12シトライアル第六章 八百万の学園祭part2
第百六十七話 文化祭回顧録
「じゃあ紗希、またな。」
「ん、とーくんも歩実ちゃんも始業式がんば。」
「紗希ちゃんもがんば!」
「始業式出るだけだし、別にこれといって俺たちが頑張ることもないけどな。」
家の最寄り駅まで着いたところで、他校生である紗希とは解散。俺と歩実は同じ車両に乗り込んだ。
「あー!電車涼しい!」
「あまり大声は出すな。でもたしかに、9月なのにまだ外は暑いよな。」
「だよね、ホント嫌になっちゃうよ!」
9月に入って尚、今日の予想最高気温は当たり前のように30度を超えている。朝でさえ十分すぎる暑さである。
「そういえば、学園祭ってもう再来週末だよね?」
歩実が唐突に話題を振ってきた。そういえば…
「そうだな。歩実のクラスは準備進んでるか?」
「そりゃあね!みんな初めてだからすごい張り切りようだよ!多分みんな、夏休み中もほぼ毎日集まってたよ!」
従妹のクラスの団結力がそれほどまでとは…脱帽である。
「入学する前に見に行ったことはあったけど、まさか三日間もやるなんて思わなかったよ。」
「それは俺も一年の時思った。でもそれだけにすごい熱の入りようだよな。」
そう、我々東帆高校の学園祭は金、土、日の三日間に渡り開催される。去年先生が言っていたことには、自身のクラスの出し物も、部活の出し物も、そして他クラスや他部の出し物を見て回るのも、全員が全て楽しめるように三日間にしたのだとか。それぞれのシフトを三日間に分け、クラスのシフトに入るのは一日。他を見て回ったり部活の出し物のシフトに入ったりを残りの二日で楽しむ、ということらしい。
「ていうか、訊き忘れてたんだが、歩実のクラスは出し物何やるんだ?一年生だから何か飲食系をやるのはわかるが…」
「あ、やっぱり毎年そうなんだ!うちのクラスはねー、和風喫茶やるんだ!」
和風喫茶か…そういえば去年はなかったな、そういう系統のクラスは。
「じゃああれか。お茶と和菓子を出す感じか。」
「そう!あとは教室を和のテイストに色々飾ったりする感じかな!」
ちょうどいい和みの場、憩いの場になりそうだ。ただ…
「一応訊くが…和菓子を自分たちで作るとは言わないよな?」
その和菓子作りに歩実が関わるとなると、嫌な予感しかしない。
「最初はそうしようと思ったんだけどね、なんか調べたら和菓子作るのってめちゃくちゃ難しいみたいだから、流石に市販のやつを買ってきて、それをお皿に盛り付けて提供するスタイルにしようってことになったんだ。」
よかった。犠牲者が出ずに済みそうだ。和菓子職人の皆様、古より難しい工程にしてくれてありがとうございます!
「お兄のクラスは…お化け屋敷だっけ?」
「ああ、まあ学園祭の定番だけどな。」
絶対どこの学校の学園祭を見に行っても、2クラスか3クラスはお化け屋敷やっているよな。幸い、東帆では一年生は飲食、二年生は娯楽、三年生は演劇というように、学年ごとにテーマが決まっており、その中でも、出すものが極力かぶらないように繰り返し協議が執り行われるので、そうそうかぶることはない。ちなみに他のクラスは、縁日、簡易的なジェットコースターやメリーゴーランド、トロッコを使ったシューティングゲーム、謎解きやカジノ、さらには漫才なんかに手を出すクラスもある。言ってしまうと素人しかいないわけで、漫才として成り立つかはわからないが、ちょっと見てみたいものだ。
「お兄はシフト入ってる日は何するの?」
「それがな…」
遡ることおよそ二ヶ月。
「テストも終わったことだし、夏休みに入る前に、学園祭!うちのクラスは何をやるか決めよう!」
学級委員の芹奈が仕切って、学園祭の話し合いの場が設けられた。その結果…
「多数決の結果、お化け屋敷で!さっき他のクラスの学級委員と話してきたけど、他のクラスと奇跡的にかぶることなく、お化け屋敷で大丈夫みたいです!」
定番なのにかぶらないことってあるんだな…と思った。むしろ定番だからみんな避けたのかもしれない。
「今度はシフトと配役決めましょう!」
まずは部活のシフトが決まっている人が優先的に日程を選べるようにやっていたので、卓球部でのシフトが土曜日と決まっていた俺は、日曜のシフトに入れてもらうことにした。ちなみに卓球部では、某体育会系バラエティ番組での人気コーナーの真似事だが、我々が用意した20枚の的をプレイヤーが撃ち抜き、その枚数によって景品を授与する、というものだ。俺はプレイヤーへの球出し役として、土曜日のシフトに入っている。なぜかうちの卓球部には多球練習用の球出しマシンがないので、人力なのは仕方がない。
「じゃあ、全員のシフトが決まったので、曜日ごとに集まって、それぞれの役割を決めてください!決まったらわたしに教えてね!」
ということなので、日曜シフトで集まったところ、一年生の頃からの友人である山内哲哉や、学級委員ご本人の芹奈がいて、それ以外の10人は…正直話したことがない面々だった。
「それじゃあ役割決めようか!」
クラスのお化け屋敷のテーマは、ドラキュラの館であるため、最後に待ち構える棺の中のドラキュラ、道中に待ち受ける有象無象の仕掛けや下級お化け、そして受付係が大まかな役割だ。
「誰かこれやりたいってのがある人いるー?」
芹奈はそう訊くが、哀しいかな、無論誰も手を挙げないのが現実だった。さらに哀しいかな、
「じゃあ…とりあえずてっちゃんは最後のドラキュラでいいよね!」
一番ハードルが高い配役に指名された。そしてその上を行くレベルで哀しいかな、全員頷くのだ。なんでだよ…こういうのって、基本的には誰か一人くらいは率先してやりたがるヤツがいるのが鉄板の流れだろ…
「てなわけで、ドラキュラ役になった。」
「わお、それは…ご苦労様。わたし、日曜はシフトない日だから、どこかのタイミングでお兄のドラキュラ姿見に行くね!」
「お前、来るならアトラクションとして楽しみに来いよ…」
「それももちろんだけど!貴重なお兄の仮装姿だよ?写真撮らなきゃ損じゃん!」
それをお化け屋敷というアトラクション内でやられてしまっては敵わないのだ。だが我が従妹は、一度決めたことはそうそう曲げない。全く、誰に似たんだか。来ることが決まっている以上は、全力で脅かさないとな。
「あと、ついでにトマトジュース差し入れするね!」
「そこまで設定に忠実じゃなくていい!」
「じゃあコーヒーにしとくよ!」
「それは…ありがたい。」
閑話休題。
「そういえば、お兄の去年のクラスって何やってたっけ?」
歩実がまたまた話題転換。去年はたしか…答えようとしたところ、
「去年私たちがやったのは粉もの三昧ショップ。たこ焼きとかお好み焼きとか焼きそばとか。傍から見たら学園祭でも何でもない、ただの季節外れの夏祭り。」
そう言って俺の右側から、俺が答えようとしていたことを不意に答える声があった。
「桃子、同じ車両にいたのか。というか、お前いつから俺の横にいたんだ?全く気がつかなかったよ。」
「徹がドラキュラ役になった経緯を長々と話していた辺りからいた。」
恥っずかし!
「徹、歩実ちゃん、改めておはよう。」
「おはようございます!」
「お…おはよう。」
軽く消えてしまいたい気持ちになりながらも、桃子の挨拶に応じた。
閑話休題。その後も…
「そういえば、去年粉もののクラス行った時、お兄いなかったからクラス間違えたかと思ったけど…」
「それは徹が基本的にずっと調理室にいたからかな。」
「あー!今納得しました!」
このような具合で、歩実は桃子にも質問を重ね、初めての学園祭へのイメージと期待を膨らませているのが見てとるようにわかった。そして学校の最寄り駅に着いたが、歩実の探究心は止まらない。コイツ、ここまで熱心だっけ?などと思っていたところ…
「おはよー!ミスターヴァンパイア!」
何度も聞いたことがある五月蝿い声で、一度も聞いたことがない呼ばれ方で挨拶され、そしてそのまま腰に重篤なダメージが入った。何事かと思って振り返るが、もはや犯人はわかっている。
「芹奈…朝っぱらから何なんだよ…」
「お!よくわたしだってわかったね!」
「夏祭りの時も同じようなことがあったからな!流石に学習するだろ。」
ワンパターンすぎるが故に、その声と相まって芹奈だと丸わかりだった。
「あとミスターヴァンパイアってなんだよ。」
「だってヴァンパイアでしょ?」
「お前にドラキュラにされたんだが?」
「???」
みんな、コイツそろそろ処していい?
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