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12シトライアル第三章       疾風怒濤の11時間part22

第七十四話 疾風怒濤の市場散策
 目覚まし時計の音を聞き、俺は目を覚ました。現在時刻、午前4時半。ホントは5時に起きれれば十分だったが、念には念をということでこの時間というわけである。正直死ぬほど眠い。だが、そうこうしちゃいられない。軽くシャワーを浴びて、朝食をとり、先日紗希と桃子と一緒に選んだ服を身にまとう。そして着替えやエプロン、林間学校のしおり、洗顔用具などが入ったボストンバッグと保冷剤を入れたクーラーボックスを持ち、朝5時半、俺は家を出た。

 駅まで歩き、電車で数駅行けば学校の最寄り駅まで辿り着くのだが、今日は一旦スルーして、別の駅で降り立った。そして駅から歩くこと数分、俺が辿り着いた目的地は…

「着いた!ここが…市場か…」
そう、新鮮な魚介を仕入れたいがためにやってきた市場である。そして現在、午前7時。できれば8時半には学校にいたいので、タイムリミットは8時、ちょうど1時間といったところだな。まあ仕入れると言っても貝を少々買うだけなので大した負担ではないだろうし、1時間もあれば十分だ。すると、

「あれ?とーる?こんなとこでどうしたの?」
よく知った声を背後から聞き振り向くとそこにはなぜか俺と同じくクーラーボックスを引っ提げた卓球部員、由香里ゆかりの姿があった。
「いや、野外炊爨で使う食材の最終調達をしにきててな。」
「わお、奇遇だね!あたしも昨日までに揃えきれなくてね!せっかくだし新鮮な魚介の方が美味しいから市場に来たんだ!」
こんなことあるんだな…
「せっかくだし、一緒に回ろ!」
「まあ、いいけど…」
ということでなぜか同じ目的で現れた由香里と、なぜか一緒に市場を見て回ることになった。

 「とーるは何買うの?」
「んー、パエリアに使う貝がほしいんだけど、どれがいいかなって悩んでる。」
「え?!とーるパエリアなんて作れるの?!」
「まあ一応は。」
「やるねー!食べさせる相手もいないのに!」
コイツがちょくちょく俺の非モテイジリをするの、どうにかならないんだろうか。誠に遺憾である。

 閑話休題。
「そういう由香里は何を買うんだ?」
「あたしは色々串に刺して焼こうっていう方向で、お肉とか野菜は集まったんだけど魚介類だけいいのがあまりなくてさ…で、色々探してる!エビとかイカとか、あとそれこそあたしも何か貝ほしい!」
由香里の班でやるやつも楽しそうだな。海鮮の串焼きも肉の串焼きもあるとか最高かよ!会話をしながら歩いていると、まずはエビやカニの売り場に来た。
「おう、らっしゃい!いいねぇ、坊ちゃん嬢ちゃん!朝から恋人同士で市場デートかい?」
「「違う!!」」
市場って、こんな変なおっちゃんもいるんだな…

 閑話休題。
「あのー、串焼きにいいエビってあります?」
「そうだなぁ、これとかどうだい?」
「じゃあそれにします!」
由香里は店のおっちゃんが指し示したエビを選び、代金を支払った。
「ありがとうございました!」
「おうよ!二人ともデート楽しめよ!」
「「だから違う!!」」
大声で否定すると、おっちゃんはガハハハッ!と豪快に笑っていた。

 続いてやってきたのはイカやタコ、そして貝を売っているエリアだ。
「うわー、タコイキイキしてる!食べたら美味しいかな…」
「字面にしたら怖いからあまり言わないでくれ。」
「たこ焼きにしたいな…ていうか、やっぱり野外炊爨たこ焼きやりたい!」
「方向性だけは見失うな!!」
そういえばコイツ、前に粉物好きって言ってたわ…さっさとイカを見せよう…
「おう、若夫婦!朝飯の買い出しか?」
市場にはこんな人しかいないのだろうか…しかも由香里はタコに夢中で聞いてないし…寧ろ好都合か。
「この後林間学校で野外炊爨をするからその買い出しに来てるだけですよ。」
「つれねぇなぁ…」
健全な高校生に何を求めてやがる…

 閑話休題。
「すいません、パエリアに合う貝って何かありますか?」
一応調べてはいるが、こういうのはプロに聞くのが一番だろう。
「そうだな、ムール貝とかどうだい?」
「ムール貝ってこれですよね?」
「おう、よく知ってんじゃねえか、兄ちゃん!」
「実際に見ると尚美味しそうですね。じゃあ、これにします。」
「あいよ!ありがとな、兄ちゃん!」
「あとすみません、コイツも買いに来てるんですけど、今タコのことで頭の中お花畑なんで、代わりにいいですか?」
「タコでお花畑とは、トンチが効いてるねぇ。」
「串焼きに使う食材を探してるらしく、イカと貝類がほしいらしいんですけど、ちょうどいいのありますか?」

由香里はいつまでタコに食いついているのだろう。一度狙ったら離さない虎か、コイツは!
「イカはこういうリングタイプのやつがいいだろうよ!それから貝は肉がしっかりしてるやつがいいから、ホタテなんてどうだい?」
「うん、もう俺の独断で決めますね。これでお願いします。」
「あいよ!ちゃんと嫁さんは大事にしろよ!」
この期に及んでまだそれを言うか…
「おい、由香里!そろそろ行かないと間に合わなくなる!」
「あー!私のタコー!!」
お前のではない!こうして俺たちは買い出しを無事(?)に終え、バスの待つ学校へ向かった。

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