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「チュロとチェバ」再録

9月2日に開催された「チュロとチェバ」の演奏会動画リンク+当日のプログラム解説です。

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ジョスカン・デ・プレ《二声曲集》

梅本佑利《バロッコマシーン》(2019)  / J.S.バッハ《無伴奏チェロ組曲》第一番《プレリュード》

私は以前から弦楽器の機械(マシーン)的な運弓に関心を持っており、その機械的運動にフォーカスした曲を書こうと思っていた。内に秘めた精密さと回転運動。そして、繰り返される一種のミニマリズムも感じさせる弓の動きと、「無伴奏チェロ」から感じられた「バロック音楽」に接続する機械(マシーン)として、この曲の後に続けて、バッハの無伴奏チェロ組曲第一番を演奏することを推奨する。勿論、この曲単体での演奏でも良い。
ハーモニクス(倍音)の現代的な奏法に昔からあるチェロの一般的な奏法によるH音が時々割り込む形で迫り合い、最後はト長調の主和音が鳴らされ、そのH音はまたもサーキュラーボウイングによる「回転運動」によって倍音との間をさまよう。[梅本佑利]

梅本佑利 Yuri Umemoto
2002年東京都に生まれる。東邦音楽大学附属東邦中学校を経て、東京音楽大学付属高等学校、作曲科に在学。作曲を東京音楽大学付属高等学校にて川島素晴に師事。2018年、秋吉台の夏現代音楽講習会のコンサートシリーズ、アンサンブル秋吉台にてヴァイオリンのための「Automatism1a,1b」が初演。その後も新作初演を重ね、作品はこれまでに、成田達輝、會田瑞樹、佐藤紀雄、カロル・サミュエルチックなどの国内外の演奏家や、アンサンブル、オーケストラに初演、再演されている。2019年には作品が「ボンクリ・フェス」(藤倉大︰芸術監督、東京芸術劇場)にてとりあげられた。

藤倉大《Sweet Suites》(2020)

2020/7/6にドイツ人チェリスト、ベネディクト・クレックナーにより初演された。彼はCOVID-19パンデミックの中、6人の作曲家に「光の音」をテーマに無伴奏チェロ曲を委嘱した。これらの作品はバッハの無伴奏チェロ組曲の間に演奏される。
Sweet Suitesは6番のプレリュードの引用が大きな軸として展開されるが、曲の中盤では3番のプレリュードやクーラント、2番のプレリュードなども引用されている。初演の10日後、7/16にYoutube上にて初演の映像が公開され、それに伴い楽譜が発売された。今回の演奏が日本初演となる。[山澤慧]

藤倉大 Dai Fujikura
大阪に生まれ、15歳で渡英。エドウィン・ロックスバラ、ダリル・ランズウィック、ジョージ・ベンジャミンに師事し、作曲を学んだ。これまでポーランドのセロツキ国際作曲コンクール(当時最年少で優勝)、ロイヤル・フィルハーモニック作曲賞、オーストリアの国際ウィーン作曲賞、ドイツのパウル・ヒンデミット賞、2009年の第57回尾高賞および第19回芥川作曲賞、2010年の中島健蔵音楽賞、エクソンモービル賞をはじめ、数々の著名な作曲賞を受賞している。近年は、ザルツブルグ音楽祭、ルツェルン音楽祭、BBC プロムス、バンベルク響、 シカゴ響、アンサンブル・アンテルコンタンポラン、シモン・ボリバル響、アルディッティ弦楽四重奏団等から委嘱され、国際的な共同委嘱もますます増えている。また世界中で再演も多い。現在英国在住。

川島素晴《チュロとチェバ》(2009)

私が「発話と音楽の関係」についてのアプローチを始めたのは1994年の《インヴェンション I 》に遡る。2018年の《インヴェンション VI》に至る「インヴェンション」の一連のシリーズの中で、器楽音をオノマトペ的に発話し模倣することを行ったのは2005年に作曲した《インヴェンション IV》が最初で、それと同年に作曲したのが本作である。
《インヴェンション IV》はトランペットとコントラバスのデュオに加えて自ら演じた発話者を別立てしたが、《チュロとチェバ》では、その題名に示唆されるように、チェロ奏者の発音をチューバが奏者が発話し、チューバ奏者の発音をチェロ奏者が発話することを交互に行うことで、それぞれの演奏が渾然一体となる。本来、なかなか存在しないデュオ編成だし、調和もバランスも極めて難しい編成だが、このような設定であることにより、最終的にはどちらがどちらの演奏をしているのか判然としなくなるまでに至る。極めて特殊なユニゾン状態による音楽、ということになるであろう。
 人は通常、音楽を聴くに際しては言語中枢を用いない。しかしここでは、日本語的語感によって発話されるオノマトペを伴うことで、言語中枢が常に作用するはずである。様々な楽想、奏法による楽器の音を模倣していたはずのオノマトペは、次第に意味不明の発語に変化していく。言葉に聞こえるような、そうでもないような、という曖昧な状態の中、くすぐられ続ける言語中枢。やがてここでの演奏行為は、発語行為とも同化していく。
 なお、今年1月27日に初演した《びックスとサックゎ》は、琵琶とサクソフォンというこれまた滅多にない編成により、ほぼ同様のアイデアを行う作品。15年ぶりに《チュロとチェバ》のアイデアを思い出して《びックスとサックゎ》という題名を決定したのと同じ頃、昨年11月に、本日の演奏会で《チュロとチェバ》を上演して頂く(しかもコンサートの名称にまで使う!)とのお知らせを頂いた。何たる偶然!
 本作は、2005年9月7日、渋谷「公園通りクラシックス」におけるEnsemble Bois 第5回演奏会「ACTION MUSIC 川島素晴個展」(川島素晴プロデュース 現代音楽ライヴシリーズ vol.3)にて、多井智紀のチェロと木村仁哉のチューバにより初演。
その後、2007年8月18日、「山口県秋吉台国際芸術村」における「秋吉台の夏2007」の「オープニング・コンサート」にて、宮坂拡志のチェロと橋本晋哉のチューバにより山口初演。今回は、15年ぶりの東京での演奏、橋本晋哉が山口で演奏してから数えても13年ぶりの演奏となる。私のパフォーマンス作品《視覚リズム法 Ia》(チェロすら弾かない!)の上演動画を公開したばかりの山澤慧とのコンビによる初演奏だけに、究極の《チュロとチェバ》となるであろう。[川島素晴]

川島素晴 Motoharu Kawashima
東京芸術大学及び同大学院にて作曲を近藤譲、松下功に師事。1992年秋吉台国際作曲賞、1996年ダルムシュタット・クラーニヒシュタイン音楽賞、1997年芥川作曲賞、2009年中島健蔵音楽賞、2017年一柳慧コンテンポラリー賞等を受賞。テレビ番組「タモリ倶楽部」、「題名のない音楽会」等に解説者として登壇。3日前に「サントリーホール サマーフェスティバル2020」内にて、サントリー芸術財団委嘱による管弦楽作品を自ら指揮をして初演。「アンサンブル東風」指揮メンバー等、様々な演奏活動も行う。いずみシンフォニエッタ大阪プログラムアドバイザー。(一社)日本作曲家協議会副会長。国立音楽大学及び同大学院准教授。尚美学園大学、及び東京音楽大学講師。

近藤譲《花橘》(3つの対位法的な歌と2つの間奏) (2013)

この作品は、その副題が示す通り、バリトン・パートとチューバ・パートの2声の対位法 による3つ歌(第1歌「折りしもあれ」、第2歌「さみだれに」、第3歌「風に散る」)と、 それぞれの歌の間で演奏される2つの短い(独奏的な)間奏から成っている。3つの歌の歌詞 は、いずれも「千載和歌集」に収められている和歌で、花橘を詠っている: (1) 折りしもあれ花たちばなのかをるかな昔を見つる夢の枕に(藤原公衡朝臣) (2) さみだれに花たちばなのかをる夜は月澄む秋もさもあらばあれ(崇徳院) (3) 風に散る花たちばなに袖しめてわが思ふ妹が手枕にせん(藤原基俊) また、第1歌と第2歌の間で演奏されるバリトン独唱の(チューバの補助的な合の手を伴う)第1間奏に用いられている歌詞は、「枕草子」から、夏(花橘の季節)について述べた 次のような一節である: 「夏は夜。月の頃はさらなり。闇もなほ、蛍のおほく飛びちがひたる。また、ただ一 つ二つなど、ほのかにうち光りて行くもをかし。雨など降るもをかし。」 《花橘》は、低音デュオの委嘱により、2013年の1月に作曲された。[近藤譲] ※本公演では、作曲者の同意を得てバリトンのパートをチェロに置き換えて演奏する。

近藤譲 Jo Kondo 
ロックフェラー3世財団、ブリティッシュ・カウンシル等の招聘でニューヨーク、ロンドン等に滞在。内外の多くの国際音楽祭に招かれ、欧米の様々な主要機関・演奏団体から作曲委嘱を受けている。作品は、オペラやオーケストラ曲から、室内楽、独奏曲、声楽曲、電子音楽までの広い範囲に亙り150曲を超え、多くは内外で頻繁に演奏され、CDに録音されている。ほぼ全作品の楽譜がイギリスのヨーク大学音楽出版局(UYMP)から、一部の作品がニューヨークのC. F. ピータース社から出版。6冊の著書を始めとする活発な文筆・翻訳活動を展開。長年、お茶の水女子大学と東京藝術大学で教鞭をとり、国外の大学・研究機関での招待講演も数多い。現在、昭和音楽大学教授。お茶の水女子大学名誉教授。アメリカ芸術・文学アカデミー海外名誉会員。

藤倉大《Contour》(2016/17/18)

この作品は、僕のテューバ協奏曲のテューバのパートから出来上がったソロの作品。協奏曲を書いた時は「テューバという楽器の魅力は?」「テューバを吹く時、どういう時に快感を覚えるのか?」などの点が、僕の興味を惹いていた。テューバとは本来ものすごくセクシーな楽器だ。このセクシーさが、古典のテューバの使い方では活かされていないものになってしまっている!と僕は感じ、この楽器を活かした音楽世界を書けるのは、もう僕しかない!と勝手に思い込み(笑)、協奏曲、そのあとソロ作品となるこの曲を書き進めた。「ホルンやトランペットはオーケストラの中でもメロディを吹く部分が出てきたりして、長いソロ的なメロディを吹ける奏者がいるが、テューバはどうしても単に必要な低音を鳴らすだけのことが多くなる。ソロ的に演奏できるテューバ奏者が少ない!」と、あるテューバ奏者が言っていたので、協奏曲、Contourではテューバは長く、音域の広い音楽を、官能的に吹き続く作品を書こうと思った。僕もこの作品を書く上でのリサーチで「テューバってこういう楽器だったのか!」とよく判って嬉しかった。[藤倉大]

エマヌエル・ヌネス《対決 II》(1985-1995)

クラリネットとヴァイオリンのための「対決I」(1982-84/88)に続く、ユーフォニアムとチェロのための二重奏。このシリーズはフルート、ヴィオラのための「対決III」(1987-1990)まで書かれた(作曲年代によれば、IIIのほうが先に完成している)。グルベンキアン財団の委嘱で1985年から1995年にかけて作曲、1995年リスボンにおいてジェラール・ビュッケ、ジャン=ギアン・ケラスによって初演された。他の2作同様、幅広い音域、激しく揺れ動くテンポ、特殊奏法も駆使した音色の多彩な変化を用いて、単旋律楽器の二重奏という枠組みの極限を追及した作品。楽器の指定が「ユーフォニアム」となっているが、音域の設定(多くの高音域が人声であり、一方極端な低音域が頻出する)や、最終的なヴァージョンはダブルベル・ユーフォニアムを用いている点などから、今後の演奏においてはいくつかの可能性を試みる必要があるだろう(初演者のビュッケはチューバのマウスピースを用いてユーフォニアムを演奏していた)。本公演ではF管のチューバを使用する。[橋本晋哉]

エマヌエル・ヌネス Emmanuel Nunes
現代ポルトガルを代表する作曲家。1941年リスボンに生まれ、同地のアマドレス音楽院とリスボン大学で学んだ後、1964年にパリに移住。1年後ケルンに移り、ケルン音楽大学でアンリ・プスール、ヤープ・スペックらに師事、シュトックハウゼンによる講習会にも参加した。1999年にUNESCO国際作曲家会議で優勝、2000年にはペソア賞を受賞。1986年にフランス芸術文化勲章を受け、1991年にポルトガル大統領よりサンチアゴ騎士団勲章を与えられた。1986-92年にフライブルク音楽大学で、1992-2006年にパリ国立高等音楽院で教授を務めた他、ハーバード大学やダルムシュタット夏期講習会、リスボンのグルベンキアン財団でも教鞭を執った。2012年にパリで没した。

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