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12シトライアル第四章       勝負のX-DAYpart11

第九十五話 カフェの和定食
 「お待たせしました!オムライスとアイスコーヒーです!ごゆっくり!」
「ありがとうございます!」
しばらくの後、歩実あゆみのもとに、注文していたオムライスが到着した。そして今回のオムライスは、真凜まりんお得意のドレス・ド・オムライスである。林間学校前に俺も真凜から教わってできるようにはなったが、未だに安定してできるわけではない。その点真凜は完全にモノにしている。すげぇ…
「綺麗…いただきます!」
歩実も見た目から既にご満悦のようだ。そして一口、パクリと頬張った。刹那、目が輝いた。
「んん〜〜!美味しすぎる!ソースも美味しい!何か深いというか…隠し味が…?お兄のより美味しいかも!!」
歩実、そういう比較とかは思っても言わないのが礼儀ってものだぞ…ちょっとヘコむ。

 閑話休題。程なくして歩実は、真凜が作ったオムライスを綺麗に平らげてしまった。
「真凜先輩!美味しかったです!真凜先輩がお兄にオムライス教えてくれたんですか?!」
「まあ、そうなるかな。家でもとおるくんが作ることあるの?」
「はい!普段は私が作ってあげようとするんですけど、たまにお兄が自分が作るって言ってくれるんです!」
「徹くん、なかなかにお兄ちゃんしてるね!」
なんだろう、この恥ずかしさは…
「つまりそういうことなら、料理については真凜先輩がお兄の師匠みたいなものだから…それでお兄より師匠の真凜先輩の方が美味しいんだ!」
従妹いもうとよ、よく覚えておいてくれ。事実は時に、人を傷つけるんだぞ…

 閑話休題。まさか2回連続で閑話休題することになるとは…それはそうと、その後俺たち二人はしばらく勉強を進めていたのだが、
「徹くん、そろそろお客さんも増えてきたし、お手伝いお願いできるかな?」
「はい!わかりました!すぐ準備しますね。」
「助かるよ。あ、ちゃんとタイムカード押しといてね。無給にするわけにはいかないから。」
ホントにホワイトだな、この店。

 俺は制服とも言えるポロシャツに着替え、自前のエプロンをつけた…かったのだが、
「何度やってもこの手じゃエプロン結べねぇ…」
すっかり忘れている人も多いだろうが、生憎あいにく俺は左手を骨折しているのだ。いつもバイトの度に困っている。
「あ、徹くん、今日も結ぼうか?」
「ああ、ホントに毎度悪いな。」
「いいのいいの!」
そしてその度にいつも結んでくれるのがこの真凜である。ホントにいつも面目ねぇ…にしてもコイツ、最近やっとタメ口にも慣れてきた感じがするな。そういえば、元々コイツが俺に対してずっと敬語使ってたのか、ホントに未だに謎だ…

「なんかさ、徹くん、」
「ん?」
「今はエプロンだけど、徹くんのを結んであげてると、なんか私、旦那さんのネクタイ結んであげてる奥さん感あるよね。」
「それは…やっぱり嫌だよな?」
「いやいや!嫌とかじゃなくて!単にそんな風に想像できちゃっただけで!別に徹くんの奥さんになるとか屈辱!とかそんなんじゃないから!」
もしかしたら、そんなんなのかもしれない。別に好意があるわけじゃないが、そう言われるのは、男として流石にヘコみます。(本日三度目)いや、俺の被害妄想がデカいだけか。

 俺はその後、しばらくレジ打ちに明け暮れていた。次から次にお会計のお客さんが押し寄せてくる。息つく暇もないとはこのことだ。15分程経った頃だろうか。
「ありがとうございましたー。」
一旦怒濤のラッシュは途切れた。するとまた今度は新たな来店者が訪れた…のだが、
「こんにちはー。」
「いらっしゃいま…って紗希さき?!」
今度は幼馴染の登場である。
「あ!紗希ちゃんいらっしゃい!」
「とーくんもまりりんもお疲れ様…」
なんだ『まりりん』て…どこぞやのモン○ーか!そして俺も俺でどんなツッコミだ!
「私、そんなあだ名ついたの初めてだ…!」
「まあ…だろうな。」
やはり紗希は考えも何もかもふわふわしているせいで、何事においてもつかみどころがない。

「紗希も勉強しに来たのか?」
「いや、うちは単にお昼ご飯に…」
「あっちに歩実もいるし、せっかくだし一緒にどうだ?」
「そうさせてもらおうかな。歩実ちゃん…!」
「あ、紗希ちゃん!」
「お隣失礼します…」
「どうぞどうぞ!」
「紗希ちゃん、ご注文どうしますか?」
「和食が食べたい。」
「なぜここに来た?」
和食とは程遠い店だぞ、ここ。
「お肉とお魚どっちがいい?」
「なぜ対応できる?」
真凜も真凜でおかしいわ。
「お魚で。」
「じゃあ…新メニュー即興で作ります!」
「はあぁ?!ねえマスター、いいんですか?!」
「まあ、真凜ちゃんなら大丈夫だろうし、問題なし!」
この店大丈夫か?そのうち喫茶店色消えてしまうのでは?

 それから20分。
「紗希ちゃん!お待たせしました!とりあえずノリで和の定食作ってみました!」
そう言って真凜が差し出したお盆には(もうこの店に和風なお盆があることにはツッコまないでおこう)お麩と豆腐、ワカメと刻まれたネギが入った味噌汁、白米、皮面をパリパリに焼き上げた白身魚、ほうれん草の胡麻和えとカボチャの煮付けが乗っていた。しっかり一汁三菜!!
「すげぇ…なあ真凜、どうやったらこんなん思いつくんだよ…」
「ハンバーグをジューシーに仕上げるためのお麩、お豆腐はヘルシーなハンバーグを楽しみたい人向けの豆腐ハンバーグの材料だし、ワカメはサラダ用、白身魚は普段からグラタンに使ってるもの、ほうれん草はスムージー用の、カボチャはパンプキンポタージュ用のやつをそれぞれ拝借して、お味噌については、マスターに聞いたら、普段からデミグラス系のソースの隠し味に使ってるからあるってことで、材料に関しては問題なし!あとは…正直パッと思いついたままにやってみただけかな!」
やっぱりコイツすげぇ…
「いただきます…」
紗希は早速箸で白身魚を切り取り、口に運んだ。
「…!!美味しい…!まりりんすごい…!!」
即興の和定食で紗希も大満足とは…ホントに真凜の料理スキル高すぎるだろ…

 「ごちそうさまでした。」
「紗希ちゃん、どうだった?」
「最高すぎる…わがまま聞いてくれてありがとうね、まりりん。」
「こちらこそ、喜んでくれてよかった!」
「真凜ちゃん、もう一膳作ってくれるかな?」
「いいですけど、マスターも和食の口ですか?」
「いや、カフェなのに和の定食も食べられる。これは…売り出せる。正式にメニュー化したい!」
ホントにこの店、喫茶店としての体裁はあとどのくらい保てるのか、不安になった俺であった。

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