見出し画像

12シトライアル第一章       13日の金曜日part6

第六話 心外なる侵害
 「あっ、きしくんじゃん!おはよ!」
教室に入るや否や、岩井いわいさんが俺に挨拶をしてきた。
「ああ、おはよう、岩井さん。」
「む、なんか他人行儀。苗字にさん付けはなんか距離を感じるなぁ…」
岩井さんが何やら顔をしかめた。コイツだって俺を苗字プラスくん付けっていう一番距離のある呼び方してたくせに…
「えーっと、俺に、どうしろと?」
「あだ名か下の名前で呼んでほしいなー。あ、名前なら呼び捨てね?」
「じゃあ俺のことも同じように呼んでよ。」
「でも、昨日君の下の名前聞けてないからわかんないや。何て…」

「おい、そこの二人、五月蝿うるさいぞー。」
「「あっ、すみません!」」
どうやら先生がいつの間にやら入ってきていたようだ。
(これ以上は私語は無理か…)
そう思っていると、
『名前教えてよ』
岩井さ…改め芹奈せりなが紙の切れ端に書いてそう言ってきた。その策に俺は乗った。
『岸徹』
俺はそう書いて寄越した。

 「じゃあ今日は最初の席決めとクラス役員決めやるぞー。委員会は明後日決めるからそれまでに考えとけよー。じゃあまず委員長なんだけど…」
「はい!先生!わたし、学級委員長やりたいです!!」
コイツ、アホだけど、そういう積極性というか行動力抜群なんだな。素直に少し感心した。
「んー、他にやりたいやついなさそうだし、学級委員長は岩井でみんないいか?」
結果は満場一致で承認だった。今時進んでめんどくさい仕事をやりたがる人なんて少ないから当然の結果だが。

「それじゃあ、早速席決めからやっていきましょう!くじ引きを用意したので、これで席を決めたいと思います!視力とかによる調整は後でやりますね!」
行動力!!と思ってしまった。コイツ、抜けてるはずなのに。不覚だ…!

「とりあえずやっていきたいんだけど、アシスト役、てっちゃんやってくれる?」
ところがみんな静まり返っている。おい『てっちゃん』とやら、無視しないでやれ。コイツもコイツなりに頑張ってるんだ…
「おーい、てっちゃん??なんで無視するのかな、岸くん??」
てっちゃんは俺だったか…

「なんでてっちゃん?!」
「だってさっき紙に書いてたじゃん。『てつ』って。だからてっちゃん!」
やっぱコイツただのアホだ。そう思った。
「違う!これで『とおる』って読むんだよ!お前やっぱりただのアホだろ!」
「えっ、え、あー、えと、そのー、申し訳ないですー!でもまあこれで伝わるようになったしこれからもてっちゃんで!」
「はあ〜?!」

「早く進めてくれないかなー。岸も妨害するなよ?」
「「す、すみません!!」」
(俺のせいじゃないけどな)

 結局、芹奈のせいで俺はクラス内で「てっちゃん」と呼ばれるヤツということになってしまった…「とおる」なのに…!俺の名前の生存権はしっかりと侵害されたようだ。極めて心外である。まあ、結局後にも先にも俺のことを「てっちゃん」と呼ぶのはコイツだけだし、いいか。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?