『ONE PIECE』アラバスタ編までの感想

 71巻分無料公開中の『ONE PIECE』をアラバスタ編まで読む。前に最序盤を見たのと幼児の頃テレビアニメを見ていた程度でほぼ初見。エースが乗って死ぬのは知っている。だがまあエンタメ娯楽を作ろうとする以上抑えないといけないなと思って読んだ。

 序盤は出てくる敵が全員バカで非情な奴として描かれるせいで、戦いが嘘くさくて面白くない。

と思っていたところ、アラバスタ編ではそれなりに踏み込んだ政治の世界設定が出てきた。ハメられた王国、陰謀で国を乗っ取ろうとするクロコダイルとその手下、利用される国民という図式をテンポよい少年漫画の中でやっていてすごい。

 そういう構図のなかでルフィ達が抱えているイデオロギーも見えてきた。

“仲間”の意味

 王女ビビが窮地のなか「この国の人達の歴史も生き方も」「何も知らない」クロコダイルに憤慨するシーンがある。

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 しかしビビこそ、逃亡中に出会った麦わら一味を信頼し、ほぼ彼らだけを頼みとしてやってきたのだ。お前こそ異国の、クロコダイル以上に何も知らない海賊の暴力(ルフィ達)に頼っとるやないか!命の危機の中成り行きで組んだとはいえ、それを言う資格はあなたには無いのではないか…。

 ではなぜそれがルフィ達に当たらないかというと、「仲間」だから、ということになる。

 つまり、血統と民族的イデオロギー(作中では民族という言葉自体は使われないが)を振りかざしながら、異民族のヤクザに頼るという矛盾を「仲間だ!(から許される)」という言葉だけで覆い隠しているのだ。

 「ONE PIECE」の仲間を重んじる雰囲気について体育会系的ノリとよく言われている(俺もあまり読まずにがそうだと思っていた)が、正確には違うのではないか。

 他者のテリトリーに都合よく介入するルフィ達にその権利を与える、いわば特権階級にするためのマジックワードが「仲間」なのだ。


 ということに気づいて、ONE PIECEのことがだいぶ好きになった。

 どういうことか例をあげよう。戦争を描いた現代の作品(ガンダムとかヤマトとか)の主人公の多くは「平和」「反戦」を目的として掲げる。だが視聴者がそもそも見たいのはその目的とは対極の、加熱する戦争である。なぜか。
 一市民である我々は戦争を(作品の上さえ)全肯定する気にはなれないのだ。だからそんな二面性を反映し、物語上の方向としては「平和を求めて戦う」ということにする。そうやることで戦争をエンタメとして楽しめる、というのが戦争アニメの構造だ。

その「平和」を「仲間」に置き換えたのがONE PIECEなのだ。

 体育会系の「仲間」が束縛的な馴れ合いなのに対し、ONE PIECEの仲間は暴力正当化のための名分なのだ。まあ体育会系ノリが暴力正当化に使われることもたくさんあるが、それとは本質的に違う。

 おそらく最も近いのはアメリカの集団的自衛権だと思う。なにせルフィが仲間だ!って言って乗り込んで守るのは虐げられている弱い存在だからだ。弱小国の保護を名目に開戦するアメリカみたいなもんである。まあ朝鮮の保護を名目に開戦した日清・日露戦争の日本とかでもいいんだけど、要するにそういう類の「仲間」なのだ。

 それのどこがいいんだよと思われそうだが、こういう読み取りができるということは、すごく立派な描き方なのだ。「その暴力に正当性があるのか?」という視点自体は作中にはないものの、暴力をちゃんと主体的に行使するものとして描いているということだからだ。

 超王道の勧善懲悪をやりながら、善の力も暴力として捉えた上で描いているのはなかなかできることでないなと思った。

 やはり世に名高いだけのことはある、いい作品だなあ…と思ったが、戦闘中敵が能力を解説してくれるのと悪役がなぜか慢心して殺さない展開が多すぎるので星1です(クソAmazonレビュー)。ジョジョでもそうだがマジでなんとかしてほしい。

 


 

日記


 1週間ほど滞在した友達の家から帰ってきて、持ち込んだACアダプタがないことに気づく。
 だいぶデカいのでさすがに置きっぱなしで忘れたってことはないだろうと家を探したがやはりなかった。そして友達に連絡したら「あったにゃ」とのこと。悲しい…ということで何もやる気にならずにONE PIECE読んだ。なので今回はサムネないよ。


 そんなことより読んでて一番気になったところはアーロン編で搾取されている村民の経済事情だった。「魚人アーロンに支配されているナミの村人は8年間、毎月ひとり十万ベリーの上納金を払わされている」という窮乏が語られ、アーロンが喜んで札束を数えるシーンもある。

 当然ながら払った金はなくなるので、村には毎月数千万ベリーがどこかから入っていることになるが、村人に自由は無いらしい(だからナミはわざわざアーロンの手下になったわけだ)。そりゃ多少の交易はあるのだろうが、異人種に支配・制限されたうえでそこまでの収益が出せるのだろうか。
 それともひょっとしてアーロン達は村人になんだかんだ金を還元していたのだろうか。だとしたらそれなりに村民の生活は保障されていたのでは…などと考えている時点でやっぱこの作品と合ってはいないのだろうな…。なんでも勧善懲悪にするのがよくないようになんでも深読みしようとするのもよくない。

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 おまけ:ガキでかでめちゃくちゃ笑ったシーン。母親に対して「おっ一度妊娠した人」と言うのヤバすぎる。

 

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