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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part32

第百五十九話 スイカゼリーと成長披露
 こちら歩実あゆみ!最愛のお兄の自称最愛の従妹いもうと小森こもり歩実です!ざっくり言いますと、ずっと各地を飛び回ってるわたしの伯父さん…お兄のお父さんが久しぶりに帰ってきました。昔色々あったお兄にとっては、今本来同居する肉親は伯父さんただ一人。そんな唯一の肉親が帰ってくるんだからお兄だって嬉しくないわけがない。いつも以上に料理に腕が鳴っているようだった。ただ、わたしはお兄が大好きなので、お兄が料理しているところを見ると、わたしのためじゃなくてもどうしてもお兄におねだりしてしまう。だって、大好きなお兄の料理を食べられるなんて幸せじゃん!それでなんとか、お兄の料理の中で一番好きなオムライスの話題を捩じ込んで、おかーさんが、
「せっかくだしとおる、それ作ってみたら?」
と言ったところで、
「あ!わたしも賛成!多分伯父さんも驚くよ!あとわたしもまたお兄のオムライス食べたい!」
同調した。
「お前多分後者がメインだろ。」
お兄は恋愛とかはめっちゃ鈍感だけど、なぜかそういうところは鋭くて、すぐわたしの肚の内はバレちゃったけど。いや、わたしがわかりやすすぎるのかな。

 それにしても、おかーさんと伯父さんはよく似ている。兄妹だからそれはそうと言えばそれまでなんだけど、ほんとにそっくり。顔だちもそうだけど、性格というか気質というか…とにかく娘視点で見ても似てると思う。二人とも旅人気質だし。それに実際、二人ともお酒がまだ入っていないのに酔っているかのような感じだったし、ほんとにお酒が入ってからは…
「徹ー、お前そろそろこれはできたかー?」
「兄さーん、徹のこれは歩実の席でしょー?」
伯父さんとおかーさんはわたしとお兄に嫌な絡み方をしてきた。多分二人とも絡み酒?とかいうやつだと思う。にしてもおかーさん…流石にそれは…まるでわたしがお兄のお嫁さんになるべきみたいに言って…お兄には絶対そんな気ないのに。まあ?わたしは?そんなに悪い気はしないし?なんならお兄となら全然喜んでって感じだけどね?

 わたしはなんで心中でツンデレキャラみたいなことを言っていたんだろう。いずれにしても、わたしはお兄にその気がないなら、これ以上は望まないって決めてるんだ。紗希さきちゃんも幼馴染特権でお兄と一緒にいられたらいいって前言ってたけど、わたしの場合はそのポジションが幼馴染でなく従妹というだけ。従妹特権でお兄と一緒にいられたら、わたしはそれで十分だから。だって、恋愛には別れがあるかもしれないけど、家族にはそんなものないでしょ?まあ、色々あったお兄にとっては、家族だって別れうる脆い関係のものでしかないかもしれないけど。

 「歩実ー、ちょっと手伝ってくれないか?」
絡んでくる伯父さんとおかーさんの手を振り払ったのか、もうキッチンにいるお兄からお呼びがかかった。わたしは伯父さんとおかーさんに手こずりながらも、
「わかったー!今行くね!」
なんとか二人の手を振り払って、お兄の待つキッチンに向かった。そこには…
「あ!さっきのスイカ!」
伯父さんが持って帰ってきた普通より一回りくらい大きい(ように感じる)スイカがあった。
「やっぱりおっきいね!」
「だよな。ちょっとこれ切るから押さえといてくれないか?」
「りょーかい!!」
お兄との初めて…なわけがない共同作業!わたしはスイカの両側を押さえた。
「手、気をつけろよ。」
「うん!ありがとう!」
そしてお兄はあっという間にスイカを一刀両断した。

「それにしてもデカいな…」
「そうだね…切ったはいいけど、絶対食べきれないね…」
とりあえず、この半分はなんとか食べるにしても、もう半分は多分どうにもならない。どうすれば…あ!そういえば!
「ねえお兄!前に動画で見たんだけどさ…」
わたしはお兄に思いついたことを話した。
「お!いいじゃん、それやってみるか!」
お兄は乗り気になってくれた。
「じゃあ…酔っ払い二人の面倒を叔父さんが見てくれてる間に…」
「やっちゃおー!」
ということで、お兄との共同作業後半戦開始!まずは…
「とりあえずスイカの中身をぜんぶくり抜こう。スプーン取ってくれ。」
「はい、スプーン!」
「サンキュ。」
多分これが一番地道な作業。ただひたすらにスイカの身をくり抜きまくる!まあお兄と一緒なら楽しいからいっか!
「お兄…あとどのくらいかかるかな…」
前言撤回。やっぱりお兄と一緒でもこれはキツいや…
「何言ってんだ…まだ始めて2分だぞ。」
…音を上げるには早かった、いや、早すぎたみたいです。

 閑話休題。ちょっとお兄の口癖を盗んじゃったことは後で謝るとして、なんとか身をくり抜ききった。大変だった…
「やっと終わったー!」
「お疲れさん。じゃあとりあえずスイカの皮は冷蔵庫に入れといてくれ。」
そう言うとお兄は、くり抜いた身をフードプロセッサーに入れて滑らかな液体状にした。
「お兄、次どうしたらいい?」
「じゃあボウルとザル出してくれ。」
「はーい!」
お兄はわたしが出したザルでスイカだったものを濾した。そして濾した半分は別の容器に入れて電子レンジ行きとなった。この後冷やすのに…
「なんであっためるの?」
わたしはわからなかった。お兄がそんな不合理なことをするなんて思えないから、何か意図はあるんだろうけど…
「ああ、あっためておかないとゼラチンが溶けてくれないんだよ。ちなみに半分だけなのは、全部あっためると冷ますのが大変だから。」
「え?後でどうせ冷蔵庫で冷やすのに?なんで冷ます必要があるの?」
「あのな…粗熱をとる作業と冷やす作業は一緒じゃないんだぞ…」
「え?そなの?」
ヤバい…お兄に散々料理振る舞ったりしておいてこれは恥ずかしい…ってちょっと待って?もしかしてわたし、今までお兄に振る舞った料理味とか最悪だった?そういえば紗希ちゃんと作ったらなんかどす黒いものができて、お兄はそれを食べて…ちょっと寝込んでたな。あ、これわたしたち有罪ギルティなやつだ!

 わたしがやっと過去の過ちに気づいたところでレンジが温め終わりを告げる音を奏でた。
「じゃあゼラチンと砂糖測っといたから、溶かしてくれ。」
「…はい。」
わたしはもう何も言えない。ただお兄に従います。これ以上ボロを出したくないから。と言うことでお兄の指示通り、温まったスイカジュースにゼラチンと砂糖を投入して混ぜた。そしてお兄は冷蔵庫からスイカの皮を取り出した。
「やっぱ時間あまりかかんなかったから冷えなかったな。まあいいか。じゃあ歩実、ゼラチンと砂糖混ぜたジュース注いでくれ。」
と言われたので、もちろん何も言わずに皮にジュースを注いだ。そしてお兄は、粗熱がとれるのを待って、残りのジュースを注ぎ、ラップをした。
「よし、あとは冷蔵庫に入れて5時間待つだけ。8時くらいにはできるから、父さんにも食べてもらえるな。」
「間に合うね!よかった!」
「じゃあダイニング戻ろうか。嫁と嫁兄とは言え酔っ払い二人の相手してる叔父さんが可哀想だから。」
「あ、そだね。」
わたしたちはダイニングに戻り、再びおかーさん兄妹に絡まれた。ちょっとめんどくさい。

 日も暮れ、食卓に並んだものがほとんどなくなった頃、
「歩実、そろそろだぞ。」
お兄に手招きされキッチンに足を踏み入れた。
「そろそろ8時だもんね!」
わたしは冷蔵庫を開け、スイカを取り出してみた。4分くらい早いけどまあいいよね!試しにスイカを傾けてみると、溢れる気配がない。これは…
「お兄!これ!上手くいってる!」
「そうだな。上手くできてる。」
お兄のサムズアップ。ちゃんと完成したと捉えていいはず。お兄がこのスイカゼリーに包丁を入れた。スッと切れて、断面も綺麗。
「あら?やけに楽しそうね。」
酔いが醒めたのか、おかーさんが入ってきた。
「お兄に協力してもらってね、スイカ半分ゼリーにしてたんだ!今できたからみんなで食べよう!」
「歩実…あんな料理下手っぴだったのに…徹、ありがとね。この子見てくれて。」
「まあ、従妹の面倒はみるもんでしょ。」
「流石お兄ちゃんね!せっかく作ってくれたし、みんなで食べよっか!」
というわけで、ゼリーをお兄と食卓に運んだ。

 「ん!美味いな、これ。」
「歩実、徹くん、すごいよ!」
「あの歩実でも徹の手伝いがあればこんだけできるようになってくれて…お母さん嬉しい!」
おかーさんにはめっちゃ弄られてるけど、気に入ってもらえてよかった。お兄は伯父さんに、わたしも両親に成長を見せることができた最高の一日になりました!

狂瀾怒濤の7日目fin.

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