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総集編:ハイランド讃歌の話

河野企画代表、チューバ奏者、指揮者の河野一之です。

スコットランドはハイランド地方を舞台にフィリップ・スパークが作曲した全7楽章、ハイランド讃歌組曲について全8章に渡って記事を書いてきた。
(各章はこの記事の下部に記す)

今日はその最後、超実践、総集編である。

もくじ

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Hymn of the Highlands

この組曲、僕たちは気軽にハイランド讃歌と呼ぶがその名の通りハイランド地方にある「文化、風土、歴史、それら全てを讃え賛美する歌」を組み合わせた組曲という意味を持つ。なので元の英名はSuite from Hymn of the Highlandsだ。Highlandにsが付きHighland"s"となることで上記したハイランド地方に目に見えるものから見えないものまで様々を表している。

そういった中、我々バンズマンがそれらを表現するときのヒントになればとこの記事を書いている。

組曲の全体を見回すと派手で力強いStrathcarronやDundonnellの冒頭、またArdross CastleやDundonnell、Strathcarron中盤の音量が大きく速度の早い箇所に着目しやすいが、河野が思うこの曲の本当の魅力はHymnだ。

つまり讃歌、歌である。

この組曲の最初と最後を飾る曲のHighland Cathedralしかり、CornetsやEuph, Flug, T.Horn&Bariらに与えられたソロや三重奏、また要所要所にでてくるTuttiでの歌など本当に美しい旋律が多い。スパーク音楽の魅力が存分に発揮された旋律が数多く出てくる。

金管バンドはどうしたって超絶技巧や難所が着目されやすいが、それは美しく優雅な箇所を引き立たせるための方法でしかない

金管バンドの本当の魅力は金管楽器という同属楽器と打楽器のみという編成でしか出せない音色の統一感や響き、そこに管弦楽や吹奏楽よりも小編成アンサンブルであることからできる音楽性の自由度である。
(=人数が少ないゆえにアンサンブルがしやすいということ)

なので20年ほど前から乱立したコンテスト課題曲に見られるような超絶技巧や極端に高い、低い音の羅列した「ただ難しい曲」「再演されない曲」「コンテスト用の使い捨ての曲」は一見憧れを抱きやすいかもしれないが、
本当の魅力はそこにはない。

超絶技巧、”技巧”というものは訓練をすれば誰でも身に付く、しかし、歌心や想いのこもった演奏というものはその人自身の人間力や人生、音楽への愛というものを試される部分で僕はそこに魅力を感じる。

そういう魅力を存分に発揮できる曲がこのSuite from Hymn of the Highlandsである。

我が国日本でとても人気な作品なため今後も数多くのバンドが演奏をしていくだろう。そんな中、この曲を取り組んでいく中でこの曲の超絶技巧的な”訓練”だけにならず、背景であるハイランド地方、そこに住む人々が何百年とかけて作ってきた文化、風景、空気感を今この便利になった世の中ゆえネットでもなんでも調べながら取り組んでみてほしい。きっともっとこの曲や金管バンドが好きになるはず。

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ソリストたちへ

この組曲の中には3曲の独奏的な曲と1曲の3重奏曲が入っている。
Summer Isles
Flowerdale
Lairg Muir
Alladale

これらは組曲の中に出てくるゆえスタミナや精神状態の安定が他のソロ曲を演奏する際よりも工夫が必要だ。

例えば

1st EuphoniumはArdross Castleにおいてできるだけ2nd EuphoniumやBaritones, Trombonesといった同じ声部の人たちにサポートをしてもらい次の楽章のSummer Islesに備える。

Summer IslesがTacet(音符の無い楽章)なSoprano CornetはFlowerdaleに備えほんの少しSummer Islesで音出しと行なったり、あまりにも緊張をするのであればArdross Castleが終わった後1度舞台をはけるのもいいかもしれない (僕が指揮者ならなるべく居てほしいけど)

他にもたくさんできる工夫はあると思うので、指揮者×バンド×演奏会×客層の全てに合う方法でベストを尽くす。

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ソリストたちへ2

ソロの曲、三重奏で取りだたされる曲というのは普段のTuttiでの演奏状態と全く異なる。

経験者はわかると思うが、同じ楽器を持って同じ空間にいるのに観衆の前に立った途端、ものすごい環境の変化に驚くだろう。

なので指揮者もバンドもソリスト自身も個人練習、バンドとの合奏、ゲネプロ、この事前に行える全ての準備段階

その環境を想定して準備を行なう

ことが何よりも重要だ。
逆に言えば、個人練習用、合奏用、ゲネプロ用の演奏を行わないということだ。

緊張というのは誰にでも起こる。ほぼ99%の人に起こる。また条件が想定外の事象や環境、または過去のトラウマから引き起こされるものだ。

しかし、緊張をしながらでもベストのパフォーマンスを引き起こすことができる方法がある。

それが上記の環境を想定して準備を行うだ。つまり全て準備や対策を行いそのソロの演奏の最中全てがPlanned、予定調和であれば緊張の中でも自分をコントロールできる。

これが演奏会中のどこかのタイミングで強烈な地震が起きます、しかし演奏会は行わなくてはなりません。だとドキドキして演奏に集中できない。

でも何曲目の小節番号〇〇の時に地震が起きますなら十分な対策も心の準備もできる。例えが大きすぎだと思うけどそういうこと。

・なので例えばある程度自分の思い通りに吹けるようになってきたら毎回ソロの曲から練習せず組曲の最初から練習をしある程度疲労感やスタミナの残量の感じを感じながらソロの曲を演奏することでそのソロの”前”のスタミナや集中力の配分をコントロールできる。
・また個人練習でも合奏でも必ず本番のように立奏を行なったりバンドメンバーの前で吹いたり、家族や友人の前で演奏をさせてもらって演奏会と似たような空間作りをする。
・ちょこちょこ取り出しながらする練習の他にも、通し練習を何度も行なったり本番中を想定し、座席から立って指定の演奏場所に立ってからの準備を行いその後吹き出しまでを練習したりする。
・合奏では、指揮者やバンドメンバーに敬意を払い、本当の意味で一緒に演奏をしてもらったりできるだけ本番と同じような空気感を自分で作る努力や配慮を行う。

など準備はどれだけでもなんでもできる。でも一つだけ大事なのは本番ですることだけ準備をする、逆に言えば本番でやらないことを準備してしまうと本番中にその環境の変化に集中力が途切れる。

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ソリストたちへ最後に

バンドバックでソロの曲!なんていうと一世一代の行事に思えるだろが金管バンドを長く続けていたり主張し続ければ実はそんなことはない。

実は「ハイランド讃歌のこのソロの曲3回目です。」とか「何度もやっています。」という人は多くいる。ラッキーではない、その人がそうしたいと願っていたからだ。

なのでこの美しいソロ曲たちを「人生最後のソロ曲だ!!!」と意気込み過ぎて楽しめなくなってしまわないでほしい、ソロの曲と書いてあるけれどもソロ (Solo)=孤高の演奏者というわけではない

スパークが描く美しい対旋律や伴奏や旋律などソロも含めて一つの曲として成り立っているし、そもそもこの曲に関して言えば組曲の中の一曲だ。Concertoではない。

自分が演奏するソロの前と後ろには必ず前や次の曲が存在する。その一部、自分もこの組曲を構成する要素の一つにということを忘れてはならない。(これは他のどんなソロ曲も”その演奏会を構成する要素に過ぎない”のと同じだ。)

ENJOY!

これまでの記事


最後に

僕が最初にこの曲に出会ったの音大在籍時代。

初めてDr. Robert "Bob" Childsが母校に指揮者として来日され選ばれたのがこの組曲だった。

4年間一緒に演奏してきた同級生や後輩たちとめちゃめちゃ練習をして臨んだ演奏会で今だに最後のDundonnellの再現部(Highland Cathedral)が流れる箇所では色々な意味であの空間との別れを惜しんだ気持ちは覚えている。

これまでBb BassもEb Bassでも指揮者としても何度も演奏したこの曲、
チューバのソロがないのは残念だけどスパークは素晴らしいチューバ協奏曲を2曲も残してくれたのでおk。

ハイランド、ぜひ「なんかスコットランドの曲でしょ?」だけではなくスコットランド、ハイランド地方、ゲール、ピクト、中世、ハイランダーズ、ケルトなどなど関連付けるば付けるほどこの曲への取り組みが楽しくなるのは保証する。

スコアには大した内容を書いてくれていないのでぜひググってみてほしい。

それでは素晴らしい金管バンド、ハイランドライフを!

2014年ハイランドにて

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