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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part30

第百五十七話 夏季休暇の思い出
 今日は私、多田ただ桃子とうこの視点からお送りします。お送りすると言っても、私の夏休みの課題の一つ、夏休みの日記を振り返るだけだけど。というか、夏休みの日記って…小学生に出させる課題じゃない?こちとらもう高校生なんですが…なんて思っていたけど、多分私は側から見たら小学生に見えるかもので妥当な課題なのか…我ながら酷い自虐をした。強いて小学生の日記と違う点があるとするなら、文字数。それだけは立派で、2800字程度。400字詰めの原稿用紙7枚。いくらなんでもおかしいと思う。それにまず、日記に原稿用紙を使うのもおかしい。なんて不平不満たらたらになりつつ書いた私の日記がこちら。


夏季休暇の思い出 多田桃子

 急遽誘われてプールに行った。もともと今日は暇だった。とにかく暇だった。やろうとしていたことなど、チーズのカビと発酵の研究の経過観察くらい。それも夏休みの自由研究課題の一貫で。今日は観察して軽くまとめるだけだったからすぐに終わってしまった。再び暇が訪れた時に、
『桃子ちゃん、プール行かないかしら?』
図書委員長からプールへのお誘いの連絡があった。なんで私なのかはわからなかったけど、暇な私にはちょうどよかった。乗らない手はないと思って急いで準備した。友人…のとおる紗希さきちゃんと買った水着を部屋から引っ張り出して、そしてプールに集合。でもまさかこの水着を一緒に見た徹と紗希ちゃんがいるのは想定外だった。個人的には嬉しい想定外だったけれど。

なんやかんやで先輩と真凜まりんちゃんにその二人も合わせて五人で遊んだ。というか、バレー的な遊びで四人で寄ってたかって徹を蹂躙した。申し訳ないとは思ってる。でも全力でやりすぎる徹も悪い。まあ、そんなところが割と好きなのだけれど。徹がダウンして先輩も抜けた後、紗希ちゃんと真凜ちゃんと三人。そこで真凜ちゃんの底なしの体力を思い知って、そんな真凜ちゃんを含めた四人相手に全力で挑み続けた徹に尊敬の念を抱きつつ、私たちもダウンして、先輩と三人で休むこととなった。それでも尚真凜ちゃんは元気で徹を連れて遊びに行った。真凜ちゃんにはもれなく、畏怖の念を抱いた。

 これがみんなとの思い出のあらすじ。思ったよりも簡単にまとめられなかった。反省しなくては。今度いい要約の仕方は徹に教えてもらうとする。さて、ここからはしばらく休憩した後のことを書き記す。休憩していた中、些か喉が渇いたから、売店に飲み物を買いに行った。売店にはなぜか瓶の牛乳が売っていた。ここは温泉じゃないんだから…などと思ったが、私は牛乳や乳製品をこよなく愛するため、即購入した。近くのベンチにでも座って飲もうかと思い、辺りを見回すと、概ねどのベンチも人が座っていた。私はコミュニケーションが不得手なので、知らない人に
「相席いいですか?」
などとは訊けない。しかし一箇所、私でも話しかけられそうな二人が居座るベンチがあったので、合流することとした。そこにいたのは、徹と真凜ちゃんであった。ただ、何かがおかしい。徹は真凜ちゃんの膝枕で死んだように寝ており、真凜ちゃんはそんな徹を見て申し訳なさそうな顔をしていた。

「真凜ちゃん、どうしたの?」
私が尋ねると、真凜ちゃんは事情を話してくれた。なんでも、二人乗りのウォータースライダーから落ちそうになった真凜ちゃんを徹が守ろうとして、重量に従った真凜ちゃんの膝がモロに徹の大事なところに入って、さらに落ちそうだった真凜ちゃんが徹の顔にしがみついたことで、真凜ちゃんの胸に圧迫された徹が半ば窒息状態に陥って、徹は虫の息になってしまったとのこと。とんだ大事故だと思ったと共に、人を抱くと窒息させられる程のボリュームの胸を持っている真凜ちゃんを羨ましく思った。いや、真凜ちゃんだけではない。先輩も紗希ちゃんも大きい。それに対して私の膨らみは微々たるもの…私は人知れず、心の中でこの世の不条理を嘆いた。

 しばらくすると、徹が目を覚ました。一先ず無事だったので何より。
「徹、大丈夫?」
そう尋ねると、徹は笑顔で、
「なんとかな。ホントに死ぬかと思ったよ。なんか反則のローブロー喰らって追い討ちに締め上げられる格闘家の気分がわかったよ。」
なんて言う。よく笑っていられるなと思った。ローブローを喰らって締め上げられるなんて実際は格闘家でもあまり経験しそうにないダメージを受けて尚笑っていられるなんて、もはやおかしい。本当に徹は変わっている。そして私は徹程でも徹と同じベクトルでもないけど変わっている自覚はある。人間、己に似ている存在に親しみを覚え、己とかけ離れた存在に惹かれると聞いたことがある。だから私は自分と同じように変わっていて、その変わりようが自分とかけ離れている、そんな徹に親しみを覚えながらも惹かれているのだろうと感じられる。そもそものきっかけはまた別にあるのだけれど。

 徹が体を起こしたので、ベンチにスペースができた。私は徹の右隣に座った。真凜ちゃんは徹の左隣。全員落ち着いてきて、やっと私は売店で買った瓶牛乳を、真凜ちゃんと徹は8割型溶けたかき氷をいただいた。やはり瓶牛乳を飲むと、プールなのに温泉や銭湯に来ている気分になった。
「じゃあ、徹くんもう大丈夫そうだし、私一旦先輩たちのところ戻ってるね!徹くん、ほんとにごめんね!」
真凜ちゃんはそう言うと颯爽と去って行った。
「君!走らないで!」
そう監視員さんに注意されていたけれど。そして私は徹と取り残された。いや、これは真凜ちゃんが気を回してくれたのではないか。真凜ちゃんがずっと徹くんといてはアンフェアだと感じて、私にも徹と二人になる機会をくれたのではないか。などと思考を巡らせた。いずれにしてもこのチャンス、活かさない手はない…!

「徹、本当にもう大丈夫?」
まずは一応確認。少なくとも徹に無理をさせるわけにはいかないから。
「大丈夫。」
徹は親指を立てて答えた。私はそれを見て安堵した。とは言え徹のこと。下手に動かすと無理しかねない。だから、
「徹、お腹空かない?」
時計の針はもう2を指しており、とっくに昼は跨いでいたこともあり、私は何か食べる提案をした。
「たしかにもう2時だもんな。なんか売店で買って食べるか。」
狙い通り、徹を食事に導くことができた。

 売店に着くと、
「たこ焼きと豚汁お願いします。」
徹は一目散に注文した。屋内プールとは言え、こんなに暑い日に熱いものばかり食べるのはどうしてだろう。プールでお腹が冷えた…いや、徹はしばらく入っていない。わからなかったので尋ねると、
「いや、今日はかき氷3杯食べる羽目になったから、お腹冷えててな。」
半分当たり、半分外れだった。一方私は、チーズボールを注文した。
「やっぱりチーズ系なんだな。」
「当たり前。毎日食べなきゃ死ぬ。」
「致死量だけは気をつけろよ。」
「一日に60g以上は摂らないようにしてるから大丈夫。」
「すまん、それが致死量と比べてどのくらいなのかわからん。」
という具合に、いつも通りの私たちの会話が為される。その後、それぞれたこ焼きとチーズボールに舌鼓を打ち、一つずつシェアした。たこ焼きも美味しかった。

 食べ終わると、徹はまたプールに入る気満々だったが、あまり動かせたくはなかったから、徹に少し待つように伝えて、ビニールのボートのようものを取って来た。そして二人でそれに捕まって、悠々自適に流れるプールで流され、心地良くプールでの遊びを終えた。まさか、暇な一日が今年の夏休みで一番楽しい日になるとは夢にも思わなかった。


 こんな風に一通り書いて、読み返した。そして私は気づいた。これ、絶対内容的に提出できない…!私の徹への気持ちも、豊かな胸に対する羨望の意も、全て赤裸々に書いてありすぎだし、これは日記というより寧ろ一人称視点の文学作品か何かに見られてしまうものな気がする。今日あったことを覚えてるままに書いてみたら、とんでもないことになってしまった…これは流石に書き直しかな。でも、多分また同じテーマで…今日のプールのことを書くとなると、どうせまた徹のことばっかり書いてしまう気がする。テーマ変えよう…家族でバーベキューやった話にしよう…いや、ちょっと待って。今日という濃密な一日のことを書いてやっと2800字くらい埋まったというのに、家族でバーベキューしたことなんて、1000字埋まるかどうかすら危うい…詰んだ…うん、まだ夏休みは二週間あるしなんとかなる…!以上、桃子でした。

狂瀾怒濤の6日目fin.

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