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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part28

第百五十五話 ドラゴン・メロン・滅多刺し
 俺と紗希さきはプールで遊んでいた中、流れるプールで前にいる人と紗希が接触し、俺たちは謝罪したのだが、ぶつかってしまった当人が振り返ると…
「「「「「え?」」」」」
俺たちと前の三人は一斉に驚きの声を上げた。
とおるくん?!それに紗希ちゃん?!」
真凜まりん大城おおしろ先輩?!と、なんでその面々の中で桃子とうこが?!」
「ももちゃん、久しぶり。」
「紗希ちゃん、ご無沙汰。」
「こんなとこで会うなんて奇遇ね。」

まさかこんなところでばったり出会すなんて思わなかった。そういえば、夏休み前に大城先輩が言ってたような…真凜と由香里ゆかりとプール行く約束をしていると…あれ?
「そういえば今日は由香里一緒じゃないんですか?」
「え?なんで徹くんがそのことを?」
「いや、前図書室で委員会の仕事中に大城先輩に聞いたんだよ。夏休み中に三人でプール行く約束してるって。だから先輩と真凜がいるならアイツもいるかと思ったんだが…」
「あれ?きしくん、由香里ちゃんも一緒の方が良かったかしら?」
「え?そんなことはないですけど、不思議だなーと。それにその代わりに桃子がいるのも謎ですし。」
(他意はなさそうね…)
なんか大城先輩の表情に含みがある気がする…まあ人の気持ちに対して鈍感だと大城先輩から定評のある俺のことだ。多分気のせいだろう。

「徹くん、由香里から聞いてない?」
真凜が問いかけてきた。
「え?何を?」
「あ、やっぱり徹くんには言ってなかったんだ。由香里、大会の疲れから熱出しちゃって…」
「で、流石にそんな状態の由香里ちゃんは連れて来れないねってなって…」
「今日になって私が誘われた。で、せっかく林間学校用に買った水着も着る機会ないし、承諾した。」
なるほど、それで由香里がいなくて桃子が来てるわけね。由香里のヤツ、大丈夫だろうか…
「でも桃子を誘ったんです?」
「私もなんで誘われたのかわからない。」
「それなんだけどね…本当は早苗さなえちゃんも誘ったんだけど、早苗ちゃん泳げないみたいで…」
ああ…泳げない田辺たなべさん、失礼ながら容易にイメージできてしまう。

「そういえば、そっちも今日は歩実あゆみちゃんいないんだね。」
「ああ、アイツも泳げないっていうか、昔溺れかけたトラウマが…その割に林間学校のラフティングはめっちゃ楽しそうだけど。」
今思うと不思議だな。芹奈せりなが異様にうるさく楽しんでいたが、それに匹敵するくらいに歩実も楽しんでいた。自分が落水しなければ平気なのか?てことは、あの時うちの班の一年生で歩実だけ落ちなかったのはまだよかったのか。他の子たちが落ちたのは確実に歩実のせいだが。

 「それはそうと徹、私の水着、似合ってる?」
そういえばここプールだったな。会っている面々が学校で会う面々なせいで忘れかけていた。問いかけてきた桃子は、紗希と三人で買い物をした時の赤…じゃなかったな。緋色のワンピースタイプの水着を纏っていた。低身長なことも相まって、小学生に見えなくもない。だが白い肌に緋色の水着がよく映えている。
「綺麗だと思うぞ。」
「…断定してほしかった。まあいいや。」
「徹くん!私は…どう?」
真凜も尋ねてきた。紗希や桃子については以前少しだが見たことがあったが、真凜や先輩は完全初見である。真凜は黄緑色で、上下分かれている水着を着ている。色は違えど、形状は紗希と似ているが…
「まりりん、メロン…」
紗希…それは多分そう見えても言わない方がかいいやつだぞ。紗希が言っているからギリギリいいようなものの、俺が言うのは社会に許されなかっただろう。
「たしかに私も鏡見て思ったよー!私、いつメロン農家になったんだろーって!でも、私より紗希ちゃんの方が大きいし、水着逆だったら紗希ちゃんが特選メロンだったね!」
…どういうわけだか本人は面白がっているが。ていうか、それにしてもなんちゅう会話だよ、これ…聞いている俺が気まずいわ。そして桃子は遠い目をしている…お察しします。

「あ!でも私たちはよくて、先輩もすごく綺麗だよね!」
「ほんとに。もはや輝いて見える。」
「ちょっ、桃子ちゃん…過言よー!」
「先輩さん、ドラゴンメロン…」
もう紗希の頭にはメロンしかないのだろうか…てか何だよ、ドラゴンメロンって…なんとなく想像はできてしまうが。俺は頑張って目を背け続ける。
「…岸くん、なんでずっと私の方は見ないの?真凜や桃子ちゃんの水着は普通に見れて、私のは見れないって言うのかな?」
ホントにこの人、いい加減自分が美女且つスタイル抜群なこと自覚してくれないかな…普段学校で話しているだけでも周りからの視線が痛いと言うのに、プールともなれば、その視線の数は計り知れないし、何より水着の先輩の美貌に惹きつけられている男どもも多いだろう。いつもは鋭く突き刺さる程度の視線が、今日は先輩を見ないようにしても尚、俺の体が穴だらけでもはや残らないレベルで貫通しまくっているのがよくわかる。ちょっとこのままじゃ色々まずいと思い、俺はラッシュガードを先輩に手渡した。

先輩の恰好が目に毒なものではなくなったので、俺は気を取り直してプールを満喫することにした。のだが…
「徹、せっかく会ったのに私たちとは遊ばないの?」
桃子に呼び止められた。
「何のために私たちは来たと思ってる…」
「いや、普通に三人で遊びに来たんだろうが。」
これで俺に会うために来たって言ったら流石に盗聴を疑う。単純に怖い。
「それはそう。でも、私はいつも思ってる。偶然徹に会えたら面白いのにって。」
(なんか、今日の桃子ちゃん結構積極的ね…)
「それは私も!ていうか、なんやかんや徹くんとは一緒に働いてるだけで、ちゃんと遊んだことない!遊んでみたい!」
真凜も便乗してきた。
「なら、五人で遊べばいい。とーくん、異論はない?」
紗希まで…まあ今日俺を連れてきたのはコイツだし、紗希がいいならいいか。
「わかったわかった。」
もはや降参である。
(真凜も桃子ちゃんもこんなに積極的に…面白くなりそうじゃない!っていうか、なんでここまでわかりやすくて岸くんは気づかないのよ…なんか見てるこっちが腹立ってくるわ…)
先輩は俺たちの方を見ながら…いや、なんか俺を睨んでる?なんか…怖い!

 それから浅く広いプールに移動して、しばらく大城先輩が持ってきたビニールボールでビーチバレー…とは違うが、そんな類の遊びに興じていた。一つ遺憾だったのは、チーム分けが俺vs女子四人だったこと。ある程度運動が得意だからって、数の暴力で俺は何もできなかった。まあ本来これは競技でなく、遊びだから全力でやる必要はないが、俺はどうにも意地で全力でやってしまうのだ。結果、今俺は流石に疲れてベンチで休んでいる。そこに、かき氷を二つ持って大城先輩が来た。先輩もお疲れだろうか。すると、
「岸くん、なんかごめんなさい。」
なんか謝られ、かき氷を片方俺に渡してきた。最近はかき氷で謝罪ってのが流行ってるのか?

「あそこまで全力でやった俺の自業自得ですよ。でも、流石に真凜もいるのに1vs4は酷ですよ。」
「それはそうよね!でもそこじゃなくて、その…今日は巻き込んでごめんね。」
「いいんですよ。こういうの、人数多い方が楽しいじゃないですか。まあ、女子とこういうところ来るって慣れてないんで戸惑いは大きかったですけど。でも、楽しめてるのも事実なので。先輩は?楽しんでます?」
「ええ。受験勉強のいい息抜きになってるわ。最初に誘ってくれた真凜にも、急遽付き合ってくれた桃子ちゃんにも感謝だけど、岸くんもありがとうね。」
「え?俺ですか?」
「ええ。あの二人、岸くんに遭遇してからの方が明らかに楽しそうなのよ。仲良い子たちが楽しそうだと私も嬉しいから。」
そうなのか…気づかなかった。にしてもホントにこの人、いい先輩だな。
「まあ、なんでアイツらがより楽しそうになったか、俺にはわかりかねますけど、どんな形であれ、役に立ててるならよかったです。」
(ホントに…罪な男ね、岸くんは。)
先輩が謎の笑みを浮かべる。この人たまにこうなるんだよな…
「さあ!まだまだ楽しみましょ!」
まあ、いいか。
「ですね。」
とにかく今日は楽しもう。とはいえまだ休みたいので先輩ともう少し話してるか。話題…
「そういえば先輩、受験勉強は最近どうです?」
「ねえ岸くん、今日はその話やめましょ?」
先輩の語気と顳顬こめかみに青筋が見えたので、俺は口を噤んだ。コミュニケーション難しい…とりあえず先輩、お察しします。

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