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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part9

第百三十六話 仮初のおバカキャラ(?)
 「お待たせしました!フルーツパフェです!」
「こちら、ホットのアールグレイとプリンになります。」
「「ありがとう「ございます」!!」
先程完成させて品々を岩井いわい姉妹に無事に提供した。
真凜まりんちゃん!パフェめっちゃ綺麗!フルーツの切り方も!でもってめっちゃ美味しい!これ作ったシェフ呼んでくれない?」
「いや、三つ星のレストランかよ…」
「そう言ってもらえて嬉しいよ!あ、一応それ作ったの私なんだよね…」
「えっ!真凜ちゃんすごっ!」
「恐れ多いなー!」
真凜が作ったパフェに芹奈せりなはご満悦のようだ。

とおるさん!紅茶淹れるのお上手なんですね!」
杏奈あんなちゃんから、今度は俺が賛辞を賜った。
「あれ?俺が淹れたって言ってたっけ?」
「単なる憶測ですけどね!真凜さんがお姉ちゃんが食べてるパフェ作ってて、マスターさんはずっとコーヒーと睨めっこされてましたから、今日は他の店員さんも見当たらないし徹さんかなー、と。」
なるほど、まあなぜか俺のシフトの日にこの店にいるのは基本的にマスターと真凜だけだからな。

「まあ、私もお姉ちゃんに言われて気づいたんですけどね。」
「え?芹奈が?」
驚くことに今の杏奈ちゃんの推理は芹奈がしたものの受け売りらしい。あの芹奈が?!流石に…偶然だよな。なんて思ったが、思い返してみると、芹奈の有能エピソードは記憶しているだけでも割と数多あまたある。籤引きといい野外炊爨の調味料(杏奈ちゃんのやつを一式持ってきただけだが)といい異様に準備がよかったり、今の推理のキレだって正直抜群だ。さらに、他の科目は全科目赤点と言っていたのに、平均点の低かった英語表現のテストが間違いなく学年トップ5にはは入りそうな点数だったというのもある。コイツ、ホントは高い能力を持っているのに自分の能力を隠してるのか?だとしたら抑えないといけない事情でもあるのか?というか、考えてみればおかしい。東帆とうはん高校はなかなかの偏差値を誇る進学校だ。もしほぼ全教科で赤点なんて素で獲っていたとしたら、この学校に入学できたことへの疑問すら生じる。

流石にこのまま疑問なのも消化しきれないので、本人に尋ねようとした。だが、俺は開こうとした口をつぐんだ。自分でもよくわからないが、なぜか訊いてはいけない。そんな気がしたんだ。そして言葉を選び、
「芹奈、お前なんかちょいちょい冴えてるよな。普段あんな感じなのに。」
「ちょっ!失礼じゃない?!てっちゃんわたしを何だと思ってるの?」
「愚鈍の極みJK?」
「流石に泣いていいかな?!」
多分、こういう冗談交じりの表現じゃないと、ダメなんだろうな。ホントに訊いてしまうと、壊れてしまう、おそらく芹奈が。俺の勝手な憶測でしかないが。

 「あのー、話題変えましょうか。徹さん、県大会っていつなんですか?」
杏奈ちゃんが話題を変えてくれた。正直精神的にかなり助かった。
「あー、えっと…」
「今週の土日だよね?」
俺が答えるより先に真凜が答えた。
「あれ?違った?」
「いや、合ってるけど県大の話したっけ?」
「徹くんからは何も聞いた覚えはないけど由香里ゆかりが言ってたから!」
「なるほど。」
やはり仲の良い友人間での情報伝達の速さには目を見張るものがある。
「じゃあお姉ちゃんと観に行っていいですか?」
「流石にダメなんて言えないよ。むしろ応援に来てくれるのはこちらとしては嬉しいからさ。」
「ありがとうございます!」
こちらこそありがとうなんだけどな。

「てっちゃんごめんね!初日はわたしたち予定できてるから、2日目だけ行かせてもらうね!」
「別に来てくれるだけありがたいから片方の日程だけでも全然気にしないのに。」
「そっか!じゃあ日曜日行くね!」
「あ!徹くん、私は2日間とも行くよ!」
「そういえばお前ここのシフト土曜入れてないの?」
「どうせ徹くんも土曜はいないし、もう徹くんごと他の人に代わってもらいました!」
「いや、行動力よ!」
「まあ、私としては地区大会の時は団体戦とか観れなかったし、徹くんも由香里もシングルはそんなにたくさん観てないから、ちゃんと全部観たくて!それに、また二人のタッグ観たいから!」
コイツは、我々のファンの方か何かですか?

 再びドアのベルが鳴った。
「いらっしゃいませー!空いてるお好きなお席にどうぞー!」
真凜がいつものように元気に対応する。岩井姉妹と話していてすっかり忘れていたが、今はまさにティータイム。おそらく最も忙しい時間と言えるだろう。そりゃあお客様もどんどん入ってくるよな。真凜が案内した男女2名様(カップルだろうか)は、芹奈から2席隔てたカウンター席に座った。
「あのー、お兄さん、何かおすすめあります?」
男性の方のお客様に尋ねられた。あまりこういう質問受けることもないからな…どう答えようか…などと考えあぐねていると、
「あのー、すみませーん、この子が食べてるプリンとかティータイムにピッタリですよー!」
まさかの芹奈が杏奈ちゃんが食べているプリンを指差しながら言った。俺としては苦手な対応の間に割って入ってくれて助かる限りだが、やっぱりコイツ、察知能力とか諸々高くね?そして杏奈ちゃんも横から突然話しかけられたお客様も呆気にとられている。

「なるほど、ありがとうございます!」
女性の方のお客様が沈黙を破ってくれた。さらには、
「じゃあ、プリン二つお願いします!いいよね?」
隣の男性に尋ねつつオーダーしてくれた。
「えっと…じゃあ、お願いします。あと、ブレンドコーヒーも2杯お願いまします。って、あれ?ブレンドでよかった?」
「うん、大丈夫だよ!」
コーヒーのオーダーまで入った。ありがたい…俺はおすすめの質問という、ありふれたようでそうそうない質問を芹奈のおかげで凌いだ。
「それではご用意させていただきますので、しばしお待ちください。マスター、ブレンド2杯お願いします!」
「了解。」

 「まさかお前が何か言ってくるとは思わなかったけど、正直助かったよ。ああいう対応苦手なんだよな…ありがとな、芹奈。」
「いいんだよ!わたしはむしろこーゆーの首突っ込みたくなっちゃう人種だし、てっちゃんが苦手そうなのもなんとなくわかるよ!」
いやはやお恥ずかしい限りである。しかし、仮にもお客様に他のお客様の対応をさせてしまったということにはなるので…
「そうだ、これは今の対応の謝礼ってことで。」
「え?そんなん別にいいのにー。」

「ここは店で、俺は店員、お前はお客様。そうなってる以上、お客様が他のお客様の対応をしてくれたんだから、何かしらの対価はないとフェアじゃないだろ?だからこれ。」
そう言って俺が差し出したのは、二枚一組のクッキーだ。どうせ杏奈ちゃんとシェアするだろうしこれがちょうどいいだろう。
「まあ、そういうことなら…いただきます!」
これで義理は通した。貸し借りなしだ。
「真凜、しばらくこっちの対応頼む。プリン用意してくるから。」
「はーい!お任せあれ!」

 いつものように、プリンを軽く温めて提供用の容器に移し替え、最後にホイップを絞る。プリンの提供はとても簡単である。手間がほとんどかからない。こういう繁盛時に手間がかからないオーダーが入るのは我々としては非常に助かる…って待てよ?プリンをあのカップルらしきお客様に勧めたのは芹奈。そしてあの時間にはもう既に店は混み始めていた。何より、芹奈が勧めるものとしてプリンを挙げたのは違和感がある。自分が食べていたパフェを勧めてもよかったはずだ。それなのに自分が食べておらず、提供に手間がかからないプリンを…

またまた俺の憶測でしかないが、芹奈は俺たちの負担を考えてプリンを勧めたのではないだろうか。流石に俺の考えすぎかもしれないが、そうだとしたら、やはり芹奈は仮初のおバカキャラにすぎず、ホントはかなり頭のキレる人間なのではないだろうか。そう考えながら俺はお客様にプリンを運び、
「お待たせ致しました。プリンでございます。コーヒーはもう少々お待ちください。」
気遣いの結果と思われるプリンを提供したのだった。

 「ごちそうさまでした!」
「芹奈ちゃん、杏奈ちゃん、また来てね!」
「はい!」
「その…芹奈、ありがとな。助かったよ。」
「またそのこと?もういいって!わたしがやりたくてやったんだし!」
「いや、そのことというか…まあ、いいや、とにかくホントにありがとな。」
俺は感謝を続けたが、その真意を知ってか知らずか芹奈と杏奈ちゃんは帰って行った。

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