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12シトライアル第二章       アンカー番号12番part5

第二十三話 デッド・オア・ダイ
 こうして幕を開けた俺と真凜まりんによる、俺が勝つまで続く無限チャレンジという名目の無限地獄。早速第一走。
「いきますよー!!紗希さきちゃん、合図お願いしますね!」
お互いスタートラインに立ち、紗希は何故かゴール側に立っている。ホントなんで??
「…了解。じゃあ…よーい…どん!」
正直紗希の声は遠すぎて聴こえなかったが、紗希が腕を上げるのと同時に俺は駆け出した。いいスタートがきれた。対する真凜は…いいスタートだが、俺ほどのベストスタートではなさそうだ。必ずこの差をキープ…

「やったー!私の大逆転勝利です!!」
できなかった…真凜の追い上げを少し、いやかなり甘く見ていたようだ。
「あっ、ちなみに、これ、負ける度に罰ゲームですよー?勝つか負けるかの一か八かの賭けです!」
「マジか…聞いてねぇよ…」
「とーくん、ドンマイ…!」
俺は真凜にりんごジュース一本を要求された。そして紗希もどさくさに紛れて俺の小銭入れから小銭を取り、水を買った。水なだけまだましか…

 5分後、仕切り直して第二走。
「よーい、どん!!」
言わなくてももはやわかるだろう。完敗だった…コイツ、速すぎる。コイツ今は現役じゃないだろ!!帰宅部だろ!!なのになんで!
「ではとおるくん!もう一本、ジュースを買って来てください!!次はポ○リで!!」

 コイツ、考えようによっては信岡よりこわいな…そんなことを思いつつも、その後4本走ったが、いずれも負けた。そして立て続けにC○レモン、三ツ○サイダー、ぶどうジュース、炭酸水を奢らされた。体力的に死ぬのも金銭的に死ぬのももはや時間の問題かもしれない。

 「よし、真凜、もう一本だ。」
真凜に六連敗を喫し、体力も小銭入れの中身もすっかり搾り取られた。本当に俺はコイツに勝てるのだろうか。ていうかコイツ、よく500ミリくらいのペットボトル6本も飲めるな。そのうち3本は炭酸だったし。しかもその上走りに重さを感じない…

「とーくん、大丈夫??」
「ああ、なんとかな…ただ懐の方はかなり圧迫されてるな…」
「可哀想に…そろそろ勝たなきゃね…」
幼馴染よ、同情するなら金をくれ。そう思ってしまった。実に最低な男である。

 「徹くん、次は本番のリレーと同じ200mでやりませんか?」
ここにきて一気に体力を奪う作戦に移行したかと思った。が、
「だって本番と同じ状況の練習もしておくべきじゃないですか?」
俺の思考は最低だったようだ。コイツやっぱり賭け事好きなところを除けば基本いいヤツなんだよなぁ…

「私が勝ったら、最後は徹くんに何か私の言うことを一つ聞いてもらいます!」
そう、『賭け事好きなところを除けば』である。コイツ、なんでこんなに賭け事好きなんだよ…
「まあいい、その勝負、乗ってやる。その代わり俺が勝った場合も、俺の言うこと何か一つ聞いてもらうぞ。」
「おっ!徹くんも賭けの沼にハマり始めて…」
「ねえからな!!」
俺は食い気味に答えた。何はともあれ、無限地獄にも強制的に終始符が打たれるのだ。よかった…

 ということで、『敗者相手の言うことを一つ聞くマッチ』が決まった。ネーミングセンスが皆無なのはいつものことだ。気にしないでくれ…
「じゃあ、引き分けだったらうちの言うこと聞いて。」
「いいでしょう!」
「いいのかよ…」
またまた紗希がぶっ込んできた。まあいつもほことだ。気にしちゃ負けだな。
「徹くん!いきますよ!」
「ああ!」

今度は紗希もしっかりスタート位置に来ていた。
「いくよ…よーい…どん!」
俺たちは同時に走り出した。今回はお互いベストスタートがきれたようだ。序盤はまだ競っている。このまま突き放されないように走るんだ。しかし、現実はそう上手くはいかないようだ。少しずつ俺と真凜の差が開き始めている。だが、諦めるわけにはいかない。実際の距離でコイツに勝てれば河本こうもとたちに対しても勝機は十分見出せる。フルパワーだ!

 そこから俺は120%の力を振り絞り、そして、
「「ゴーーーール!!」」
まさかの同着だった。これは真凜も予想外だったようで、
「嘘っ?!引き分けー?!勝ちきれなかったー!悔しいです!」
「結局一回も勝てなかった…でも、真凜と同等のスピードというところまでは達成したんだ。あとは明日の時の運だ!」
「徹くんなら、きっと大丈夫です!全力で頑張ってくださいね!!」
「ありがとな!真凜!」
「いえいえ!」
ホントに真凜には感謝しなきゃだな。ここまでしてくれた真凜のためにも、応援してくれてた(?)紗希のためにも、必ずリレーの枠は俺が獲る!

「最後勝ちきれれば徹くんと…」
真凜が何か呟いたがしっかり聞き取れなかった。どこか表情に曇りが見える。流石の真凜も疲れているのだろうか。
「どうした?何か言ったか?」
「いえ、なんでもないです!今日は帰りましょうか。明日のためにゆっくり休んでくださいね!万全の状態で明日を迎えましょう!」
「そうだな。」

「待って、うちのお願い、聞いてもらってない…」
「そうだった…どうすればいい?」
「晩御飯、お邪魔していい?」
もっと予想の斜め上のお題が飛んでくると思っていたので、正直拍子抜けだった。
「そんくらい昔からよくあることだろ?」
そう言うと紗希は頷いた。何はともあれ、こうして無限地獄に終止符が打たれ、俺たちは帰路に着くのだった。考えてみれば、俺たち、陸上部でもなんでもなかったよな…

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