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12シトライアル第二章       アンカー番号12番part24

第四十二話 体育祭は回転に始まる
 今日を迎えるまで、本当に色んな酷い目に遭った。終わらない特訓をさせられたり、練習中に関節極められたり、幼馴染と従妹に毒を作られたり、体育倉庫に閉じ込められたり…

 だが、今日はついに待ちに待った体育祭だ。黒組とかいう名前こそ不穏な組だが、精一杯楽しんでやる!!そして今、全体での準備運動を終え、自陣に戻ってきた。この後行われる最初の種目は、障害物競走だ。我々黒組からは俺や桃子とうこ、その他大勢が出場する。

 小柄なおかげか、小学生の頃から桃子は障害物競走は得意だったらしい。これは期待大だ。そう思い、桃子の方を見てみると、震えていた。武者震いだろうか。
「どうしたんだ、そんなに震えて?」
「あ、とおる…障害走、楽しみだったんだけど…」
「何か問題でもあったのか?」
「今年、障害として跳び箱が導入されたみたいで、私、跳び箱跳べない…」
……致命的だ…
「でも、せいぜい5段くらいしかないだろ。」
「1段も跳べない…」
んなバカな!!桃子は俊敏性には富んでいるけれど、どうやら跳躍力が皆無らしい。そんなことある?まあ、なるほど道理で…コイツの震えは跳び箱に恐れ慄いてのものだったのか。

 そうこうしている間に、障害走が始まった。まずは一年生のレースからだ。頼む、黒組の一年たち!可能な限り一位を乱獲してくれ…!結果、
「12レース中一位1つ、二位三位3つずつ、そして…」
「ビリ5つ…」
俺と桃子は顔を見合わせてこの結果にどんな感情を抱いていいものかと案じた。
「ここまで幸先の悪いスタートになるとは…」
「想定外…」
「ま、俺らで巻き返そうぜ!」
「でも、私、跳び箱…」
先ほどの一年生のレースで確認したところ、跳び箱の高さは女子のレースでは4段。とても高校生に跳ばせる高さではない。となると…
「桃子、耳貸してくれ。いい方法がある。」

 そして、二年生のレースのスタート。第一レースは俺だ。
「位置について、よーい…」
パァン!とスタートを告げる銃声が鳴り響き、俺は走り出した。最初の障害はネットだ。難なく潜り抜けて行く。続いて平均台のような一本橋。落ちたらやり直しだ。これもなんとか一発で抜けた。そして次は麻袋に入って15mほどの移動だ。少々体勢が危なかったが、なんとかトップのまま通過。そしてラスト、跳び箱。男子は7段だ。これくらいなら余裕!そう思っていると、

「てっちゃーん!トップなんだし魅せてよー!ハンドスプリング!!」
同じ組のくせに芹奈せりなが余計な野次を飛ばしてきた。するとそのノリに合わせたか、黒組の連中が、大“てっちゃん”コールをよこしてきた。何回も言うが、俺は“とおる”なので、誠に遺憾である。こんな状況で日和って普通に跳んだら大ブーイングを飛ばされるのが目に見えたので、

「ほらよっと!!!」
お望み通り、ハンドスプリングをやってやった。場内が大歓声に包まれたところで、俺はそのままゴールした。にしても芹奈、余計な手間かけさせやがって…後で説教だな。あとは頑張れよ、桃子…!

 二年生のトリ、12レース目。ここで登場するのが桃子だ。あの秘策でなんとかトップを獲って欲しい。

「徹から教わった、秘策…これしかない…!」
「あなた、とーると仲いいの?」
「あなたは?」
「あたしは織田由香里おだゆかり!とーると同じ卓球部!」
「私、多田ただ桃子とうこ…よろしく…」
隣から桃子に話しかけたのは、徹と同じ卓球部の由香里だった。どうやら同じレースに出るようだ。
「いい勝負しようね!負けないよ!」
「こちらこそ…」
「とーるからの秘策、何だかは知らないけど、出せるといいね!」
どうやら聞こえていたようだ。顔にこそ出ないが、桃子は些か驚いた様子だった。

 「位置について、よーい…」
パァン!再び銃声が鳴り響いた。

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