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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part2

第百二十九話 秘密、密告、告白、白状
 うなばら店外にて。
「いやー、流石にこうも女子比率が多いと気まずいよなー。」
「ホントですよね…なんか、すみません。」
俺は店外に連れ出してくれた桜森さくらもり先輩と話していた。
「それにしてもとおる、ちょっと女友達多すぎやしない?」
「んー、俺もそんなつもりじゃなかったんですけどね…そんな友達多い方じゃないし。」
「たしかに織田おださんも徹のことよく揶揄してるもんな、ぼっちだとか陰キャだとか。その割に徹と仲いいみたいだけど。」
「新人戦で急遽組んだら、案外相性がよくて。そこからやたらと絡まれてるんですけどね。」
「もしかしたら徹のこと好きなんじゃない?」
由香里ゆかりが?!まさかそんなことはないんじゃ?好きならあんなウザいからかい方しないと思いますけどね。」
(好きだからからかうのでは?)

「それに、俺別にそういう色恋沙汰…というか、女性に期待しないようにして…いや、できないんです。」
「あんなに女友達いるのに?」
「友達である分には構わないんです。でも…ちょっと俺にも嫌な過去がありまして…まあ、俺よりも父さんの方が辛い思いしてるのは間違いないですけど…」
「…嫌だったら話さなくていいけど、何があったんだ?」
…俺はこの人ならいいか、と先輩に俺の中学時代の出来事を話した。

 「そうか…ほんとにそんな中でよく頑張ってるよ。俺には到底そんなことできない。というか、想像も難しいな…」
「まあ、そういうことです。これ秘密でお願いしますね。こんな過去知られたら…特にアイツらに知られたら、無駄に心配かけちゃうので。」
「…そっか。たしかにみんないい子そうだし心配かけちゃいそうだよな。わかった。でも、ありがとな。俺に全部打ち明けてくれて。」
「こちらこそ、聞いてくれてありがとうございました。」
「ただ、ちょっと言っておくと、少しくらい期待してもいいんじゃない?俺の予想だとあの中の半数以上は徹のこと好きそうだけど。」
「だから、そんなことないでしょうよ。アイツらにとって俺は友達とか先輩とか後輩とか、相棒、幼馴染、兄貴分、ライバル…それに尽きると思いますよ?」
(…とりあえずこの鈍感どうにかしなきゃな。)

 一方その頃、うなばら店内では…
「とりあえず莉桜りお先輩!桜森先輩も出ていきましたし、思う存分話してくださいよ!」
「え?!なっ、ナンノコトカナ?」
「桜森先輩とどうなんですかー?」
由香里が春田はるたに捲し立てる。そして、
「由香里ちゃん、いいこと教えてあげるわね。莉桜ちゃんと桜森くん、教室でも喋らない日はないくらい一緒にいるのよ!」
流唯るいちゃんやめてー!!」
流唯の密告という援護射撃。
「えっ、てことはー…両片思いなのでは?!」
「そんなこと言わないでよ!春希はるきはそう思ってくれてないかもしれないじゃん!」
「あれ?じゃあ、少なくとも莉桜先輩は好きってことでいいですよね?」
「…あっ。」
春田は墓穴を掘った。
「そうだよ!好きだよ!好きに決まってるじゃん!あんなにあったかい人と一緒にいて好きにならない方が無理だよ!!」
そして開き直った。
「告白とかしないんですか?」
「それは安心して!この夏の大会が全部終わったら告白するんだ!」
さらには盛大な死亡フラグを立て、ここにいるほぼ全員がそれを察して春田に合掌。
「莉桜ちゃん、お悔やみ申し上げます…」
「え?!なんで?!」
春田には知る由もなかった。

「というかさ!私のことより…ね?詰めてきた以上わかってるよね?由香里ちゃん?」
完全に詰んだ春田の反撃が始まり、一斉に矛先は由香里に向けられた。
「えっ?何の…ことです?」
「由香里センパイ、さっき決勝終わった直後、きしセンパイに抱きついてたじゃないですか!」
「それこそオリンピックみたいな規模の大きい大会だったら好意がなくても理解できますけど、あれで確信しました!由香里先輩も徹先輩のこと絶対好きですよね!!」
れい心愛ここあが由香里を詰めたところ、場が静まり返った。そして…
「心愛ちゃん、今由香里先輩“も”お兄のこと絶対好きって言ったってことは…」
「…心愛、観念しよう?あんたは墓穴を掘った。」
「あっ…オワッタ…」
「も」という助詞一つのせいで、心愛の気持ちは容易く露呈されてしまった。
「心愛、あんたもそんなミスすることあるのね。でも、なんか安心したわ。さ、思いっきりいじられましょ!」

励ましているのか何なのかよくわからない言葉を心愛にかける玲だったが、
「ちなみに、玲ちゃん…玲ちゃんのことも、みんな大体察してる…」
桃子とうこがそう告げると、完全に硬直した。
「え!あたし心愛と由香里センパイにしか言ってないんですけど!どっちかバラした?!」
「「言ってないよ?」」
「みんな今日の様子を見て大体わかってた。」
桃子からのクリティカルが入り、
「はい、そうです。あたしと心愛も岸センパイが好きです…」
「私ごと白状?!」
「もうネタは上がってる…」
犬猿ズは崩れ落ち、追い詰められた犯人のように全てを自供した。

 「まあ、そんなこと言ってる桃子ちゃんも、あとなんならこの会話から必死に逃れようとしてる早苗さなえちゃんも真凜まりんも好きでしょ?岸くん。」
「「っ!!」」
急に飛び火すると思っていなかったのか、早苗と真凜はそれぞれ飲んでいた抹茶ラテとレモンスカッシュを盛大に吹き出した。
「ちょっ…流唯先輩!急にやめてくださいよ!」
「というか、羽田はねださんもだったんですね…」
「あはは…まあ、ね?別に今更隠す気もないけどまさかこんなにライバルが多いとは…」
「私も驚きですよ…ってちょっと待ってくださいよ?実はまだいるんじゃ…?」
そう言って早苗が目を光らせたが、真凜と芹奈せりなの視線がとある一名に集中する。そう、芹奈の妹の杏奈あんなである。
「え?お姉ちゃん?真凜さん?」
「杏奈もてっちゃん好きだもんねー!」
「皆まで言わないで!お姉ちゃん!!」

「うちもとーくんは好き。」
この流れで紗希さきも名乗りを上げた。
「え?紗希ちゃん状況わかってる?!」
唯一事情を全て知っている歩実あゆみが尋ねる。
「幼馴染だし、とーくんのこと嫌いなわけがない。大事な幼馴染…」
(めっちゃ濁すじゃんっ!!)
歩実にはそう思えたが、その他全員は趣旨が違うと思うだけで済んだ。ふわふわしているように見せた紗希の作戦勝ちである。
(私、本当に誰を応援すべき…?)
(やっぱてっちゃん隅に置けないねー!)
(なんで岸こんなモテてるのよ!で、なんで一切気づかないの?!なんか色々腹立ってくるわ…まあたしかに?意外と頼りになる面もなくはないけど…って何考えてるのあたし!)
朋美ともみは赤面して立ち上がり、ドアへと向かった。

 桜森先輩が引退する前に、貴重な話がたくさんできて正直満足していたところ、不意にドアが開いた。そして俺はシャツの首元を引っ張られうなばらに入れられたと思うや否や、腹周りを上から両腕で捕らわれ、持ち上げられたかと思うと頭から地面に突き刺された。絶対信岡しのおかだと思い見上げると、顔を真っ赤に染めた信岡が立っていた。そしてそのまま足蹴にされた。全員がそれを呆然として眺めている。え?俺、なんかした?というか、誰か…助けてくれ…

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