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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part37

第百六十四話 毎日がチートデイ
 「で、なんでお前がここにいるんだよ。」
先程突然後ろからタックルをかましてきやがった芹奈せりなに尋ねる。
「別に良くない?わたしが祭りに来てても!」
「それはいいけどさ…一人?」
「いや、杏奈あんなと来てたんだけど、杏奈が中学の友だちとばったり会って、で、選ばれたのは友だちでした。」
「で、今一人になってほっつき歩いてたところで俺らしき人影を見かけた、と。」
「そゆこと!」
それなら一人で祭りの会場ほっつき歩いてたのも納得だ。この人混みの中で俺らしき姿を発見できたのは単なる偶然だろう。

「逆にてっちゃんはどうしてここに?あまりてっちゃんが祭りとか行くイメージないんだけど…」
みんなそう言うんだよな…ホントに否定できないけれども。
「今日はちょっと6時に待ち合わせで祭り行く予定があってな。で、バイト終わったのが4時半なんだけど、一回帰るのも億劫だし、じゃあそのまま会場向かって適当に時間潰そうかと思って今に至る。」
「なるほどねー。誰と遊ぶのー?」
「なんでお前に言わなきゃいけないんだよ…」
「わたしそこまで軽視されてるの?酷くない?んー…でも言えないなら、こゆこと?」
そう言って芹奈は小指を立てた。これ誤解されてる?
「そんなんじゃない。」
「でも言えないならこれと見做すよー?」
…ウザい。ただそう見做されるのは面倒だ。
田辺たなべさんに誘われたんだよ。今日の祭り一緒にどうかって。」
「あー!あの図書委員の?」
「そう。」
(あの子、結構積極的なんだなー。やっぱりてっちゃんは隅におけないなー!)
芹奈がニヤニヤしている。尚更ウザい。
「ホントにお前が想像してるようなもんじゃない。だからそのウザいニヤつきを抑えろ…」

 閑話休題。
「で、今ぶらぶらしてたってことは、てっちゃんは待ち合わせまで暇ってことでおけ?」
「まあ、そうだな。」
「じゃあさ!わたしにちょっと付き合ってくんない?」
お互い暇だもんな。
「わかった。正直ちょうどよかったよ。祭り混んでるから時間潰そうにも並んでほとんど終わりそうだし、今日ばかりは助かるよ。」
「褒められてるんだか貶されてるんだか…まあいいや!じゃあこっち!」
そう言うと芹奈は俺を先導し始めた。一体どこへ連れて行くつもりやら。

 芹奈に続いて歩くこと3分。辿り着いたのは、駅に隣接する有名ファストフード店、マ○ドナルドであった。
「マ○ド?」
「うん!あ、てっちゃんマ○ド派なんだ!わたしマッ○派!もしかして関西出身?」
「いや、なんかマ○ドの方が語呂が好きなんだよな、なぜかはわからないけど。で、そんなことはどうでもよくて、ここで時間潰しってこと?」
「あったりまえじゃん!じゃなきゃなんで来たのさ?」
まあ他に理由もないわな。俺としては、小腹を満たしたかったので丁度いい。
「それに、今はみんなお祭りの方に集中してるから、こういう時は自ずと他の飲食店空きがちなんだよね!祭りが終わった瞬間激混みだけど。」
そこまで計算に入れていたとは。やはり芹奈…実は侮れない存在なんだな、と改めて思った。

「コーヒーフロート1つで。」
入店後、芹奈は何を食べるかかなり悩んでいたので、俺は先に注文を終えた。後で何か食べるのは確定のため、ホントに何か軽く腹に入ればいいと思っていたので、アイスコーヒーにソフトツイストが乗ったコーヒーフロートにした。そして商品を受け取って、
「じゃあ席座って待ってるからな。」
と一声芹奈にかけておいた。が、返事はなかった。どんだけ迷ってるんだよ…

 もうかれこれ5分は待った頃だろうか。
「お待たせー!」
ようやく芹奈が戻ってきた…かなりの量の商品を携えて。一体何品あるんだろうか。
「その量どうした…」
「迷ったから全部買った!」
「太るぞ。」
「わお、ストレート!でもだいじょぶだいじょぶ!わたし、毎日がチートデイだから!」
「何も大丈夫じゃねえ!」
ホントにコイツの素がどの芹奈なのかわからん。こんな感じのおバカキャラなのか、はたまたたまに見せるキレッキレのキャラなのか。
「まあでもいいじゃん!てっちゃん飲み物だけだし、もし食べたかったらわたしの食べていいからね!」
「それは…どっちだ?」
「どっちとは?」
「俺があまり買っていないことを見越しての大量買いなのか、自分の胃袋のキャパシティを信じての大量買いなのか。」
「あー…どっちも然り?」
「てことはお前、ホントに食べようと思えばこの量食えるの?」
「まあ、いけそ…いや、無理だな。」
「じゃあこれ俺も大量に買ってたらどうしてたんだよ!」
「その時は…まあそんな日もあるよね☆って笑い飛ばす!」
「俺、お前みたいなのがいるから食糧問題って発生すると思うんだよな。」
「いぇーい、辛辣ー!」
何がいぇーいだ…

 閑話休題。あの後、流石にちゃんと灸を据えてやった。
「じゃあてっちゃん、バーガーとサイド一個ずつどーぞ!」
「…」
「じゃなくて…食べてください、お願いしますー!」
なぜ俺が下手に回らされているのか、という怪訝な目線をやると訂正してきた。それでいい。今回に関しては間違いなく俺が頼まれる側であるべきなのだから。そんな次第で俺は、芹奈が買ったもののうち、てりやきバーガーとポテトMサイズを受け取った。それでも尚、芹奈のトレーの上にはバーガー2つ、サイドのポテトMとチキンが置かれている。
「迷ったとはいえ、よくこんな買う気になったな…」
「まあね!わたし、ものを食べてる時が一番輝いていられるんだ!」
いい人生なんだか、それ以外ではなかなか輝けないという意味で哀しい人生なんだか…

それにしても、俺は今こんなものを食べてしまって、後で田辺さんと合流した時に色々食べる余裕は果たして残っているだろうか。
「やっぱり美味しいー!」
芹奈は何も気にせず食べ続けている。コイツが言った通り、ホントに食べている時が一番輝いているように見える。満面の笑みだからというのもあるだろう。コイツ、顔だけ見れば割と美形だしな。おそらく、あとは体型さえなんとかなればさぞかしおモテになることだろう。知らんけど。
「ねーてっちゃん、ちょっとソフトクリームの部分ちょーだい!」
「え、なんで?」
「しょっぱいものの次は甘いもの食べたくなるじゃん?」
「なら最初からチョコパイとかっておけばよかったものを…」
塩分豊富なものばかり無駄に頼むからこうなるのだ。だが、俺が今食しているのは芹奈が買ったもの。ちょっとくらいは何か返さないと割に合わないので、承諾しようと思った。が、その前に芹奈はもうスプーンで俺のコーヒーフロートのソフトツイストの部分を掬っていた。
「気が早えよ!」
「え、ダメだった?」
「いや、今承諾してやろうと思ってたんだが…」
「じゃあいいじゃん!」
「俺が拒否する意思を持ってたらどうしてたんだよ…」
「その時は…まあそんな日もあるよね☆って笑い飛ばす!」
「そのセリフさっきも聞いたぞ。」
時空歪んだかと思ったわ。

「てか、お前のそのスプーンは一体どこから湧いて出た?」
そう、先程芹奈は、どこから湧いて出たかもわからないスプーンで俺のソフトツイストを掬い取ったのだ。しかも、こういったファストフード店にありがちなプラスチック製のスプーンではなく、金属製のスプーンで。
「あー、これ?わたしはね…いつ何時、どんな場所にいようと、一口頂戴したいと思った時に頂戴できるように、お箸とスプーンとナイフとフォークは一式持ち歩いてるんだ!」
コイツのいざという時の用意周到さが、もはや怖く感じられる。だが、これで一つわかったことがある。
「お前、それって結構変なタイミングで間食挟んだりするってことだよな。」
「まあ、そうなるね。」
「そんな不摂生な食生活してると太るぞ。」
“太る”と、これから起きるような言い方で言ったが、実際はもう立派なぽっちゃり系である。
「わお、ストレート!でもだいじょぶだいじょぶ!わたし、毎日がチートデイだから!」
「そのセリフもさっき聞いたわ!」
やっぱり時空歪んでる?でも、今回の俺の発言は時制をずらすことによって多少なりともオブラートには包んだと思ったんだけどな…

 そんなこんなで食べ進め、時刻は17:50。俺は実質てりやきバーガーセットを、芹奈は2セットを平らげた。ホントにコイツの健康が些か心配になってきた。
「てっちゃん、わざわざ付き合ってくれてありがとね!」
「俺も丁度いい時間潰しになったよ。ありがとな。」
「珍しくてっちゃんが素直ー!」
「俺を何だと思ってんだよ…まあいいや、またな。」
「うん、お祭り楽しんでねー!」
芹奈と別れ、田辺さんとの集合場所に向かった。

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