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12シトライアル第五章       狂瀾怒濤の9日間part21

第百四十八話 絡みの輩
 しばらく休んでいると、桜森さくらもり先輩と春田はるた先輩が帰ってきた。
「お疲れ様です!どうでした?」
「ちゃんと勝ったよ!」
「まあ、もう一回由香里ゆかりちゃんととおるくんと勝負するまでは負けれないかな。私たちだってリベンジしたいし!」
その言葉が聞けて安心した。実際お互いあと二回ずつ勝てば当たる。かなり現実味はある。正直、地区大会の決勝で二人には勝ったが、一回勝ったにすぎない。まだ俺たちはこの二人を超えたわけではないと思っている。もう一度勝って、それでやっと完全に超えたと言えると思う。だから俺たちとしても先輩たちともう一度闘う理由はある。
「きっと、四回戦で会いましょう!」
「それまで負けないので、先輩たちも負けないでくださいね!」
「こっちのセリフだよ。」
「再戦、楽しみにしてる!」
俺たち四人はまた誓い合った。もはや何回目だろうか。

 ミックスは男女それぞれのダブルスと同時に行われているので、シングルスよりも進行が遅い。だからもれなく待ち時間は長くなり、気を鎮めたりなど有効に使いたいところなのだが…
「てっちゃーん、暇ー!」
部員でも何でもない芹奈せりなが駄々を捏ねた。
「暇って言ったって、試合がなかなかコールされないんだから仕方ないだろ…」
「なんでコールされないのさー!」
「コートが埋まってるからだよ!」
ダメだ、これじゃ気が休まらない…まあずっと鎮まってはないしそんな変わらんか。だが、案外気を張っているよりも自然体でいられた方が楽かもしれない。プレーに入る時も無駄な緊張なく臨めそうだ。そこまで含めて芹奈の計算内か否かは知らないが…俺はなんでさっきから芹奈がそこまで考えられてる前提で話を進めているんだろうか。
「というか、なんで今日はいつもに増して絡んでくるんだよ…」
「わかんないけど、わたしもしかしたら絡み酒なのかもね!」
「お前酒呑んでないだろ…」
「呑んでなくても絡み酒かもしれないじゃん?」
「呑んでないなら少なくとも絡み“酒”ではないだろ!」
「じゃあわたしは何なの?」
「ただのやからだよ!」
やっぱりコイツただのおバカだわ…もうできるやつだと思わんとこ…

その後はちょくちょく杏奈あんなちゃんの救いの手はあったものの、何かと芹奈に絡まれ続けて、決して気が休まることがなかった結果、
「ミックスダブルス二回戦、東帆とうはん高校きしくん、織田おださん…」
緊張どころか緊張感皆無で二回戦のコールを受けてしまった。緊張しないに越したことはないが、緊張感ないのはダメだろ…
「とーる!呼ばれたね!行こ!」
「あ、ああ。」
「てっちゃん、待ち侘びたよー!」
「お姉ちゃんのせいで徹さん、全然休めてなかったけどね?本当にすみません…」
「大丈夫、いつものことだよ。」
「やっぱりいつもわたしの扱い酷くない?!」
とりあえず芹奈は一旦無視するとして…
「ちなみに由香里、次の相手どんな感じかわかるか?」
「うん、ばっちり観てきたよ!次はね…サウスポーコンビ!」
「何じゃそりゃ…」
一回戦のカットマンコンビといい、次のサウスポーコンビといい、変な相手ばかりだな…
「まあ、あたしたちなら大丈夫だよ!」
「だと俺も信じてるよ。頼むぞ、由香里。」
「あいよ!」
「やっぱりお二人さんいいコンビだねー!」
こんな風に野次を飛ばす輩は無視に限る。

 コートに向かっている最中、
「そういえばとーる、お腹はもう大丈夫?」
由香里が尋ねてきた。
「んー、腹の方は意外ともう大丈夫かも。芹奈に絡まれてたから気は休まらなかったけど、逆に芹奈の対処に集中してたおかげか、自然と気にならなくなってた。」
「よかったー!あたしのせいでとーるがもうダメになってたらどうしようかと思ったー!」
「あれは…まあお前に非があるのは間違いないけど…」
「ごめんって…」
「でもダブルスやってたら事故なんて日常茶飯事だろ。」
「ごめん、多分それ基本的にはとーるだけだと思うんだけど…」
「ともかく、そんな細かいこと気にすんな。俺とお前の付き合いなんだから、今更もう何も遠慮すんな。俺も何も遠慮するつもりはないからさ。」
「何でも?」
「何でも。」
何の意図でわざわざ聞き返してきたのだろうか。
(何も遠慮しなくていいってことは…ってダメダメ!今は大会に集中!)

 アリーナに着き、台の前で準備をしていた。
「おーい!てっちゃーん!待ち侘びたぞー!早く頑張れー!」
ガヤが五月蝿い。というかなんだよ、早く頑張れって…相手もまだ来ていないというのに。
「とーる、芹奈ちゃんってキャラ強烈なのね…」
「ホントに…最近はアイツが一番わからん。今までは何考えてるか表情じゃ判別できない桃子とうことか、ふわふわ思考の紗希さきの腹の中が一番わからなかったけど、なんか違ったベクトルでわからないんだよな、アイツは。」
「なんか不思議ちゃんとも違うタイプだもんね、ちょっとわかるかも。まあでも紗希ちゃんはともかく、桃子ちゃんは割とわかりやすいと思うよ?」
嘘だろ…なんで付き合い短い由香里の方が桃子の思考を読み取れるのだろう。誠に不思議で遺憾だ。あたかも俺の感情読み取り機能が弱いことを暗に示されているみたいで。

そんな卓球とも何も関係ない会話をしていたところ、ようやく相手組が現れた。二人とも左腕で荷物を全て抱えている。露骨な左利きだ。
「それにしてもサウスポーサウスポーのコンビってどんなことやってくるんだろうね。」
「どうだろうな…闘ったこともないし完全に未知数って感じだな。」
「とりあえず気は全く抜けそうにないね。」
「それだけはたしかだな。」
などと相手を強く警戒していた俺たちだったが、杞憂だった。相手は二人とも左利きだから、こちらからするとやりづらくはあるもののやりづらい相手にすぎなかった。正直一回戦で当たった二人ほどの危なげを感じることもなく順調に試合は進んでいった。そして…

「ショーーー!!」
「とーるナイスー!!」
最後は俺の渾身のフルカウンターを振り抜き、ゲームカウント3-0で完勝となり、俺と由香里はめでたく三回戦進出を決めた。
「やったな!」
「ね!イェーイ!」
言いつつ由香里は手を伸ばしてきたので、ハイタッチで応えた。
「おおーい!!てっちゃん強かったぞー!」
試合が終わるとすぐさま芹奈の野次が再び飛び始めた。この声の勢いをどちらかと言わずとも試合中に出してほしかった。なんか試合中に限って芹奈の声援はあまり聞こえなかった。俺が集中していただけなのか、ホントに試合中に応援をサボっていたのかは謎だが。そして残念ながら後者だとしても、わざわざ応援しに来てもらっている以上、俺がとやかく言う資格がないのは誠に遺憾である。

 本部への結果報告を済ませて観覧席に戻ったのだが、今度は先輩たちの姿がない。もう二回戦に入っているのだろう。先輩たちが二回戦を突破すれば、お互いあと一回勝てばもう一度戦うことができる。それが俺と由香里、そしておそらく先輩たちにとっても何よりのモチベーションなんじゃないだろうか。
「岸センパイ!」「由香里先輩!」
「「お疲れ様です!!」」
金本かねもと下北しもきたが労いの言葉をかけてくれた。コイツらもうすっかり息ぴったりだな。もう次の新人戦のダブルスで普通に県大会に行けるんじゃないだろうか。
「徹くんも由香里もすごかったよー!」
「ですよね!もう完勝って感じでしたね!」
「運が良かっただけだよ。それに多分これ以降はそうもいかないから…」
「さらに気を引き締めなきゃだよね。」
「ああ。」
真凜まりんや杏奈ちゃんも試合を楽しく観てくれていたようだ。感謝感謝…ってそういえばさっきから芹奈の姿が見えない。
「なあ、芹奈どこ行った?」
「ああ、委員長ならお手洗い行ってくるって言ってたよ!」
河本こうもとが答える。
「にしても委員長、試合中ずっと騒いでたよな。」
佐々木ささき、お前が言えることじゃないだろ?」
上原うえはらくんもね…僕もだけど。」
親友三銃士もめちゃくちゃ応援してくれていたらしい。なるほど、試合中芹奈の騒ぐ声が聞こえなかったのは、単にみんなが応援してくれてたからなんだな。

不意に後ろから俺も由香里も肩を掴まれた。そして、
「おーつかれぃ!てっちゃん、由香里ちゃん、試合のこと色々聞かせれー!」
芹奈が帰ってきた。ホントにコイツ、
「輩かよ…てか、お前ちゃんと試合観てただろ。」
「ありゃ、ばれちゃーしょーがねー!」
「キャラ渋滞してない?」
「大丈夫、いつものことだ。」
「だから扱いひどい!」

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