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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part23

第百五十話 卒業式的会話の食事会
 翌日。8月13日月曜日。現在18時。大会が終わればまた日常に戻る。とはいえ夏休みなわけだが、もちろんバイトはある。というより、夏休みは絶好の掻き入れどきである。昼間のうなばらでのバイトを終えた俺は、とある食べ放題の飲食店に来ていた。その目的はというと…
「それじゃあきし河本こうもと!」
「大会お疲れ様ー!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
俺と河本、上原うえはら佐々木ささきといういつもの四人で食事会である。というのも、


金曜日の河本の県大会の時、
「なあ岸、お前も明日明後日県大会って言ってたじゃんか。」
上原が尋ねてきた。
「そうだな、でもそれが何か?」
「いや、河本も岸も県大会出ておいて俺らは応援するだけってのもどうかと思ってさ。」
「応援に来てくれるだけ嬉しいけどな。」
「まあだからせっかくだし、岸と河本に労いの意味を込めて四人で飯行かね?」
上原が提案、そして、
「ありだね。」
「労いの意味なんて畏れ多いなー、でもご飯行くのは僕も賛成だよ!」
佐々木と河本が賛成した。
「じゃあ岸もな!」
「流石に賛成三人いれば断らないよ。」


なんていう次第で今日集まっているのだ。一旦俺は席で留守番し、みんなには先に食べたいものを取ってきてもらうことにした。それにしても食べ放題だとみんなの正確出るよな。例えば…
「お前野菜しか食べない気か?」
河本が最初に持ってきたのはコールスローサラダ、ミックスサラダ、そしてカット野菜の盛り合わせ。オールベジダブルである。
「まさか!ただ、最初は野菜から食べることにしてるんだよ。ベジファーストってやつかな。」
「河本は本当に健康に気遣ってるんだな。」
そう言いながら戻ってきた上原が持っているプレートには、米、ミックスサラダ、スープ、そしてオムレツやウインナーなど数多のおかず…
「上原はあれだな、最初からバランス重視って感じなんだな。」
「なんか選んでると無意識にバランスとっちゃうんだよなー。」
模範的なバイキングの楽しみ方だと思う。
「でもなんか、朝食バイキングみたいなメニューのチョイスだよね。」
そう茶々を入れながら佐々木が戻ってきたのだが、コイツが一番の狂人だった。
「チャーハン、クロワッサン、たぬきそば…」
「白身魚フライ、ハンバーグ、チリコンカン…」
「無秩序の極みだな…」
「食べたい時に食べたいものを食べたいだけ食べるのが僕だからね!」
「とは言え最初に炭水化物ラッシュなんてしたら終盤食えなくなるだろ…」
佐々木…恐ろしい子…!
「じゃあ俺も取りに行くわ。」
「いってらっしゃい!」

 数分考えて最初の布陣を揃え、席に戻った。すると、
「いや、保守派か!」
上原から謎につっこまれた。正直あまり食べ慣れていないものに手を出すことにやや抵抗があるので、選んだのは白米、豚汁、ほうれん草のおひたし、サバ味噌、豆腐の揚げ浸しなのだが…
「ただの和定食じゃない?」
佐々木にまで言われた。コイツらの言わんとしていることはなんとなくわかった。バイキングに来てまで取るようなものじゃないだろってことか。
「でも、僕らの中だと一番バランスとジャンルの統率がとれてない?」
河本は俺擁護派のようだ。
「まあ言われればたしかに…」
「俺は1ターンにジャンル一つって感じで取りたい人間だからさ。2ターン目は洋にするし。」
「まあ、バイキングの楽しみ方はそれぞれだからね。とりあえず食べようか。」
河本が上手くまとめてくれて、しっかり食事に入った。

今回はただ食べに来たというより、パーティー的な側面が強いので、食事中も談笑を楽しんだ。
「それにしても、岸も河本もすごいよなぁ!河本はベスト8まで残るし、岸もシングルスでもミックスでもいいとこまで行ってたしな!」
「てか、岸が三部門で県大会行ってるのぶっ飛びすぎじゃない?」
「まあ、団体は一回戦落ちだけどな。」
「とは言え、シングルスの結果だけ見たら僕はテニスでベスト8、岸くんは卓球でベスト16だけど、そもそも参加枠数が違うから、勝ち進んだ数で言えば岸くんの方がすごいよ!」
「お…恐れ入りますー。」
流石にここまで持ち上げられると照れるし大いに恐縮である。
「あと、最後のミックスだよ。本当にラスト惜しかった!素人目にもわかったよ。」
「ああ、俺も2ゲーム奪られて2ゲーム獲り返した時は流れきた!って思ったけど…」


そう、昨日のミックスダブルス四回戦。ゲームカウント2-2で迎えた最終ゲーム。3ゲーム目や4ゲーム目のように善戦した。展開も読みも悪くなかった。だが、最後はやはり相手が一枚…いや、何枚も上手だった。相手には最後まで隠していた手の内があった。試合終盤まで、こちらの揺さぶりに反応しながらとんでもない精度で俺たちを揺さぶってくる、女子の鼠入そいりさん得意のプレースタイルを貫き通してきた相手だったが、最終ゲームのチェンジエンド後は一転し、男子の飛鳥あすかさんがいかにも得意そうな飛ぶ鳥をも落とす勢いの猛攻を見せてきて、ゲーム終了までには対応しきれなかった俺と由香里ゆかりは先輩たちの、そして由香里自身のリベンジを果たすことが遂にはできなかった。

「とーる、ありがとね!ここまで付き合ってくれて!」
「そりゃあ相棒だからな。」
「何それ…」
由香里は笑って言った。
「それにまだ俺たちは終わりじゃないだろ。まだあと一年あるんだからさ。でも由香里…悪いな、リベンジ果たさせてやれなくて。先輩たちも…すみません!負けました!」
「まさか俺たちも最後に相手があんな攻め込んでくるなんて思わなかったよ。見てて驚いた。」
「てことは、私たちが開けられなかった相手の引き出しを由香里ちゃんと徹くんは開けさせるくらい追い込んだんだよ!自信持って!」
「それに、俺と莉桜りおはここまでだけど、二人にはまだこれからがある。」
「あの相手も三年生だから、これ以上リベンジ果たす機会はないだろうけど、今後の大会、来年の大会で今の二人の成績を超えればいい!」
「二人がリベンジを果たすべきこれからの相手は、今の二人自身。克己心持って、これからも頑張れよ!」
「「はい!!」」


「いやー、完全に敗北だったよ。俺と由香里が引き出し全部出しても尚、相手はずっと隠し通してた。ホントにあの二人が強かったとしか言いようがないな。」
しかしいずれにしてもあんな化け物コンビ相手にあそこまで善戦したのは我ながら誇れることだ。でも…
「やっぱりお前ら三人も含めたみんながいたからあそこまで頑張れたってのは一つ建前でも何でもなくあるな。」
シングルスにしろミックスにしろ、自分一人、或いは俺と由香里だけなんてことがあればきっと体制を立て直したり何も恐れずに挑み続けるなんてことはできなかっただろう。俺は本来、意外だと言われることも多いがビビりな…臆病な人間だ。だから考えが全く読めない相手は怖いし、リスキーなことはできるだけ避けたい。五月蝿いヤツとは絡みたくないし、なぜか敵視されることがあれば早急に解決したい。人とコミュニケーションを取るのはホントに苦手。そんな人間なんだ。

あくまで、以前の俺は。

「みんなと出逢ってから俺はだいぶ変わったと思う。簡単にビビりはしなくなったし、リスクだって負ってもいいと思えるようになった。五月蝿いヤツも恐ろしいヤツも以前より遠ざけなくなった。会話だって、まだ得意ってほどじゃないが、不自由なくできるようになってきた。応援をもらっただけじゃない。一人じゃできなかったことをできるようにしてくれたのがお前ら三人だったり、アイツらだったりするんだ。だから俺、色んな意味で感謝してるんだ。ホントにありがとな。」
なんか、らしくもなく真面目な話を、感動的な話をしてしまった。
「そんなのこちらこそだよ。岸くんが僕らに助けられてるって言ってくれてるように、僕も岸くんにも、もちろん上原くんにも佐々木くんにも救われてるんだ。」
「僕もだよ。」「俺だって!」
「なんかいいよね。持ちつ持たれつって感じで。だからさ、これからも仲良くしてほしいな。」
俺が深めの話をしてしまったことで、その方面に話が流れてきたが…
「こちらこそだよ。これからもよろしくな。」
「「よろしく!」」
たまにはこういう卒業式とかにしそうな話をするも悪くはないよな。

 終了時間が差し迫った頃、
「なんか今日は面白かったよ。俺らのくせに深い話しちゃったりで。」
「たしかに珍しいよね。でも、こういうのも悪くないね。」
「俺も同感。」
「全方位に同じく。」
俺はシメのお茶漬けと共に今日のエモーショナルさを身に沁みて味わうのだった。

狂瀾怒濤の4日目fin.

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