選手レビュー A・J・コール

ヤクルトは7日、ブルージェイズを自由契約となっていたアンドリュー・ジョーダン・コール投手(29)と契約合意したと発表した。登録名はA・J・コールで年俸は80万ドル(約8800万円)。
…(中略)…
メジャーでは18年を最後に先発登板がないが、ヤクルトは先発起用を想定する見込み。
(以下略)

ヤクルトが元ブルージェイズ右腕コールを獲得「最高の結果に貢献」

 ヤクルトは12月7日、A・J・コールの獲得を発表。引用中の記事にもある通り先発登板は2019年以降はないものの先発としての起用を想定しているようだ。コールは先発としてNPBに適応できるだろうか。どんな強みを持ち、どんな課題を抱えているのか。セイバーメトリクス指標等を用い分析を試みる。

総合スタッツ

有効Zone%についてはこちらを参考

 コールの過去3年の投球成績を見てみよう。K%(三振/打席)は平均程度なのに対しBB%(四球/打席)は2.7%ほど平均的な救援投手を下回っている。四球を出さないことで、失点のリスクを下げている投手のようだ。
 ゾーン内に投げ込むことが有効なカウントでいかにZone内に投げ込めたかを表す有効Zone%を見てもMLB平均を上回り、必要なときにゾーン内に投げ込む能力は高い。コントロールに苦しむタイプではないようだ。一方でPutAway%(三振/2ストライクからの投球数)はリーグ平均より2%ほど低く、追い込むまではうまくいっても決めきることに課題がありそうだ。

対右打者

基本スタッツ

 ここからは左右の打席別成績を見ていく。まずは基本スタッツだ。今回の分析では、現在の能力を推定することを目的とするため、基本的に過去3年の成績をベースに見ていく。ただ、基本スタッツについてはサンプルサイズを確保するために2015年以降の成績を扱う。

 コールは対右打者に限定すれば高い奪三振能力を見せている。投手のスキルが強く反映されるK-BB%はMLB全体を上回っており、対右打者についてはMLB平均を超えるパフォーマンスを見せている。

球種別成績

 ここからは球種別の成績を見ていく。

スライダー:
 対右打者で最も投じている球種だ。変化量の特徴としてはグラブ側への曲がりが平均より7cm小さく、上方向への変化が9cm大きい。変化のタイプとしては、球速の割に曲がらず浮いてくるボールとなる。全体的な傾向としてはグラブ側への曲がりが小さいスライダーは得点価値(投手にとっては失点のリスク)が高くなりやすい。球質的なポテンシャルはあまり高くはなさそうだ。

 有効Zone%は、平均を3.4%を上回りストライクを取る能力に長けている。ただしPutAway%はリーグ平均を5%ほど下回っており三振を取る能力は高くない。決め球としてはやや威力不足だ。

 続いてゾーン別投球割合を見ていく。statcastにはAttack Zoneと呼ばれる区分がある。ストライクゾーンの中心のHeart、ストライクとボールの境目のShadow、やや外れ気味のChase(高確率でボールとコールされるがスイングの可能性はあり)、大きくハズレたWaste(投手にとっては無駄球)といった区分がされている。

MLB 19-21は右対右に限定したもの

 スライダーのAttack Zoneの効果はカウントによって異なる。2ストライク未満ではカウントを稼ぐことのできるHeartでの価値が(投手にとって)優れている。逆に高確率でボールとコールされるChaseは価値で劣っている。ただし、打者が積極的にスイングを仕掛ける2ストライクでは両者の価値が逆転する。2ストライク時にHeartに投げると積極的になった打者に打ち返される。Chaseの場合は打者がスイングを仕掛けることでボールになりやすいデメリットが打ち消され、空振りや弱い当たりを誘発しやすいことで良い結果になるようだ。なお、Shadowは常に良い結果になりWasteは常に悪い結果になる。

 コールのカウント別のAttack Zone投球割合を見ると、リーグ平均と比べ2ストライク未満ではHeartに積極的に投げ、2ストライク時にはShadowへ的確に投げられている。制球の面では非常に優れているようだ。ボール変化量では劣っているためかPutAway%の向上には寄与していないものの、打球速度は平均より-5km/h遅く、弱い当たりを打たせることに成功しているようだ。

フォーシーム:
 対右打者では2番目に多い球種だ。実質右打者にはスライダーとこのフォーシームで投球を組み立てている。球質的には速度・縦横変化量とも平均的だ。

 有効Zone%は平均より3.3%高くストライクを取る球として機能している。NPB入団時と先発転向で球速の低下が見られないかという不安要素はあるが、そうでなければNPB基準では高速かつゾーン内に頻度よく投げ込めるという強力なカウント球になりうる。

 フォーシームのAttack Zoneは2ストライク未満ではShadowよりHeartのがむしろ失点のリスクが低い。打者に見逃された場合に、ストライク率が半々のShadowより高いストライク率を記録するHeartのが失点を抑止しやすいのかもしれない。コールのAttack Zone投球割合を見るとShadowが最も高くなっている。際どいところに投げる能力は高いようだ。ただ、ストライクカウントを稼ぐという意味ではあえてHeartに投げ込む機会を増やしてもいいかもしれない。ChaseやWasteの投球割合は低くカウントを稼ぐ球としては機能していそうだ。
 2ストライク時はサンプルサイズが小さいもののHeartやShadowに頻度よく投げ込めている。ストライクを取るコントロールに苦しんではいないようだ。

カットボール:
 投球割合が少ないため、数字での判断はし辛い。球質としては高速で平均よりグラブ側への曲がりが小さく、ライズの量が多い。対右の球質のポテンシャルとしてはPitch Value/100換算で0.72程度と平均よりは良さそうだ。

他2球種は投球数が極端に少ないため、ここでは評価しない。

対左打者

基本スタッツ

 左打者も右打者同様2015年以降の基本スタッツを見ていく。

 対右打者では高い奪三振能力を見せていたコールだが対左打者ではリーグ平均以下に留まっている。投手のスキルが反映されるK-BB%はMLB平均以下となっており対左打者に課題があるようだ。

球種別成績

 ここからは球種別の成績を見ていく。

フォーシーム:
 対左打者で最も投げている球種がフォーシームだ。全体的にほぼ平均的なスタッツとなっている。対右では優れていた有効Zone%も平均並であり、特に強みとなっている要素がない。

 Attack Zoneへの投球割合を見てもストライクを取るのに苦労しているようだ。内訳を見るとWasteへの投球が多く、Shadowを狙った結果、Chaseへ多く投球していると言うわけではないようだ。平均球速は速いため、NPBの打者を相手にするならばもっと積極的にHeartへの投球をして球威で押してみてもよいのではないか。

スライダー:
 右打者の項でも説明したがグラブ側への曲がりが小さく平均よりライズする軌道のスライダーだ。右投手が左打者を相手にするときこのような変化の小さなスライダーは機能しづらく球質的なポテンシャルは低い。使うのであれば制球で補いたいところだ。

 サンプルとなる投球数が少ないが2ストライク未満でストライク近辺に投げることには苦労していないものの、2ストライク時になると有効でないHeartやWasteに多く投げ込むなど決め球として使うことにかなり苦労をしている。決め球として使うには制球の改善が必須だ。

カーブ:
 カーブはグラブ側への変化が小さく、また沈みが少ない小さな変化のカーブとなっている。このようなカーブはポテンシャルとしては平均程度に留まるボールだ。

  投球数が少ないため断定はできないが有効Zone%がMLB平均値と比較して8%程度低くストライクを取るのに苦労している球種のようだ。カウント球として使うには制球の改善が求められる。

オフスピードボール(チェンジアップ):
 沈みが少なくアーム側に変化するチェンジアップとなっている。このようなアーム側に変化するチェンジアップは右投手の対左打者において高いポテンシャルを秘めた球種だ。

 しかし、一方でO-Swing%(ボールゾーンスイング率)、PutAway%(2ストライクに追い込んでからの三振率)は低迷している。

 オフスピードボール(チェンジアップやスプリットのような回転数を落として変化させる球種)は、Shadowゾーンに投げることが失点リスクを下げるうえで重要となる。コールは投球数が少ないため断定はできないもののShadowへの投球が多くないのに対し、Waste(はっきりしたボール球)にそれなりの率で投げ込んでしまっている。制球に苦労しているため2ストライクからの投球数を抑えている可能性もある。ただ、現状持ち球のなかで対左打者で最も失点を抑えるポテンシャルがあるのもこの球種だ。先発として活躍したいならばコールは相手が対策として並べてくる左打者を攻略しなければならない。制球を改善して決め球に使えるレベルに仕上げたい。

カットボール:
 横変化が非常に小さく、平均よりライズする球質となっている。このような平均よりアーム側に変化するカットボールは基本的に左打者に有効ではない。カットボールを対左対策として使いたいなら平均よりグラブ側に変化させたい。

リリーフでなら活躍の可能性は高いが先発としては?

 MLBでリリーフになった2019年以降、コールは成績を上昇させている。これは相手に左打者をプラトーン起用される先発とは異なり、相手の打順を見て対右打者との対戦を選択できる救援投手に配置転換されたことが影響していると思われる。実際にコールは対左打者との対戦率を見るとリリーフ転向後は大きく下降している。

 この結果から見てもコールは右打者が固まってる打順に限定して起用するなど、場面を選べるリリーフでなら活躍する可能性は高い。ただ、チームとしては先発で起用する方針のようだ。その場合、相手に対策として左打者を並べられることが予測されるが、そこをどう対策するかがカギとなるだろう。対策としては2つ考えられる。1つは日本ハムのバーヘイゲンのように相手の右打者は確実に圧倒して対左を抑えられない分をカバーする。もう1つはチェンジアップの制球を磨く、新たに対左打者用の球種を覚えて対左打者を対策する、といったものだ。

 コールがどちらを選択するかはわからないがコールの対左打者には注目したい。

 ちなみにMLB2017-2021で速球の球速帯が148-153km/hの投手が異なる利き腕同士の対戦をした場合に有効(RV/100が優秀)だった球種のグループが以下になる。

 高速のカーブ、落差かアーム方向への変化が大きなオフスピードボール(チェンジアップ、スプリット)、自由落下より沈む高速のスライダーが挙げられる。新球種の候補として有効そうなものを並べてみた。

まとめ

 球質的にはMLB平均と比較すると平均的なものが多い。唯一球質的にポテンシャルが高いものとしてはアーム側への変化が大きいチェンジアップがあるが、この球種は制球に苦しんでいる。

 対右打者ではストライクを取ることに苦労せず、有利なカウントを作ることや際どいコースをつく能力に優れている。そのため、MLB時代の成績を見てみても対右打者に限定すればMLB平均を上回る。

 一方で対左打者ではコントロールに苦しんでいる。また、球質的にも有効なものはチェンジアップしかないのが現状だ。(そしてそのチェンジアップは制球するのに苦しんでいる)先発として活躍するには対策は必須と言える。

 


 





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