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12シトライアル第四章       勝負のX-DAYpart38

第百二十二話 勝手にインスパイア
 お昼休憩を挟み、30分間ダブルスとミックスのアップの時間が与えられた。俺は今回もダブルスには出場せず、由香里ゆかりを相方にミックスに出場する。そして今回、ミックスの県大会出場枠は3つ。決勝に進めば無条件に県大会進出が決定する。我々東帆とうはん高校から出馬するミックスは俺と由香里、そして男女それぞれの部長である桜森さくらもり先輩と春田はるた先輩のコンビの2チームだけで、幸い山は反対側。つまり、決勝まで当たることはないので、うまくいけばお互い県大会進出を決めた状態で戦うことができる。俺からすると、桜森先輩には昨日シングルスで負けているので、そのリベンジの意味も込めてなんとしても先輩たちと戦いたいし、そして勝ちたい。それはおそらく由香里も同じだろう。

 練習が終わって観覧席に戻ったところ、
とおるくん!由香里!全力で応援するね!」
「だからまずは、県大会出場決めちゃってくださいね。でも、きしさんも織田おださんも、無理だけはしないでくださいね。」
今日来ている同校の同級生からのエールを受けた。
「岸くんも由香里ちゃんも頑張って!でも、今こんなこと言うのもあれなんだけど、決勝であの二人と戦うってなったら、私は申し訳ないけどあの二人を応援することになる。ただ、あなたたちも頑張ってほしいってことは先に言っておくわ。」
「「ありがとうございます!」」

「お兄!午後も勝ってね!今日のお兄の目標!無敗!!でいいよね?」
「勝手に決めないでくれ…」
「大丈夫、とーくんは負けやしない。」
「まあ負けるつもりはないけど…ありがとな。」
「とーる、大人気だね…もっととーるの友達、しかも女の子は少ないと思ってたんだけど…」
「俺もなんか気づいたらここまで交友関係広がってたくらいだからな…」
「ふーん…」
コイツは何が言いたかったんだろう…

 閑話休題。その後コールがかかってダブルスとミックスがそれぞれ始まったのだが、お決まり展開なのでだいたい想像はつくだろう。とりあえず2回戦までは余裕で勝ち抜くことができて、今は3回戦のコールを待ちながら、東帆高校から出ているダブルスの試合を由香里たちと観ている。由香里たちと言うだけあり、やはり漏れなく応援メンバーも一緒にいる。
「ねえお兄。あの二人、前見た時はもっと険悪な感じだったんだけど、息ぴったりに見える!何があったの?!」
「正直俺もよくわからない。でも、仲良くしてくれるのはいいことだし、何でもいいだろ。」

そう、今見ているのは東帆高校一年の犬猿コンビでお馴染み(?)の金本かねもと下北しもきたのダブルスだ。金本は相手のボールに対して落ち着いて処理して、帰ってきたボールを下北が撃ち抜く。とてもいいコンビだと思う。よくダブルスは仲が良すぎると上手くいかないと言う話を聞く。だが俺は異議を唱えたい。仲が良すぎるのがダブルスが上手くいかない原因じゃない。お互いに頼っている状況を通り越して、お互いに依存してしまう、または逆にお互いに遠慮しまくってしまう。それが一番の原因だと俺は思っている。その点あの二人は仲が改善されたが、ちょうどいい具合で持ちつ持たれつという関係性を保てていて且つ、今より仲が悪かった頃から変わらず、お互い思っていることをストレートに言い合える関係だとわかる。だからこそアイツらは強いのだ。きっと仲が悪い方が強いというのも、お互い遠慮なく本音で語り合えるからなのではないだろうか。

「みんなお疲れ様!徹くんと由香里ちゃんは今どういう感じ?」
そう言いつつ春田先輩が戻ってきた。
「今3回戦のコールを待ってるところです!莉桜りお先輩たちはどうなんです?」
「私たちも…」
由香里の質問返しに答えようとした春田先輩の言葉を後ろから遮り、
「今2回戦終わったところだよ。お互いあと3回勝てば当たれるってことだよね。」
遅れて戻ってきた桜森先輩が答えた。多分本部に勝利者報告をしに行ってたのかな。
「もう既にめちゃくちゃ楽しみですよ。」
「あたしもです!」
俺たちとしてはどうしても最後に先輩たちと戦いたいのだ。俺はリベンジの意味も込めてだが。
「そりゃもちろん俺たちも…」
「楽しみにしてるし、そこまでは絶対負けられないね!お互いあと3戦頑張ろ!」
「「はい!!」」

そんな会話をしていた折、
「由香里!徹くん!れいちゃんと心愛ここあちゃんマッチポイントだよ!!」
一緒に応援していたうちの一人、真凜まりんが教えてくれた。そして俺たちはアリーナの方に向き直り、アイツら二人の行く末を見守ることにした。サーブは下北。マッチポイントというだけあって、とても入念にサーブの打ち合わせをしている。そして一つに決まったのか、下北がフォアサーブの構えに入る。一度上げられて落ちてきたボールを正確に擦り、ボールは相手のミドル寄りギリギリのフォアに入った。すごいいいコントロールだ。相手が咄嗟にバック面で打ち返すと、下北の回転から計算したのか、金本はバックに回り込んで全力でラケットを持つ右腕を振り翳した。アイツ…あんな攻撃までできるようになったのか。

「二人ともナイスー!!」
この金本の一撃を以て、犬猿コンビは勝利を修めた。これで3回戦進出だな。
「それにしてもさ、シングルスの時も思ったんだけど、玲ちゃんのプレー、少しずつとーるに似てきてない?」
由香里にそう言われて少し考える。
「たしかに俺がやりそうなプレーはちょいちょい垣間見えるよな。まあ、俺みたいなタイプのプレーは女子は特に苦手な人多いだろうし、俺の技術が活きてるなら本望かな。」
参考にしてもらえるのは、正直かなり嬉しいものだ。

 数分後。
「「勝ちましたー!!」」
二人が意気揚々と帰ってきた。
「お疲れ。いい試合だった。あと金本、別に構わないんだけど最後また俺の真似しただろ?」
「ありゃ、バレましたか。えっと…そうですね…岸センパイのプレー、あたしは個人的には受けるの苦手なんで、もしかしたら他の女子も苦手かなーって思って勝手にインスパイア中です!」
なんか変な間はあったような気がしたが、やはりそういうことか。オマージュの方が表現としては妥当なのでは?とも感じたが、そんなことはどうでもよくて、見本になれているのは単純に嬉しい…が、何やら由香里や下北、その他応援団もみんな何やらニヤニヤしている。なになになに?!

「みんな、なんでそんなニヤついて…」
「ごめんごめん!何でもない!」
…怪しすぎる。
(玲、側から見てると…)←心愛
(わっかりやすー…)←由香里
(多分玲ちゃんも徹くんのこと…)←真凜
(好きなんでしょうけど…)←早苗さなえ
(そしてやっぱりお兄…)←歩実あゆみ
(相変わらず超絶怒濤の激鈍男子ね…)←流唯るい
(とーくんの試合まだかな…)←紗希さき
コイツらは何を考えているのか、全く知れたもんじゃないが、混沌カオスな空間だ。

 その後、俺と由香里にコールがかかり、3回戦も、そしてその後無事に準々決勝も突破。時を同じくして、桜森先輩と春田先輩も準決勝進出を決めたようだ。お互いあと1回勝てば決勝での一騎打ちとなる。絶対に実現させるためにも、準決勝は何が何でも勝ってやる!と、今大会何度目かもわからない誓いを立てたのだった。

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