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12シトライアル第三章       疾風怒濤の11時間part28

第八十話 疾風怒濤のメインイベント
 さて、なぜか肝試しを二周して来てしまった俺だが、なんとか一周目に負ったダメージもおおむね回復というくらいには立て直した。というか立て直さないといけなかった。なぜかって?そう、たった今から始まるキャンプファイヤーの花火の準備をしなくてはならないからだ!キャンプファイヤーは林間学校のメインイベント。なんとしても成功させなくては…

きしさん!もう来てたんですね!」
今回、俺と一緒に花火を担当してくれる田辺たなべさん登場である。
「いや、俺も今来たばかりだから。」
「そうなんですね!今日、頑張りましょう!」
「絶対成功させよう!」

「あれ?岸たちもう来てたんだ!」
「お疲れー。」
「おう、お疲れ。」
同じくキャンプファイヤー係の友人である佐々木ささき上原うえはらも現れた。
「結局お前ら二人ってキャンプファイヤーの何担当なんだ?」
「あー、俺たち音響担当になったんだよ。ほら、火を囲んで踊る時の音楽流したりとか。」
「なるほど。お互い頑張ろうな!」
「「おう!!」」
「じゃあ岸、後で部屋でな!」
「ああ。また。」
「それじゃあ私たちも準備始めますか?」
「そうしようか。」

そんなこんなで俺と田辺さんは準備を始めた。花火はこのキャンプファイヤーの終盤10分で一気に狂い咲くことになっているので、俺たちには十分な準備時間がある。花火発射までの50分間で俺たちがやることは、倉庫に先生が置いておいたという大量の花火をこの会場に運び、ここにいる生徒を極力邪魔しないように配置すること。ちなみに配置はキャンプファイヤー本体を取り囲むように置くのと、踊っている生徒の外側を一周するように置くことになっており、特に本体周辺への配置は、生徒との接触にも火の危険にも気をつけなくてはならない。

「とりあえず岸さん、花火運んで来ませんか?」
「そうだね、行こうか。」
一旦俺たちは台車を持って倉庫に向かった。するとそこには、おびただしい数の花火、花火、花火…以下略!
「何回くらいで運びきれますかね…?」
「んー…まあ4、5回はかかるだろうね…とりあえず少しずつだけど運ぼうか。」
「…そうですね。」
とりあえず二台の台車に積めるだけの花火を積み、一度会場に向かった。俺の目測通り、花火全体のだいたい二割くらいしか運べていない。

それにしても…
「うんしょ…!うんしょ…!」
今時、うんしょ…!なんて言いながら何かを運ぶ人っているんだな…じゃなくて!結構田辺さん大変そうだな…俺ですら結構重いと感じる量だ。やはり女の子には酷か。そうこう考えながら台車を押しているうちに会場に着いた。もう田辺さんはグロッキーだ。仕方ない…

「田辺さん、台車二台とも俺に預けてくれない?」
「…と、言いますと…?」
「さっき運んでる時、田辺さんずっとキツそうだったから…こんな力仕事大変だろうし、時間効率も考えて、分業とかどうかなって。とりあえず第一陣はここにあるから、俺が二台使って第二陣を持ってくる。その間、田辺さんはここにあるやつを配置しておいてほしい。それを繰り返して、俺が全部運び終わったら一緒に配置を手伝う。これでどうかな?」
かなり俺の馬力が求められるが、これ以上田辺はんにキツい思いをさせるよりは幾分かましだろう。

「その…岸さんは大丈夫なんですか?」
予想通りのリアクションである。
「大丈夫、俺一応は運動部だから!」
答えると、田辺さんは一瞬迷いの表情を見せたが、
「わかりました。それでいきましょう。岸さん、お願いしますね!」
なんとか承諾してくれた。明日、筋肉痛確定コースだな。ということで、俺はここから二台の台車を押して花火の運搬を四往復するのだった。
(岸さん、本当に優しすぎです…ただでさえ温かいあの人に、こんなに温かい気遣いされちゃったら、尚更好きになっちゃいますって…でも、もっと岸さんと一緒に作業してたかったな…)

 運搬を繰り返すこと30分、俺は根性だけで花火を全て運び終えた。そして見ると、田辺さんはもう第四陣までは配置が終わっているらしい。流石だ。
「岸さん!お疲れ様です!本当に助かりました!ありがとうございました!!」
「助けになれたなら何よりだよ。とりあえず最後の一陣、配置しちゃおう。」
「そうですね!」
「ちなみにあとはどこに置けばいい?」
「あとは本体周りだけです!」
「了解。」

二人でやったおかげか、細心の注意を払わなくてはならない本体周りの配置もほんの5分で終わった。花火発射まであと10分。思ったよりも余裕をもって準備完了だ。あとは音響からダンス終了のアナウンスがあったら点火するだけ。ちなみに本体周辺のものはキャンプファイヤーからの貰い火で、外側のものはキャンプファイヤー係の手が空いている数人協力の下、ライターで点けることになっている。

「おーい!岸ー!」
呼ばれて振り向くと音響の上原だ。
「点火、手伝いに来た!」
「でも音響の仕事は?」
「あとはアナウンスだけだから佐々木がやるって言ってくれてさ。」
「なるほど、サンキューな。助かる。」
「上原さん、ありがとうございます。」
「気にすんなって!ちなみにあと二人呼んで来たけど…」
「マジか!めっちゃ助かる!」
「そんでちょっと頼みなんだけど…本体周りの花火の点火、俺にやらせてくれね?」
正直俺自身は本体周りの点火はやりたくなかった。この消耗しきった体力じゃ火周りでは保たないだろうから。その点…
「寧ろ助かる。お願いしていいか?」
「おうよ!」
いい友人をもったな、俺…

「じゃあ、そろそろそれぞれの配置に頼む。」
ということで、着火のスタート地点にみんな移動した。そして、
『以上でキャンプファイヤー、ダンスの部は終了です。それではフィナーレの花火、スタートとなります!』
佐々木の声でアナウンスが入った。俺たち五人は一斉に点火を始めた。そして1分で全ての花火に火がつき、様々な色の火花が上方へ勢いよく散っていく。俺が最後の着火点付近で座っていると、
「本当に綺麗ですね、岸さん。」
田辺さんがこちらへ近づいて来た。
「そうだね、ここまで頑張って来てよかった。」
「同感です。岸さんには色々とご苦労おかけしちゃいましたけど、最後こうやって一緒に花火を眺められてよかったです。感謝してます。」
「こちらこそ、ここまで一緒にやってくれてありがとう。」
こうして俺たちのキャンプファイヤーは盛大に、そしてどこか静かに幕を閉じたのだった。

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