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農業モヤモヤ スカスカの野菜の間には愛が詰まっている🥗 人参を人参につくる難しさを知る

農業モヤモヤシリーズ
新年早々Twitter の農業界隈では農薬の問題や種苗法の問題で盛り上がっているようです。

今回、実は12月からずっと気になっていた記事があり、このモヤモヤを言語化しようと思います。

気になった記事はこちら

『なぜ食材によって味の違いが生まれるのか』
自分も農家になる前、ニンジンはニンジンでした。
だから確かに味の違いをたまに見つけた時は驚きと感動もありました。
無農薬だからおいしいと思った事もあったと思います。

実際ニンジンを栽培してわかったこと、それは
〇品種の違い
〇栽培時期の違い
〇旬の頭とおしりの違い
〇生育環境の違い
〇鮮度の違い

ニンジンとはいえ、こんなにも違いがあるのかと感じています。
同じ赤いニンジンに見えても、品種が違えば当然味も微妙に違います。とはいえ全然違ってしまっては味付けも毎回変えなくてはいけなくなる、飲食店では安定の味が出せなくなるのでそこは均一性が求められることでしょう。

また季節によって冬の作物は作物自身が凍らないように糖分を蓄える作物もあります。よって春や夏よりも甘みが増す、なんてことがよくあります。

そして鮮度。これは食味に大きく関係してくると思います。保存性の良いニンジンでも保存環境によっては乾燥してフニャフニャになってしまったり、スカスカに感じられたりするかもしれません。
収穫から数日の輸送期間を経てスーパーに届くニンジンと農家直送のニンジンの差はそこが大きいと思います。



『より早く身体を大きくする』
『窒素肥料を多くあげて「早く身体だけを大きくする」』
この部分はよくある誤解かなと、個人的には、思います。
窒素肥料を多くあげても身体は大きくならず、過剰投与すれば生理障害がでて売り物になりません。その作物ごとに適した窒素リン酸カリを与えてはじめて大きくなるからです。
窒素だけ多くあげてもニンジンの場合、葉の部分だけが過剰に茂って地中部のニンジンの栄養が枯渇していたら大きくならないから。根モノ野菜は窒素よりもカリの成分も大切と思っています。


『形の規格を満たす食材』
それはつまり作物に対して偏りなく施肥ができて、間引きや草取り、選別しながら収穫して、洗って出荷基準に合わせた選別をして流通の環境負荷を最小限に抑える為整理整頓して輸送し、誰もが手にすることが出来る価格で出荷された農産物。
出荷までの背景を知ると、曲がった形にも愛着がわきますが、均一化されたの産物も農家の愛が籠った芸術品のように見えてきます。

勉強することは世界の解像度を上げる事

と聞いたことがあります。
それはまさに、スーパーに並ぶ同じ顔をしたようなニンジンにさえ、そのバックグラウンドに思いを馳せ、愛情を感じつアンテナを高くすることではないかなと、思います。

『スカスカな農産物がスタンダードになっているのです』
解像度が低い状態でスーパーの野菜をみたり、食べたりした時、そう感じるかも知れません。
もしも、栄養学的に栄養価が低い事例があったら、勉強の為確認したいところです。
実際そんなに栄養価が違うのであれば、現在世に出ている食品成分表の表記も栽培方法によって変えないといけない。それを基に給食や病院食を作る栄養士さんのメニュー管理も大きく変わってしまう。
もしかしたら多少の差異はあるかもしれないけれど、食品成分表の誤差内程度の差なのかなと思いますが、どうなんでしょう?


『(窒素リン酸カリ)三大栄養素ではない栄養素、名もなき栄養素もしっかり蓄えた「密度の濃い農産物は育ちます」』
三大栄養素ではない栄養素はいわゆる微量要素と言われるマンガンやホウ素等の事かと思いますが、一般には知られていないかもしれませんが、名前はちゃんとあります。

慣行栽培でも当然、有機栽培と同じように土づくりの為堆肥や緑肥、土壌改良材等を入れて生産性をあげています。
効率的な生産よりも、というより、効率的な生産の為土の栄養素を充実させているので、その説でいくと、どの野菜も密度の濃い農産物になっている…はずです。

よくある
良い〇〇の選び方
ついつい知らない業界の事は安易な言葉に誘導されやすいですね。

Twitter界隈では青い髪の方がスーパーの視点から食材の選び方をお勧めしていたり(時々農家からツッコミが入っているのでリプ欄、引用欄も合わせて読んで初めて役に立つ情報かもしれません)

今回あべさんのおすすめとして
『じっくり育てた』
『本来のおいしさを追求』
『健康的な土づくり』
を注目して欲しいポイント、言葉としてオススメされていました。

確かにこれらの言葉からおいしそうな雰囲気は伝わってきます。
実際農作業をしているとそれら3点は農産物を作る人なら慣行、有機問わず誰しも感じている事かも知れません。

早生の品種でも野菜として出来上がるまで、病気になりませんように、虫に食われませんようにと、もどかしい気持ちでじっくり待つ。
環境による差異を農家の工夫で最小限にし、どの作物も本来持つおいしさを発揮して欲しい。
この先10年20年、100年先も営農ができるような土づくりをする。

少なくとも自分はそう思っています。
農家さんでSNS発信している人は実は少数派。
その中でもお客様に向けた効果的な発信をしているのはさらに少数。

甘い言葉についつい吸い寄せられがちですが、あたたかな食卓の裏方として言葉少なに安定出荷という難題をこなしている農家が大半かなと思います。


営利を追求しているから早く作れれば何でもいい
おいしさはさておき、収量を重視
土の健康は二の次で農薬や化成肥料を使って効率しか考えない
そう誤解されがちな慣行栽培農家。
畑から遠く離れた所からはそう見えてしまうのも不思議ではないと思う。
それは日本から遠く離れた外国の方が日本がまだちょんまげを結って、侍が闊歩して、忍者が暗躍しているそんなイメージを持つのと同じように思う。
一度畑に来て、作物の生育を基肥を入れる所から袋詰めされて店頭に並ぶまで関わると、その景色が一変する。
スーパーに並ぶ野菜一つ一つに誰かのストーリーがあり、愛情が注がれていたことを知る。そんな解像度を高めて食べる野菜は本当においしいと思う。

スカスカな野菜の間には愛情が詰まっている。そんなことに気づけたらいいなと思う。

とはいえ、一番おいしい食材はやっぱり…


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