12シトライアル第三章 疾風怒濤の11時間part27
第七十九話 疾風怒濤のゴーストツアーⅡ
ダメージを負ったのもあるだろう、俺はその後ゴールに辿り着くまでおそよ1時間を費やしてしまった。なんとかゴールを迎える頃にはだいぶダメージもマシにはなっていたが、道中様々な仕掛けやお化けに遭遇しても驚く余裕すらない時間もあった。事故とはいえ、それだけ金本の押し潰し式フットスタンプは強烈だったのである。いや、何かのウルトラCで鉤爪が降ってこなかっただけまだよかったのかもしれない…んー、何の話だっけか?
閑話休題。ちなみにコースは樹林を周回するものだったようで、ゴールはスタートのすぐ隣にある。このまま部屋に帰って一旦休もうとしてた折、
「徹先輩じゃないですか!お疲れ様です!」
また捕まった。
「下北か。肝試しに来たのか?」
「まあそんなところです!よかったら一緒に来てください!」
俺もう帰りたい…そんな気配を察したのか、
「友達と一緒に来ようと思ったのに、パスって言われちゃって…一人じゃ心細いので…ダメですか?」
断ったら俺が悪くなるような言い方しやがって…周りに人が多いから尚更。
「わかったよ、行くか…」
「はい!行きましょう!」
ということで、なぜか岸徹、肝試し二周目である。
「徹先輩ってこういうの得意ですか?」
「正直得意ではないかな。意外とビビリだし。」
「にしては今のところめちゃくちゃ落ち着いてますよね。」
そりゃあまあ。うん、二周目ですから。などとはとてもじゃないが言いにくい。さて、そろそろヤツのところだな…そう、猿のように飛び出してくる…
「うゔぁあーー!!」
「うわぁーー!!」
「……?」
あれ?逆さまに落ちてくる…だけ?
「ガルルル…」
なんか下北が金本に威嚇を始めた。マジでコイツら犬と猿じゃねえか。犬猿の仲なだけに留まらず。すると金本が宙吊りのまま、
「あれ?岸センパイと…心愛?」
尋ねて来た。めちゃくちゃ不思議がられてるな。一回来たはずの俺が来てるし、なぜか下北と一緒にいるしでそりゃまあ不思議だろうな。
「玲…なんでお化けなのにそんな派手で高そうなコスチュームを…」
「たかだか9万くらいよ?」
「十分高いよ!!」
えー、私も、同じ意見です。
閑話休題。
「それにしても岸センパイ、なんで二周目来たんですか?そんなにこの肝試し楽しかったですか?」
「え?嘘?!徹先輩、もう一周した後だったんですか?!私てっきり由香里先輩が言うように徹先輩が一人ぼっちで一緒に回る人を募ってたのかと…」
ダメだ、コイツも由香里に似てきた…
「ま、そんなわけで下北に連れられて二周目敢行中ってわけだ。もう一周したって言いづらくて言えなかった俺の自業自得だけどな。」
「その…先輩、なんかすみません…」
お互いに申し訳なくてどこか気まずい。
「そういえばなんで飛び出し方変えたんだ?」
「いやー、流石にセンパイをあんな目に合わせておいてアレを継続するのはいかがなものかと…」
よかった、コイツの倫理観が生きてて!
「あんな目…何があったの?!」
「まあ、心愛は知らない方がいいよ…」
「俺も同意…事故とはいえ凄惨すぎる。」
「ホントに何があったんですか?!」
「過ぎたことだから気にしない!あ、そういえばセンパイ、この後気をつけてくださいね、一周した経験値、意味ないですから!」
…どういう意味だろうか。
ということで、俺と下北は二人歩き始めたが、俺にはさっき金本が言っていた意味が早々にわかってしまった。一周目とコースが違う!それに、
「ゔぁあああ…!」
「「うわーー!!」」
さっきより恐ろしい仕掛け、お化けが多い気がする。時間的にもう肝試しの終盤だからだろうか。スタッフ総動員しているような感じがする。それに俺に関しては二周目なので、
「はぁ…疲れ…た…」
そうとう疲労困憊だ。この後キャンプファイヤーもあるというのに。さらに、
「え?!徹先輩、憑かれたって…そんな!肝試しなのに本当に憑かれちゃってるんですか?!そしたら私どうすれば…!」
そんな勘違いされたら俺こそどうすればいいのだろうか。何か言ってやりたいが、
「大丈夫…今お前には俺がついてる…!」
「え…?私に…憑いてる…?憑かれてる状態の徹先輩が…?」
勘違いは加速するばかりだ。
閑話休題。その後誤解を解くのに5分ほど要したが、なんとかキャンプファイヤーが始まる21時までまだ余裕があるくらいの時間にはゴールに辿り着けた。
「徹先輩、諸々ご迷惑をお掛けしました…」
なんか下北に土下座された。俺としてはめちゃくちゃ居た堪れない…早いこと顔を上げて欲しい。
「私が勝手に先輩を巻き込んで、肝試し中色々テンパって変な誤解しちゃったり…」
半ば涙声になっている。仕方ない…
「顔上げてくれ。とにかく、いいんだよ。たしかに色々大変だったけどさ、でも楽しかったよ。だから気にすんな!」
言ってやれることは言ってやったつもりだ。
「でも…」
「それに、誤解させるような言い方をした俺も悪かったんじゃないか?」
「あ、それは間違いないです。」
「おい…」
急にスンとするんじゃねえ、コイツめ…
「まあでもよかったよ。下北がずっと気に病むよりはマシだしな。」
言いつつ俺は座り込んだ下北の頭に手をやった。少し撫でると下北は体をゆすった。やっぱりコイツ、嬉しいと尻尾を振る犬みたいだな。
「よし、肝試しは終わり!この後はキャンプファイヤーだし、楽しんでいってくれよ!」
「はい!楽しませていただきます!」
肝試しで後輩に振り回されるてんやわんやの2時間なのであった。まあ、楽しかったし万事オッケー!
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