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ハイランド讃歌の話その3

河野企画代表、チューバ奏者、指揮者の河野一之です。

前回に引き続き今日はハイランド讃歌その3

もくじ

組曲とは

その1で書いた通りこの曲は大小7つの曲によって構成される”組曲”だ。

G.Holstの「A moorside suite」、E.Elger「The Severn Suite」、RVW「English Folk Song Suite」しかり金管バンド作品にも数多くの組曲は存在する。

日本は鎌倉時代後期に入った14世紀、ルネサンス時代を迎えた欧州はペストによる人口の大減少と共に新しい時代となった。

この時に生まれたとされるのがこの”組曲”だ。

もともとはいくつかあった舞曲たちを1つのスタイルにまとめて演奏をするために用いられた。
(例:遅い舞曲と早い舞曲、パヴァーヌと三拍子の早いテンポのガリアード)

Pavane

Galliard

なのでハイランド讃歌組曲はこのような構成だ。

1, Ardross Castle 遅早遅遅
2, Summer Isles 
3, Flowerdale 
4, Strathcarron 遅早遅早
5, Lairg Muir 
6, Alladale 
7, Dundonnell 早早遅早

1曲の中で緩急があるものもあれば、曲自体が一貫して遅いPavaneのようなものもある。またルネサンスの頃に誕生した組曲のようにケルトの踊り、歌のように3拍子や6/8拍子も多用されることで民族音楽、舞曲感がよく表されている。

ちなみに全部で約35分あるこの組曲、演奏会での使用を簡易にするために
・Ardross Catstle
・Alladale
・Dundonnell

の3曲は楽譜上1冊で完結されており、それ以外の4曲はオプション扱いとなり特集したいソリストや演奏会における他楽曲との構成によって組み合わせを変更することも推奨されている。

Summer Isles

「夏の諸島」と名付けられたこの曲はユーフォニアムのソロ曲でもある。スコットランドの北西部に広がるノース・ウェスト沿岸部にある諸島をイメージして作られた曲だ。

スコットランドには大小合わせて900もの島々を持つ地域で、その中でも自然環境が色濃く残っている小さな諸島が題材となった。

コルネットパートが全てTacetとなり、Soloの曲=独奏曲というよりかは
・フリューゲル・ホーン
・サクソルン属系金管楽器(テナー・ホーン,バリトン・ホーン、2ndユーフォニアム、ベース)
・トロンボーン
・打楽器

という
同属でまろやかな音が特徴的な楽器サクソルン属
金管バンドではテナーパートを司る神の楽器と呼ばれたトロンボーン
この曲中最大音量をmpと指示された打楽器
という非常に暖かく響の深い音色が期待できる編成となっている。

曲中ではFlg、Solo T.Horn、2nd Euphらとデュエットやトリオのような箇所も多く出てきて、この曲の前楽章のアードロス城に数多く出てくる彼らのソロや協奏のあと、満を持してバンドの首席奏者が出てくる期待に胸を踊らされる楽曲となっている。

金管バンドを知り尽くし、金管バンドで使用されるサクソルン属系金管楽器の魅力を十二分に知るスパークが描く大変美しい作品だ。

背景

スコットランドの気候を表すとCool and Wetと言われ、涼しく雨の多いイギリスらしい気候となっている。
日本との緯度を見てもらえれば分かるがこの「夏の諸島」、僕ら日本の夏である30度超え、蒸し蒸しとした湿度の高さとは違い西岸海洋性気候をもつスコットランドの夏はもっとも暑くて約19度、北海道西部と変わらない気温を持つ。

なのでSummerには変わりはないのだけれども、僕たち日本人が想像する蒸し暑い夏とは全く異なる。雨が多いためカラッと晴れる日が多いわけではなく、湿度が低く少し肌寒く感じる時もあるようなそれがこの「夏の諸島」の夏だ。

画像1

イメージ

分数は全てこの音源を参考

冒頭
牧歌的、大地に芝生が茂り、小さい島の沿岸なため切り立った断崖絶壁も見える。心地よい風に土と草の匂いが混じる穏やかな午後。誰かがいるというよりも自分がその景色を見ている、主観。

2小節目(0.06~)
空を流れる雄大な雲

3小節目(0.12~)
(1楽章アードロス城で過去の世界に既にいる)
その過去の世界よりもさらに昔の色々な思い出を思い返す、思い出の中の色は薄い。
これまでの思い出一つ一つに心動かされながら

4小節目(0.21~)
潮風が少しだけ思い出から現世に引き戻す

5小節目(0.34~)
思い出の懐かしさに少し笑みが出る

8小節目(0.45~)
切り立った断崖絶壁に少し大きな波が打ち寄せ戻る。主観からは見えない、音や雰囲気で感じるだけ

12小節目(1.12~)
カモメが飛んでいるのが見える

15小節目(1.34~)
土、石、大地、風景、草、崖、雲と夕日、風、海、波、遠くにまばらに見える羊

17小節目(1.51~)
目で見える、感じる全てのものと思い出が統合されていく

20小節目(2.09~)
生きているという実感への喜び、感動

24小節目(2.45~)
苦労もあったけれども、楽しく幸せな思い出が駆け巡る

26小節目2拍前(2.50~)
優しい誰かの眼差し

27小節目(3.06~)
また思い出に浸っていく

29小節目(3.26~)
主観だったものが初めてその人=自分が映り、草原に座っているその人が映る。その人が何を考えているかはわからない。ただ居る。

31小節目(3.45~)
夕日が海へ沈んでいき、黄昏時が始まるとともにこの章が終わる。

その4へ


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