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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part13

第百四十話 県大会初陣のアドバイザー
 今日は遂に俺たちの県大会。初日である今日は団体戦とシングルスのベスト16決定まで、つまり四回戦までである。しかし、先月の地区大会と違う点がある。俺たちがアップを済ませて観覧席に戻ると、
きしくん!おはよう!」
「応援に来たぜ!」
「岸のプレー、見せてもらおうかな。」
昨日大会を終えた河本こうもと、そして上原うえはら佐々木ささきという俺の仲の良い友人たちが応援に来てくれているのだ。佐々木が上から目線なのはさておき。
「とーる…そんな、遂に友だちができたんだね…あたしは嬉しいよ…」
俺をなぜか陰キャぼっち認定する由香里ゆかりがやはり弄ってくる…というかガチ泣き?!俺結構マジで心配されてたん?

 閑話休題。さてさて、そんなこんな言う間に団体戦が幕開けとなった。今大会の団体戦で全国大会に進むためには、男女共に優勝が必要十分条件だ。団体戦は5回戦のトーナメントで行われる。負けは一度も許されないのである。
とおる!よろしくな!」
桜森さくらもり先輩に呼び止められた。
「はい!優勝、それから全国目指しましょう!」
「その意気だ!」
俺たちは士気を高め、臨戦体制に入った。そしてコールを待つ。するとそこへ、
「とーくん、おはよー。」
気の抜けたような声と
「徹、今日県大会ってなんで教えてくれなかった?」
あまり感情のこもっていない声、そして
「岸さん!織田おださん!お疲れ様です!」
クールながらも元気な声と共に、紗希さき桃子とうこ田辺たなべさんが現れた。
「紗希ちゃん!桃子ちゃん!田辺さん!来てくれてありがとう!!応援よろしくね!」
「あ!皆さんお久しぶりです!」
「地区大会の時以来ですね!」
由香里や下北しもきた金本かねもとが出迎える。近頃、俺に関わりのある女子たちが異様に仲が良い。なんかみんなどこかしらで接点あったりするんだよなぁ。いいことなんだがなぜだろう、不思議である。

 少しして、東帆とうはん高校男子がコールを受け、俺たちはコートに向かった。アリーナから見上げると、試合のコートの真上の席に東帆女子や非レギュラーメンバー、応援のみんなが陣取っている。女子はまだコールがかかっていないようだ。
「よし!それじゃあ初戦、絶対勝つぞ!!」
「「「「「おー!!!」」」」」
最後に団体メンバー6人で円陣を組んで士気を高めた。試合は2台進行で行われるので、最初はシングルスの一番、二番である。この試合の一番は部長の桜森さくらもり先輩、二番手は岡林おかばやし先輩だ。俺はこの試合の四番手を任されているので、一旦応援に回る。開戦直前、
「徹!ちょっと俺のアドバイザー的な感じでついててくれね?相手向こうのエースみたいでさ…」
岡林先輩直々に頼みを受けた。そしてもちろん、
「俺でいいならつきますよ。」
快諾する。なんせ、俺がシングルスで県大会に進めたのも、この先輩が17位決定トーナメントで献身的に俺をサポートしてくれたからこそなのだ。その借りを返すまではいかずとも、少しでも役に立てるなら本望である。
「ありがとな!!じゃあ、よろしく!」
「はい、お任せください!」

 こうして始まった試合は、それはそれは熾烈を極めた。相手校のエースが点を獲れば、その分だけ岡林先輩も取り返す。どうやら相手校は地区大会で優勝しているチームらしいのだが、岡林先輩はそんな高校のエースと互角かそれ以上に闘っている。見るからに岡林先輩は活き活きとしており、俺が見てきた中では過去一の絶好調だ。そして岡林先輩がまたサーブで一点を獲り、
「ヨー!!」
雄叫びを上げる。すると、
「「「オー!オー!オー!」」」
俺が合わせるよりも早く、観覧席から東帆の新伝統が響く。そしてこれらが相まって、完全に岡林先輩のペースとなった。

「先輩!ラスト一本!!」
10-7。先輩はいつの間にやら先にゲームポイントを握っていた。それも3点リードで。このポイントは相手のサーブから始まる。ここで相手が選んだサーブは、まさかの俺も得意としているしゃがみ込みサーブだった。大一番用のサーブということだろうか。
(しゃがみ込みか…でもこんなの、徹のに比べればどうってことはない!!)
放たれたサーブは、岡林先輩のフルスイングで撃ち抜かれ、相手は呆気にとられていた。
「先輩!ナイスボール!!」
11-7。岡林先輩が先にゲームを奪った。これは大きい。
「徹、ありがとう!めっちゃ心強いよ。」
「いやいやいや、にしても最後のですよ。よく振り抜きましたね…」
「しゃがみ込みサーブなんてもはや見慣れてるし受け慣れてるからね。どこかの誰かさんの、恐ろしいくらいに質が高いやつをな。」
はてはて、誰のことですかねー。まあ部内でしゃがみ込みサーブを使うのほぼ俺だけだし見当はつきまくりだが。もはや皮肉にも聞こえるくらいに褒められるとはな。喜ばしいことこの上ない。

それにしても、
「先輩、今日めちゃくちゃコンディション良くないですか?それに、今すごくメンタル的にも余裕があるように見えますし。」
この大一番で岡林先輩が大覚醒している。タイミングが良すぎる。ホントに運命に味方されている感じだ。
「それはちゃんと支えてくれてる存在がいるからだよ。徹に頼んでよかったよ。」
この人俺を褒め殺す気か?
「それに、徹だって地区大会の県大会出場枠を賭けたトーナメントの時、俺がアドバイザーに入って絶好調だったじゃんか。」
たしかに、言われてみるとそうだな。
「やっぱり自分を支えてくれる存在がいるってなると、安心感が全然違うんだよ。特に信頼してる相手なら尚更。だから極論、何も言わなくたっていい。後ろで見守ってくれてるだけで十分すぎるくらい助かってるんだ。」
「…えっと、プロポーズか何かですか?」
この人あかん、今のセリフイケメンすぎるって。俺が女子だったら多分惚れてるな。
「そんなつもりはないけど…ともかく!引き続き頼むぞ、徹!」
「はい!!」

岡林先輩は休憩を終え、台に戻った。時を同じくして、隣の台では桜森先輩が2セット目を獲り、ゲームカウントを2-0とした。流石の強さである。すると、
「女子団体戦一回戦、東帆高校、15、16コートで試合ですので、直ちにコートに向かってください。」
女子がかなり急かされる形でお呼ばれだ。観客席からの応援はかなり弱まってしまうだろう。そう思って観客席を見ると、男子が数名、女子も数名…減りすぎだろ!まあしょうがないことだけども!残っているのは男子の先輩たち、そして女子は金本一人。プラス応援に来てくれている河本、上原、佐々木、そして紗希と桃子だ。


 「れい!どっち観とく?」
「んー…じゃあ、あたしは残って男子観とこうかな。」
「じゃあ私は一旦女子の方行くね!」
「やっぱり二人、仲悪い?」
「以前犬猿の仲だって聞きましたけど…」
桃子が抱く疑問もまあ当然である。しかし、
「試合の動きあったら教えて!あたしも教えるから!」
「りょーかい!」
すっかり犬猿の仲というのは薄れている。
「あれ?やっぱり二人、仲良い?」
「平和で何より…」
二人の関係に翻弄される桃子、紗希、早苗さなえであった。
「私たちも分かれます?」
「賛成。私は徹観とく。」
「うちは…」
「紗希ちゃんはどっちでもいいや。多分どっちにいても何も変わらない。」
「紗希ちゃんへの評価酷くないですか?!」
「紗希ちゃんは…ふわふわしすぎてやることも何も読めないから…」
「…まあ、納得です。じゃあ私はとりあえず織田さんの方に行きますね!」
「了解。じゃあ報告よろしく。」
「そちらこそです!」


 オーディエンス激減という事態もあったが、依然岡林先輩の調子は落ちることを知らない。とてものびのびとプレーしている。しかし、相手も流石は地区優勝校のエース。一筋縄ではいかない。絶好調の岡林先輩を相手にしても冷静に、丁寧にプレーを続けている。1セット目を獲られた焦りなどは全く感じられない程だ。一進一退の攻防が続くも、岡林先輩は8-11で惜しくもセットを落とした。一方桜森先輩は、圧倒的な強さで3セット目も奪取してストレート勝ち。先に星を獲ったのは東帆高校となった。そして空いた一番台で続けざまにダブルスが始まる。同時に岡林先輩の第3ゲームも始まろうとしていた。
「先輩!焦らずいきましょう!きっと大丈夫!」
俺が声をかける。そして、
「岡林ー!!ファイトー!」
「岡林センパイ!先にセット獲りましょー!」
三年の先輩たちや金本らも上から続く。ファイト!先輩!

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