」」
嬉しい反応だった。

 それから一人ずつ組み合わせが変わりながら二番目の上原、三番目の河本と順に入浴していった。河本の入浴中、
「ねえ岸、今日の係の仕事中、どうだった?」
佐々木が目を輝かせながら聞いてきた。
「どう…とは?」
田辺たなべさんのことだよ!」
田辺さん…果たしてコイツ、何が聞きたいんだ?
「別にいつも通り協力して任務遂行しただけだが…分業もしたけど。」
「なあ岸…多分佐々木が聞きたいのってそういうことじゃないと思うぞ?」
逆に何を答えろというのだろうか…

「そういえば岸、明日ってどんなスケジュールだっけ?」
上原が話題を変えてくれた。俺はかばんからしおりを取り出し、答える。
「朝8時に全体で朝食、9時半までに各々部屋で水着を着用してからこの宿のエントランス付近に集合して、インストラクターの説明を受けた上でラフティングってのが主な流れかな。」
「ん?ラフティング?」
「ああ、いわゆる渓流下りな。なんかボートみたいなのに乗って川を下っていくんだよ。」

「へー、なるほどなー。そういえば、朝自由行動時間ってなかったっけ?」
「朝6時から8時の間は朝食に間に合うのであれば散歩でもなんでもしてていいって。寝ててもいいけど。」
「んー、僕は寝てたいな…朝弱いし…」
「俺もー。岸は?」
「俺はせっかくだから歩いてこようかな。」
「えー、惰眠をむさぼりたくならない?」
「いやな言い方するなよ。ならないけど。」
「まあ何はともあれ、明日も楽しみだね!」
「「そうだな。」」
そうこう話していると、
「岸くーん、お風呂どうぞー!」
河本が上がってきた。俺はスマホの上にてきとーにしおりを被せて、タオルとジャージを持って風呂場に向かった。

 15分程、シャワーと風呂で今日の疲れを癒し、三人のいる寝室に向かった。
「あっ、岸くん!ちょうどさっき岸くんのスマホに電話入ってたよ。しおりで隠れてない部分に“岩井いわい”って映ってたから多分委員長だと思う。代わりに出るのもはばかられたからスルーしといたけど。」
なんてできた友人なんだ…!
「さんきゅー!ちょっとかけ直してくるわ!」
そう言って俺は部屋の外に出た。まだ消灯時間までは30分あるので、問題はないだろう。着信履歴を見てみると、たしかに“岩井”の文字はあったが、俺の想像していた方の岩井ではなかった。俺はそのアドレスに電話をかけた。

程なくして…
『あ、もしもしとおるさん!こんばんは!』
繋がったのは岩井芹奈いわいせりな…ではなくその妹の杏奈あんなちゃんだった。
「こんばんは。杏奈ちゃん、どうしたの?」
『いえ、私さっきまでお姉ちゃんと電話してたんですけど、徹さんにすごくお世話になったそうで、妹として私からもお礼を言いたくて…』
なんてできた妹なんだ…!
『本当にありがとうございました!』
「いやいや、そんなお礼言われるほどのことじゃないよ。同じ班だから助け合うのが道理ってもんでしょ?それに、寧ろ俺の方こそ杏奈ちゃんにはお礼言わなきゃだし。」
『え?私は何も…』
「たしかに直接的には杏奈ちゃんは何もしてる実感ないんだろうけど、杏奈ちゃんが普段から色々調味料集めてるおかげで、今日の野外炊爨失敗せずに済んだし…っていうかあれって芹奈が勝手に持ち出したんだよね?今日大丈夫だった?」
『家の調味料すっからかんだと思ったらそういうことだったんですね…帰って来たらお姉ちゃんにお説教しておきます。』
「俺の方からもちゃんときゅうは据えておくよ…そして俺もごめん…」
『徹さんは悪いことしてないじゃないですか!』
ホントにいい子だな、この子は。

「まあそれに、芹奈に焼きうどんの作り方教えてくれたのも杏奈ちゃんだよね?美味かった。」
『それはよかったです!恐れ入ります!』
「それじゃあ、もう夜も遅いしそろそろ…」
と言って電話を切ろうとすると、
『あ、待ってください!』
呼び止められた。
「どうしたの?」
『お姉ちゃんから聞いたんですけど、明日の渓流下りも野外炊爨の班と同じなんですよね?』
「そうだけど…」
『お姉ちゃんが迷惑かけたらごめんなさい!でも、お姉ちゃんのことお願いしますね!』
…ホントによくできた妹だな、この子は。
「ああ、もちろん!そこは任せろ!じゃあ、おやすみ。」
『はい!おやすみなさい!』

ということで、電話も終わり、部屋に戻ろうとすると、誰かからメッセージが届いた。見ると…
『徹くん、明日の朝、一緒に散歩どう??』

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