タンギングの秘密(金管楽器)
これまでレッスンやベース奏法研究会でよくご質問される内容に
タンギングがうまくいきません
というご質問が数多くありました。
確かに僕自身もタンギングやリップスラーについて深く考えるようになってまだ5〜6年、それはイギリスに行ったり、実際に巨匠たちが模範演奏をしてくださり、ご説明されていたことがきっかけだったのは間違いありません。
(こういう事に興味を持つことができたり、このような知識を受ける土台があったのは確実に洗足音大で学んだ知識や経験のおかげです。)
このチューバを始めて20年、今の僕が考えるタンギングの秘密を書いてみようと思います。これによって一人でもいいのでもっと楽しく、思い通りの演奏ができるようになると良いなと願います。
タンギングって何?
音を区切るのがタンギングだよ
とよく話されますがもう少しだけ掘り下げて書いてみます。
まずこのカタカナ英語も誤解を招く事の1つですが、
タンギング=Tonguing、これは舌=Tongueの現在分詞の形でTongue+ingでTonguingという単語になっています。つまり舌のこととか舌ですることなんていう意味になります。
そうすると、どうしても舌に意識はいきます。それはそうです、なぜなら舌って書いてあるんですから。
指導者や感想を述べる人からすると音がもやもやしていたり、はっきりしていない時にタンギングしっかりして!とアドバイスし易いです。
それに対して奏者は舌を強めに突いてみたり、いつもより早めに突いてより明確にはっきり演奏しようと健気に頑張ります。
その結果、多くの場合破裂音になったり、かすれた音になったり、単純に出したいタイミングより先に出てしまうなどという理想の結果には程遠い音が鳴ります。しょぼんです。
こう行った結果を多くみて考えたのは、「タンギングをしっかりして」の
しっかりの部分に色んなアドバイスが入っているなという事でした。
忙しい人のためにその”しっかり”に何が入れられるか箇条書きと簡単な解説をしていきますので舌(下)をご覧ください。
1、息は流れているか
音が鳴る仕組みは
肺に入った空気が→気管から口腔内を通り→唇を振動させ→その振動が楽器に共鳴して楽器が鳴る=共鳴するというのが超大まかな仕組みです。
そして僕たちがはっきりサ行やタ行を発音するようにした時に、声帯で振動させた空気を舌で区切って発音するように、タンギングは上記太字の空気の流れを舌の牙突によって一時的に止め、それによって唇の振動を一瞬止めることにより音が区切られているように聞こえさせます。
こんな感じです。
この時に息が無いとガソリンが無い車のアクセルを踏んでも動かないのと同じで音がそもそも区切られません。更にいうと舌で息の流れを区切るのでその区切った後も継続的に音を鳴らすには、スムーズな息の流れ=舌が行う息を区切る作業に負けない圧力の息を出し続ける必要があります。
この圧や息の量自体が少なくうまく楽器を共鳴させられていない方が多いです。
タンギングはロングトーンの延長線上にあるべきです。
(ほぼ全ての楽器演奏がそうです。)
息を全く出さないで声を出そうとしたり、サ行やタ行を発音してみようとしてみてください。いかがでしょうか?僕らの声帯が金管楽器演奏にとっての唇で、共通項は両方空気の流れを使用して声帯という膜や唇という皮膚や筋肉を振動させて声や音を鳴らしているというだけです。
練習方法
Articulationのスラーとスタッカートを付けてこれまで行なっていたタンギングを練習を行いましょう。スラーによって息は流れ続けていなければなりませんし、スタッカート(意味は下の画像を参照)がついた事によって音を区切る(Detached)必要がでてきます。これで息の流れ=圧を継続させながらも舌を突く=音を区切る練習が可能です。とりわけ遅いテンポで行うべきです。(A crotchet equal 60~70)
もし出だしが理想通りでない場合は
息を出すタイミング、タンギングをするタイミング、頭の中でイメージしている音を出すタイミングの3つが不揃いの場合があります。これについてもう少し深掘りしていきます。
2、リズムはとれているか
・息を出すタイミング
・タンギングをするタイミング
・音を出すタイミングのイメージ
考えすぎると迷路に迷い込みますが、この3つのタイミングがずれることによりそれぞれはしっかりしているのに音がうまくならないケースもあるようです。
・息をしっかりだしてもノータンギングな状態で滑らかな音しか鳴らない
・息より先にタンギングをしてしまい掠れた音や打撃音のようなタンギングになる
・音を出すタイミングがうまくイメージできず息やタンギングをする直前にッウっと止まってしまったり逆に暴発してしまったりする
このようなケースの多くはリズム感のトレーニングでも改善される場合もあります。身体のそれぞれの部位が連結して動いていないだけですので息、タンギング、イメージを個別に練習して行きます。以下の3以外の方法は楽器は使いません。
練習方法1「息」
メトロノームを四分音符=60にかけ
四拍かけて吸い四拍かけて吐く
これを円を描くようなイメージで行います。
円ですのでどこかで止まる事はないですし、息の出入りがスムーズに一定に行われるべきです。例えば息の量が減ったり増えたりすれば円の軌道は歪になるでしょうし一定であれば綺麗な丸になります。
練習方法2「タンギング」
上記の息を出すタイミングでトに小さいゥで「トゥゥ=Too」という風にタンギングを行う(声は出さない)。何度も行いメトロノームのリズム通り、拍通りにタンギングができるように繰り返す。
練習方法3「イメージ」
楽器を構え音は出さず上記の2を楽器の中に息を通すだけで行う。
自分の流したいタイミングで息が流せているか、発音したいタイミングでタンギングができているかをよく観察しながら行う。
練習方法4「組み合わせ」
ここで今までの3つの練習を組み合わせて音を出してみます。寝起きでもなるような簡単に感じる音が適切です。
そして音を鳴らそうとした瞬間これまでの癖が蘇ってきます。
・息を止めようとしたり
・息をあまり吸わなくさせたり
・タンギングを早くさせようとしたり
・音を鳴らすという事を意識しすぎてこれまでの3つの練習を全て忘れさせたり
・etc
します。そしたらまた楽器を下ろしてゆっくり練習1から戻しましょう。飽きた頃にはのんびり吹けるかもしれません。
これは人の脳に形成されるシナプス(情報伝達回路みたいなもの)は一度形成されると消える事はなく、新しいシナプスを作り上に載せていくような感じで新しい事を覚えていくためです。
そのため練習1〜3という新しい練習を行っても前の癖(前シナプス)は必ず残っています。なのでこの新しい練習、習慣(新シナプス)を繰り返し行うことによってこの回路を強固にし上書きしていく必要があります。
なので僕たちは反復練習を行うのです。
その反面、理想的ではない習慣。例えば
・姿勢のずれ
・息を十分に吸わない、吐かない
・出だしと終わりを意識しない
など無意識に起きやすい理想的ではない習慣を続けていくと、そういう風に演奏する癖(シナプス)が定着し本番でもちゃんとそのように演奏を行ってしまいます。それが理想通りであればいいですが、多くの場合そうではなさそうです。
なので練習を行う際は身体に覚えこませるように自分の理想的な演奏を常に心がけながら演奏する事は、超高機能を持つ我々の脳に最短距離でその方法を教え込み、そこからの無意識的な指令を本番の緊張した中で身体に行えるようにする唯一の方法です。
難しく書いてしまいましたが、
正しい演奏法というのは無いので、その時その瞬間自分が行いたい演奏をちゃんと意識して練習や演奏をしましょうねって事です。じゃないと脳がそれを覚えちゃってあんまりやりたい演奏できなくなっちゃうよって事です。
3、ダブル&トリプルタンギングの方法
タカタカ、トゥクトゥク、タカタタカタ、ティキキティキキ、トゥトゥクトゥトゥクなど様々な方法(表現)でされるダブルやトリプルタンギング(以後D, T)ですが上記1、2と併用して必ず練習します。(Double and Triple Tounguings)
そもそもD, Tは通常のタンギングと共に「ック」というタンギングも挟む事でより早くはっきりとしたタンギング奏法を可能にするもです。
練習方法は数多ありますが一番有名なのは
とにかくゆっくりから練習する!
というものです。シングルタンギングがめちゃめちゃ強かった僕ですが(帝国のマーチ(ダース・ベイダーのやつ)の伴奏をシングルで行なっていました。)
Philip Wilbyの「Cyrano」というソロ曲に出会った時ついにD、Tを練習せざるを得ない状況になりました。下の11:54。
とにかく八分音符=80ぐらいからトゥークー、トゥークー。トゥークートゥー、トゥークートゥーという風にDやTをひたすら練習しました。リアルに1万回ぐらいやったと思います。
その練習も必要なのですが一万回やるにはかなりのストイックさが必要になってきます。なので別の方法
シングルタンギング=通常のタンギングは僕らの母国語にもサ行やタ行でで出てくるので息やリズム感さえあれば結構吹けますがこの「ック」だけはあまり日本語にありません。カ行のクの発音も大した息の量や舌筋を使わないのは発音してみればよくわかると思います。しかし、
果たしてその息の量や舌筋の力で高速&高圧で流れる息の流れを区切り唇を振動させあの金属板の集合体である金管楽器を共鳴させる事はできそうでしょうか?
なので日本語にあまり無い発音=発音し慣れていない発音なのであれば単純に練習をしたらいいだけです。語学学習でもB-V, S-Th, R-Lなどの発音の違いは我々日本人の特訓のしがいがあるのと同じです。
つまり「ック」だけで練習を行うべきです。
練習方法1
普段のタンギングの練習パターンを全て「ック」の発音のみで行う。追いつかない場合は頑張るのではなくテンポを落とす。
補強できる点
・息の速度や圧力
・出だしの息の出し方、音の発生のさせ方
・リズムを正確に
・演奏するのに無駄な筋力は抜く
・半音ずつあがったりスケールで上がる場合は音の変わり目=管の長さによる抵抗に音色が左右されないように
練習方法0.9
1でうまくいかない、またはうまくいかなくなってきた場合の対処法
・休憩する(舌筋が疲れているか、脳が疲れている可能性があるので休憩)
・息だけで行う
唇を振動させず、楽器も使わず息だけで行う。口の中を狭め過ぎれば息は通らず舌も動かず、広過ぎれば息は出すぎて舌も動けません。口笛を吹くようなイメージという人もいます。
まとめ
どんなに素晴らしい奏者、巨匠と呼ばれレジェンドと呼ばれるような奏者もみんな「息」の事をお話されます。楽器を始めて触った時から引退するまでずっと考えていくのは音楽の勉強と息なのだなと常々思っていますがタンギングもその息の話に通じます。
どうしてもチューニング用の奏法、基礎練習用の奏法、曲用の奏法、ロングトーン用の奏法、タンギング用の奏法、リップスラー用の奏法と我々は分けやすいですが本当は全て音楽表現のためにあるはずです。
そしてもっと細かくみたらロングトーンの延長線上にタンギングやリップスラーもあります。
またタンギングと書かれているのでどうしても舌の動きや突く場所にとらわれがちですが本来僕たち人間の身体は脳で描いたイメージを忠実に再現しようとするだけです。なのでより理想に近い音、タンギングをイメージしそことの誤差を埋めていく作業こそ練習なのでは無いかなと思います。
どうしても「方法」ありきになり、方法の先に答えがあるような気がしますが、答えを先にイメージ=用意し、そこに至る百人十色の方法を生み出していく方が自分のためだけ=自分に最も合った方法となり演奏しやすいと考えます。
上で書いた方法や練習法はあくまで「河野一之」のものですので、皆様で試して帰る部分は変え発展させる部分はそうさえ、やらない部分はやらないなどいろいろな方法を試しAさんならAさんの、BさんならBさんの専用上達法を作るべきです。
僕は上の方法でできるようになった事は多いですが答えや理想は日に日に変化したより上に行ってしまうため追いつく事はありませんから日々研究を続けています。
そしてその成果を演奏会でお聞きいただくのです。
このブログが少しでも日々の演奏活動のお役に立てれば幸いです。
ご読了ありがとうございました。
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