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12シトライアル第四章       勝負のX-DAYpart34

第百十八話 料亭級家庭料理
 初日の全日程が終了し、俺たちは一度解散。それぞれ明日のダブルス、ミックス、シングルスの上位戦に向けて英気を養ってくることとなった。ちなみに東帆とうはん高校の男子で明日のベスト8決めに残ったのは、俺を叩き潰した桜森さくらもり先輩一人。そして県大会出場最後の一枠を賭けた16人での17位決定トーナメントには俺が残っている。女子はと言うと、部長の春田はるた先輩と俺のミックスのパートナーの由香里ゆかりは既に県大会出場を決めており、明日準々決勝から始まる。二人は勝ち進めば準決勝であたるらしい。見たい。にしても、女子は全体の競技者が少ないから勝たなければいけない回数も少ないのは羨ましいが、県大会の枠が男子の17に対して10しかないのは可哀想だ。

 色々考えながら歩いているとやがて、家の前に戻ってきていた。ドアノブに手をかけると、後ろから約2名、俺の身柄を拘束してくる輩がいた。
「なんだよ?」
「お兄、お疲れ様!!」
「とーくん、この後ご飯うちで食べよう?」
どうやら俺の従妹いもうとと幼馴染は、お疲れ様会のようなものを催そうとしてくれているらしい。
「…でも、俺明日も試合あるぞ?」
「だから!お疲れ様っていうのと、明日も頑張れっていうのをどっちも込めて!」
「…とーくん、だめ?」
…そんなことを言われたら俺は断れない性格なの知ってるな、コイツら…まあいいや。
「わかった。ただ、先にシャワーだけ浴びさせてくれ。汗とかもうすごいことになってるから。」
「「それではお背中お流し…」」
「させねえよ?!」
油断も隙もねぇ…てか、考えてみればよくないよな?コイツら、毒味の相乗効果ツインズじゃん…別に双子じゃないけど。先に由香里に謝っとこうかな、明日俺死んでるかもって。

 閑話休題。なんとか歩実あゆみ紗希さきを介入させることなく無事にシャワーを済ませた俺は、シャワーの前に促されたようにうちの隣にある紗希の家に向かった。インターホンを鳴らすと、中からドタバタと忙しない音が迫ってくる。この勢いのままドアを開けられたらぶつかってひとたまりもなさそうなので一歩下がった。そして、
「お兄!結構早かったね!もうご飯準備できてるよ!早く早く!!」
案の定ものすごい勢いで歩実が出てきて言い放った。やっぱり下がって正解だったわ。でも一言物申したい。家主でもこの家の住人でもない歩実が「ご飯の準備できてるよ」とか言うのは違うのではないだろうか?そう思うのは俺だけ?

 歩実に促されるままリビングに入ると、
「とーくん、いらっしゃい。待ってた。」
紗希が待ち構えており、紗希が指し示す食卓を見ると、刺身の盛り合わせや茶碗蒸し、炊き込みご飯などの料亭で出てきそうな豪華な料理と、肉じゃがやおろしポン酢と思われるハンバーグなどの家庭料理がずらっと並んでいる。しかし思い出そう。失礼ながら、紗希と歩実にこんなもの作れるわけがない。となると…
「ママー。とーくん来た…」
紗希が言うと、キッチンから人影が。
「あら、とーくんもう来てたのね。いらっしゃい!ごめんなさいね、料理に集中してて気づけなくて。」

出てきたのはおばさん…紗希の母親だった。なるほど、この人が作ってたのなら納得だ。なんせ実は紗希の一家は代々料亭を営んでおり、今は紗希の祖母が女将をやっている。そして、おばさんは古川ふるかわ家に嫁入りした立場でありながら、今ではその料亭の料理の監督にまで上り詰めている。それでこんなに料亭級の料理がずらっとあるわけか。しかし、
「おばさん、今日お休みだったんですか?」
料亭には休日も何もない。だからこんなに手の込んだ料理を大量に出すというのは、いくらおばさんが料理のスペシャリストだとしても、今日一日中休みじゃないと到底できないはずだ。
「今日はもともと紗希から相談されてたのよ。とーくんが大会だから美味しい料理でパーティーしたいって。それで事前にお義母さんにお願いして休ませてもらったのよ!」
紗希もおばさんもすげぇ行動力…見習わねば…

「それにしてもよく許可降りましたね。」
「そりゃあお義母さんからしたら愛する孫からのお願いってことになるもの!祖父母あるあるだけど、孫には甘々だからね。」
まあ、納得。
「あ!ちょうどいいわね!紗希と歩実ちゃん!ちょっとテーブルの真ん中空けてくれる?」
何だろう…そして言われた通り、二人はそそくさとテーブルの中央にスペースを作り出す。
「おばさん!空けたよー!!」
歩実が言うと、おばさんが何やらどデカい皿を持ってきて、それをテーブルの中央に置いた。その皿に乗っていたのは、皮はこんがりと焼けて切り込みから純白の身が覗ける鯛だった。
「え?!これ、鯛ですよね…?」
「ええ、鯛よ!縁起物だからね!とーくん明日も試合なんでしょ?だから運を味方につけてもらおうと思ってね!」
「いいんですか?こんなにいいものを…」
「孫のお願いって言ったらお母さんがまるまるくれたのよ!太っ腹よね!」
俺は何とコメントしたらいいんだろう。ありがたいけどなんか申し訳ねぇ!

 閑話休題。
「時にとーくん、今日の結果は…?」
乾杯の前に紗希が尋ねてきた。
「そういえばまだ言ってなかったな。とりあえず団体戦は準優勝で県大会決定。それから個人戦は16決定戦でうちの部長に負けたけど、明日県大会の最後の一枠を奪い合うトーナメントが残ってるって感じかな。」
「お兄やるー!!これは鯛でめでたいっていうのもあながち間違ってなさそうだね!」
「…かもな。じゃあ、乾杯しますか。」
「それじゃあ乾杯の音頭はおばさんに任せなさいな!それでは…とーくん県大会おめでとう!そして明日も頑張れ!!てことで、乾杯!!」
「「「乾杯!」」」

 その後しばらく食べ進めていたのだが、ホントにどれも美味すぎる。流石は料亭の料理監督。鯛を筆頭とする料亭にあるような料理が美味すぎるのは言うまでもないのだが、肉じゃがやハンバーグなどの家庭料理も、どこか普通の家庭料理ではないように感じる。親が作る家庭料理なんてもう食べなくなって久しいがそう感じられる。なんだろう、この料亭級の家庭料理は。そしておばさん、どうか紗希にこういう料理を伝授してあげてください。あとついでに歩実にも。コイツらの料理スキルが今のままだと、コイツらの料理を食べる人が胃のスペアがいくつあっても足りなくなっちゃうから。てか、何だ胃のスペアって。

 「「「「ごちそうさまでした。」」」」
いつの間にか、卓上に並んだ大量の料理は綺麗さっぱりなくなっていた。極上のディナーだった。
「ホントにおばさん、今日はありがとうございました。紗希と歩実も。」
「いいのよ!でもとーくん、明日頑張ってね!」
「はい!絶対県大枠勝ち取ってきます!」
また新しく誓い立てちゃったな。全力でとりにいくしかないや。
「というかお兄!明日、紗希ちゃんと応援行っていい?」
「行きたい…!」
二人から申し出があった。まあ別に邪魔されるわけじゃないし、なんなら応援は多い方が嬉しい。
「普通に来ていいよ。今日だって色んなヤツが応援来てくれてたし。場所は間違えるなよ?」
「うん!」「御意…!」
相変わらず紗希の武士発言は気になるが、何にせよ明日、負けられないな。

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