12シトライアル第二章 アンカー番号12番part25
第四十三話 体育祭は回転に始まるⅡ
レース前の会話とは程遠い様相を為したレースになっている。桃子はそれこそ目にも留まらぬほど、誰も追いつけないくらいのスピードでネットを潜り抜け、一本橋を走り抜け、麻袋で着実に進んで行った。
(え?!ちょっと桃子ちゃん速すぎじゃない?!ホントに同じ人間?!流石にあれは勝てる気が…)
俺から見ても、三位に圧倒的な差をつけて独走している由香里でさえ、一位の桃子との差は歴然であった。どうしたら同じ高校生の障害走でここまでの差が生まれるのだろうか。
(最後…跳び箱…徹に授かった秘策…!)
ついに二位以下に大差をつけて桃子にとっての最難関、跳び箱に辿り着いた。頼むぞ…桃子…!
(跳び箱に手をついて…)
(ん?どうしたんだろう、跳び箱を跳ぼうとしてない…?これはチャンスじゃない?!)
由香里がここを勝機と見たか、猛スピードで一本橋を駆け抜けて麻袋で移動を始めた。
(頭をつけて、一瞬のジャンプで頭に全体重を持っていって…)
(あとちょっとで追いつける…!急ごう!)
桃子が待ち構える跳び箱まで由香里があと少しのところまで詰め寄る。麻袋のエリアを終え、由香里は麻袋を脱ぎ捨てる。そして、
(助走を十分にとって…ここからなら行ける!)
跳び箱目掛けて由香里は走り出した。すると、
(今…!)
桃子が跳び箱に手と頭だけついて登っていく。そして体勢を丸め、跳び箱の上を転がって…
(ここで足を出して…)
着地した。そう、桃子に伝授された秘策、それは台上前転だったのだ。これなら跳ぶのが苦手な桃子でも大丈夫だと踏んでの提案が功を奏した。
そしてそのまま、桃子は一位でゴールした。その直後、由香里も跳び箱を飛び越えてゴールした。その他二人は未だ麻袋の中だ。
「桃子ちゃん、めちゃくちゃ速いね!」
「障害走、得意だから…あと、徹に教わった台上前転もうまくできたし…」
「とーるからの秘策って台上前転だったんだ!跳び箱のところで桃子ちゃんが止まってたから、チャンスかと思ったんだけどなー!」
「跳び箱だけは苦手だったから…うまくできてよかった。お互い、体育祭、楽しもうね。」
「そうだね!そんじゃ、またねー!」
そう言って由香里は去って行った。
「徹、どうだった?私の台上前転…」
「完璧だったぞ、ナイスだ、桃子!」
そういうと桃子は相変わらず顔には出ないが、心なしか嬉しそうなオーラを纏っているように見えた。俺の勘違いだろうか。何はともあれ、これらのレースの結果、二年生は一位5つ、二位2つ、三位4つ、四位1つと星を五分に戻した。その後、三年生も一位を乱獲し、障害走終了時点で、黒組が全体トップになった。次の種目は借り物競走だ。まさか、この後俺があんなことになろうとは…
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?