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12シトライアル第三章       疾風怒濤の11時間part24

第七十六話 疾風怒濤の野外炊爨・前編
 バスでの怒濤の会話を乗り越え、無事今回の林間学校の会場、いわゆる自然の家とでもいうのだろうか、そんなところに到着した。そして班ごとに集合し、炊爨を行う場所へと移動する。遂にこの時が来た…!!
「てっちゃんもともちゃんも楽しみだね!」
「ともちゃん?」
信岡しのおかさんって名前朋美ともみでしょ?だからともちゃんって呼ぶことにした!独断で!」
コイツ、そこら辺にいる蛇に舐めてかかって真っ先に噛まれるか絞められるかするヤツだな…と思ってしまった。芹奈せりな、ご愁傷さん…
「まあいいけど、そしたらあたしは委員長のことどう呼べばいいの?」
コイツやっぱり俺以外には当たり緩やかなんだな…
「ともちゃんの独断でいいよ!」
「そういうことなら委員長のままにしとくわ。面倒くさいし。」
「ひどくない?」

 閑話休題。
「してきしくん。市場で見つけたもの見せてくれないかな?」
「ああ、これだよ。美味そうなムール貝を見つけたんだ!これでどうよ?」
「てっちゃんナイス!」
「今回は認めてあげるわ。いいの選んできたじゃない!その暁にあたしの焼くパン少し恵んであげてもいいわ!」
俺、いい収穫なかったらパン食べれなかったのか…普通にパンも食べたかったんだが…

ということで、早速用意に取り掛かった。とりあえず作業は分担しないとな…
「そういえば河本こうもと、昨日預けた食材は?」
聞くと鞄を探り出したが、何やら珍しく青白い顔をしている。
「ごめん、岸くん…具材は持ってきたんだけど、ターメリック…入れ損ねたみたいだ…」
色と味の決め手を欠いている、ということか…信岡も些か睨みを効かせているように見える。俺に対するそれの何倍も弱い睨みだが。そして芹奈は…
「大丈夫!こんなこともあろうかと、調味料一式、うちにあるやつ全部持ってきた!」
ホントにこういう時だけ用意周到なのは何なんだろうか。それにしても、
「よくこんなにあったな…」
杏奈あんなが料理する時、色々使いたいみたいでね!」
「じゃあ今杏奈ちゃんの元には…」
「…まあ、1日くらいいいよね!」
芹奈よ、ホウレンソウは徹底した方がいいぞ…もう杏奈ちゃんが可哀想である。

 閑話休題。何はともあれ、これで心置きなく諸々の調理にとりかかれる。ということで今度こそ作業分担から始めよう。
「ちなみに信岡、今パンの材料はどの状態だ?」
進み具合によっては、全員でパン最優先で進めなくてはならない。色々と必要な工程があるのに対し、今回の野外炊爨の制限時間は2時間となっている。食べて片付ける時間まで含めてなので、正直かなり鬼畜だ。
「安心しなさい!流石に時間がかかりすぎるのはわかってたし、もう一次発酵まで済ませてるわ。」
それはめちゃくちゃ助かる。というのも、パンの一次発酵だけで40分から1時間はかかるからだ。それを省けるのはデカい!

「そらなら各々の作業進めるか!とりあえず、俺はパエリアの具材を切っておく。芹奈は焼きうどんの具材を…って思ったけど、不安しかないから、それも俺がやっとく。」
「ずっとわたしの扱いひどくない?」
「だからその間にパエリア用のお米、洗っておいてくれないか?そんで、河本は木をうまいこと組んで、終わったら先生呼んで、早速火をつけてもらってくれ!で、芹奈はお米洗い終わったら河本の手伝いに回る。それで頼めるか?」
「「了解!!」」
「そんで、パンのことについては信岡に任せる。大丈夫だよな?」
「当たり前でしょ!任せなさい!」
完璧に役割を分けることができたので、各々作業を始めた。

 俺はとりあえず、焼きうどんの材料を優先的に切っている。焼きうどんの方が作る手間が少ない分、先にやっておくためだ。とにかく材料諸々を火が通りやすいようになるべく細かめに…
「てっちゃーん!お米終わったから置いとくね!」
「さんきゅー!」
芹奈はお米の入ったザルを置いて走り去った。
「河本くん!どう?」
「もうすぐ組み終わるよ。だから委員長、先生呼んできてくれないかな?」
「りょうかーい!」
アイツ、元気だな。そうこうしている間に、何とか焼きうどんの切る必要がある具材は切り終わった。そしていいタイミングで先生も到着し、火をつけてもらった。
「芹奈!カット終わった、鉄板が十分温まったら焼きうどん作り始めていいぞ!」
「ありがとう!」
「作り方大丈夫か?」
「杏奈にも同じこと言われてレシピ持たされたから大丈夫!」
杏奈ちゃん、マジでお疲れ様…

「岸!こっちも二次発酵いい感じよ!」
「ナイス!河本、火の勢いどうだ?」
「もうすぐマックスといったところかな。」
「了解。じゃあもうスタンバイしといてくれ!」
「わかったわ。」
なんだろう、信岡に対して特にいさかいもなく話が通るのがめちゃくちゃ気が楽だ。

さて、俺も俺でパエリアの材料ささっと準備しちゃいますか。トマトは1センチ角に、パプリカはタネとヘタをとってスティック状に、オレンジはしっかり外側を洗って輪切りにした。エビとイカはもう処理されているものを買ったのでこのままでいいとして、ムール貝は…扱うの初めてだから砂抜きすべきかわからん!まあ、やっておくに越したことはないだろう。でもナイフで殻の汚れを擦り落とすくらいはどのみちちゃんとしないとな。そしてセオリー通りだと、今のうちにサフランを水につけて色をつけておいたりするが、今回はターメリックを使ってみるので、その工程は不要。ということで、下準備は全て終わった。そして、焼きうどんを作り始めている音が既に聞こえる。やはり非常に楽しみである。

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