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12シトライアル第四章       勝負のX-DAYpart43

第百二十七話 決着。ありがとう。
 6-4で迎えるは桜森さくらもり先輩のサーブ。受けるのは俺だ。先輩が高くボールを投げ上げ、落ちてくるタイミングを見計らって全力でボールの下部を擦る。強烈な下回転だと思ってツッツキで返そうとしたが、これまた予想以上の回転でネットを越えられなかった。6-5。先輩の2本目だ。先ほどと同じくらい高く投げ上げてボールを放っているが、打球のタイミングが遅い。縁近くで当てただけだと睨み、バック面でボールを弾いた。やはりナックルだったのか、ボールは鋭い弾道で相手コートの奥まで駆け抜けた。7-5。

続いて俺のサーブ。隠し玉を出そうと決めた俺は由香里ゆかりにサーブのサインを出して、了承をもらって構えた。巻き込みサーブの要領で、最後に擦る方向を少し変える。俗に言うキックサーブだ。ボールは相手コートのミドル寄りにバウンドし、若干ミドル側に曲がった。春田はるた先輩はラケットを振るも詰まり、甘いボールがこちらへ飛んできた。由香里仕留めると見せかけ、短く止めた。スマッシュに見せかけたストップだ。流石の桜森先輩も間に合わず由香里の得点となった。8-5。2本目は通常の巻き込みサーブを出そうとしたが、変にキックサーブの癖が残り、失敗してしまった。面目ない。8-6。

春田先輩のサーブ。ボールの下を擦っているので恐らく下回転だと思われる。ボールが長くなったからだろう、由香里はドライブでそれを返したのだが、それも先輩たちの作戦だった。桜森先輩の速球カウンターが返ってくる。仕方なく俺は下がり、春田先輩が苦手なことに賭けて、擦りながらボールを高く打ち上げた。そして相手コートにボールがつくと、春田先輩の構える方とは逆にボールが曲がった。俺の秘策その2、スネークである。春田先輩は追いつけずにボールを見逃してくれた。9-6。

 「由香里せんぱーい!ラスト近いですよー!」
きしセンパイ!きめましょー!」
莉桜りおちゃん!桜森くん!まだいけるよー!」
「サクラー!!諦めんなよー!!」
「春田先輩ファイトでーす!!」
「由香里ー!!いけいけーー!!」
「岸さーん!!落ち着いていきましょー!!」
観衆のボルテージが高まっている。この点では当初の目標の、先輩たちに大歓声の中でプレーしてもらうというのは達成できて…って、いかん!余計なことは考えるな、岸徹。目の前の試合に集中!

 春田先輩のサーブ2本目。構えをがらっと変えて、バックサーブを出す様相だ。これまた打球の時点では上回転か下回転か非常にわかりづらい。由香里も迷っただろうが、最終的にはツッツキで返した。それは正解だったようだ。そして回転の影響で絶妙なコースに入ったボールを攻撃するのはリスキーだと判断したであろう桜森先輩は同様にツッツキで返球してくる。ここがチャンスとばかりに、バックに飛んできたボールを全力のループドライブで持ち上げた。ループなのでスピードは遅く、春田先輩のラケットがボールを捕らえたが、春田先輩の予想以上に回転がかかっていたのか、ボールは高く浮き、由香里のチャンスボールとなった。スマッシュを撃つと、桜森先輩が下がってカウンターを入れてきた。俺も負けじと後陣でカウンターを撃ち、春田先輩は前陣でブロック。由香里がドライブを撃つと、再び桜森先輩がカウンター。この流れがしばらく続いた。

「この4人、いったいいつまでこのラリー続けるのかしら…」
「ものすごいラリーね…素人目にもなんとなくわかるわ。」
「いや、あのレベルのラリーは私たち競技者でもそんなお目にかかれないですよ…」
「ほんとに、先輩たち全力なのがよくわかりますよね…」
「由香里も徹くんも、ここ落とさないで…!」
「たしかにこの一点でだいぶ流れ変わりますもんね…」

場内が沸いているのを全方位から感じつつ、一球一球落ち着いて対処していく。そしてある時、由香里のドライブが相手のバックいっぱいに入った。桜森先輩は咄嗟にバックでカウンターを撃ったのだが、それがネットにかかってこちらに入ってきた。昨日今日で何回目だろうというデジャヴ!しかし逆に、これは散々喰らってきたので、もはやなんてことはない。そういう意味ではありがとう、楊原やなぎはら!台上だが、スネークを仕掛けてみた。春田先輩はスマッシュを撃とうとしているが、フォロースルーに引っ張られてバック側に移動しようとしている。内心嬉々としたが、表情に出すと悟られるので必死に堪える。そして読み通り、春田先輩は逆方向に飛ぶボールに対応できず空振ってくれた。
「ショーーー!!」
「オー!オー!!とーるナイス!!」
このロングラリーを制して10-6。チャンピオンシップポイントを握った。そして次のサーブは由香里だ。

 由香里が俺に出したサインに俺は驚いた。完全に一か八かでもこれで決めるつもりだ。由香里が放ったサーブ、それは俺のエースサーブである王子サーブだった。しかもボールは桜森先輩には打ちづらいミドル寄りに入った。しかし、あと1点落とせば負けという場面でも思いきってやや回り込んでドライブを放ってきたのだ。流石である。俺はブロックで返し、春田先輩の面打ちが飛んでくる。由香里はバックに移動しながら返すも、移動しながらだったため、面の角度まで調整できず、ボールは浮いた。さらに由香里は体制を崩した。そして桜森先輩のスマッシュが次に飛んでくるが、先輩は確実に相手が一番返しづらいコースに返してくる。となるとスマッシュは由香里の方に飛ぶだろう。

桜森先輩のスマッシュは予想通り由香里の方目掛けて飛んできたので、俺はバックに飛びつき体を捻ってバック側にさらに手を伸ばした。しかしそのタイミングで体制を崩した由香里が体を起こしてきたので、このままでは衝突事故だ。それは避けなければならない。こうなれば躊躇っていられない。由香里、すまない!俺はバック面でスマッシュをカウンター気味に弾き返し、その後由香里との正面衝突を防ぐため、左腕で咄嗟に由香里を抱き留める形となった。
「えっ?!」
由香里も驚きを隠せていない。そして飛びついた俺は勢いで由香里を転ばせないように気をつけて由香里の後ろに回り、腕を離した。そして台の方を見やると、得点板には11-6というカウントが残されていた。

俺たち、勝ったのか…!それが自覚され声を上げようとしたところ、
「とーる!!!やったー!!!」
由香里が声を上げながら俺に抱きついてきた。内心、全日本とか世界大会とかを制したわけじゃあるまいし、なんて思わなくもなかったが、由香里にもこの試合は相当のプレッシャーだったことはわかっているので、俺は由香里の気の済むまで付き合ってやった。
「やったな、俺たち…」
「うん!ほんとにありがとう!とーるがパートナーでほんとによかった!!」
「俺らが引退するんじゃないんだから…」

少し経って由香里が俺から離れたので、先輩たちと話を交わす運びになった。
「「ありがとうございました!!」」
「こちらこそだよ。最後まで君らには無敗でいたかったけど…」
「完敗!でも、2人との試合が一番楽しかった!だから…」
「「こちらこそありがとう!!」」
俺たちは握手を交わした。ここで、場内からは莫大な拍手が送られた。こうして、先輩たちと迎えた最後の地区大会は幕を下ろしたのだった。


 皆様、物語以外ではお久しぶりです!改めましてばっちです!とりあえず第四章終わりました!この章はテストの話だったり、卓球のプレーの一つ一つを取り上げる話だったこともあり、書いていてどこか中高時代を思い出す日々でした。まあ、まだ高校卒業から一年しか経っていないですけどね笑

 また、そのせいで卓球未経験の方や勉強があまり得意でなかった、或いは興味が持てなかった方には読んでもらっているのに興味を持ちづらい内容だったかもな…と感じています。そんな中でもここまで一回でも、人によっては毎回読んでくださっていること、たいへん嬉しく思います。ありがとうございます!

 今後もこれまでと同様、週2ペースで投稿させていただきますので、何卒宜しくお願い致します!それでは、今週の金曜日から始まる第五章も是非とも宜しくお願いします!ばっちでした!

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