外国人選手の成功基準を探る(先発投手)

 毎年のようにプロ野球では外国人選手獲得のために投資が行われる。そこで行った投資の回収は必ずしも成功するわけではないのが現状だ。どうすれば成功の確率を上げられるのか、外国人選手成功の基準を探る。

成功の基準

 今回は先発投手としてチームにアドバンテージをもたらせる選手を探りたいと思う。先発投手としての成功基準は1年目の成績を対象に

・kwERA-が100を下回る
・対戦打者が170を超える

とした。

 各項目について説明する。kwERAとは三振と四球のみから計算した防御率のようなものだ。セイバーメトリクスでは投手は打球をアウトにできるかどうかにほとんど関与できないことが知られている。そのため打者と投手の間のみで完結する結果、三振、四死球、本塁打で評価を行うことが多い。ただ、このうち本塁打は投手の責任ではあるものの、投手のスキルを表すものとしては疑問が残る。投手は打たれた打球のフライ率こそ関与できるものの、打たれたフライが本塁打になるかどうかについては、ほとんど関与できないからだ。そのため、本塁打を除外して投球を評価するkwERAを用いた。kwERA-とはそのkwERAを基にリーグ平均のkwERAと比較してどの程度失点を抑えられたかを表す指標だ。リーグ平均値は100となり、100を下回れば下回るほど失点を抑えられいることを意味する。

 対戦打者170超えを基準としたのは選手の実力を測るサンプルサイズとして170が適当と判断したからだ。fangraphsのSample Sizeのページでは三振率に投手の実力が反映されるのには対戦打者70以上、四球率に投手の実力が反映されるのには対戦打者170以上が必要とされる。よって両者の基準を満たす対戦打者170を実力を測れる基準とした。

成功の鍵となる指標

 NPBでのkwERA-と相関が高そうな指標をとりあえず片っ端から探してみることにする。そこでそこそこ相関が高かったのが以下の2つだ。

・有効Zone%(相関係数-0.55)
・PutAway%(相関係数-0.43)

有効Zone%


まずZone%とは文字通りゾーン内に投げ込んだ率を表すものだ。この指標は実際ストライクが増えたかには関係なく、ゾーン内に投げ込みさえすれば、打球結果が発生しようとZone%は上がる。つまり、相手がスイングを仕掛けたときに空振りさせられるかどうかといった球威に関係なく、単純にゾーンに投げ込める能力を見るための指標だ。ストライクカウントを増やせたかを表す指標としては、他にCountUp%があるがあえてこれは使わない。理由としては同じ球威でもMLBの打者相手ではゾーン内に投げても打ち返されてしまいカウントアップができないが、NPBの打者相手ならゾーン内に投げ込んでも打ち返されずにカウントアップできる可能性があるからだ。四球を出さない、三振をとるためのストライクを稼ぐ能力と言い換えてもいいかもしれない。

 ただしどのカウントでもZoneに投げ込むことが有効なわけではない。たとえば0B2Sや1B2Sではゾーン内に投げ込むとRV/100(100球あたりの得点価値)は正の値(つまり失点のリスクがある)をとる。集計対象はゾーンに投げ込むことが有効でないこの2つのカウントを除いたものとする。(ゾーンに投げ込むことが有効なカウントのみでのZone%だから有効Zone%)

PutAway%

 続いてはPutAway%だ。PutAway%とは2ストライクカウントからの投球を分母とし実際に三振をとった値を分子にする、「2ストライクに追い込んでからの三振奪取能力」を表す指標だ。三振はそもそも2ストライクカウントにならないと成立しない。2ストライクに追い込みさえすれば、高い確率で三振を取れる能力があるかどうかを見極めるのがこの指標を使う目的だ。
 前述のようにMLBでは球威不足でカウントアップに成功しなかった投手が同じ球威でもNPBでは成功する可能性がある。ただカウントアップに仮に成功しても三振をとれなければ結局自力でのアウト獲得ができなくなる。
カウントアップ能力と実際に追い込んだ時の奪三振能力が両立してこそ両者のポテンシャルを発揮できると考えこの2つの指標を採用する。

結果

 右上(有効Zone%、PutAway%がともに高い)に赤(kwERA-が100未満)が集中しているようだ。

 2011~2021年に打者170人以上投げた先発投手でkwERA-が100未満だったのは6人だ。そのうち5人は「有効Zone%が52.5以上、PutAway%が15以上」という基準を満たしている。この2つを今回は重視することにする。

基準を満たしている今年の先発外国人候補

 実際に今年の外国人先発候補で上記の条件を満たしている選手はいるだろうか。過去3年のMLBの登板を対象に「有効Zone%が52.5以上、PutAway%が15以上」を満たし、今季の時点で26歳以上、かつ今季の対戦打者数が200未満の選手を対象に調査した。

 候補となったのは3人となった。

サミー・ロング(Sammiy Long)

フォーシーム: 
変化量は縦横ともにMLB平均並となっている。全体的な数字を見ると空振りを取る能力に欠けるものの、ゾーン内に投げ込む能力の高さが際立っている。

カーブ:
最も多く投げている変化球。横変化がマイナスになるほど横変化が小さい(グラブ側に変化しない)縦割れのカーブを投げているようだ。Zoneに投げる割合が多いことからカウント球に使えそうだ。

チェンジアップ:
縦変化が非常に大きい沈まないチェンジアップとなっている。PutAway%は低く決め球としては物足りない。ただSwStr%は平均的でxwOBAconは低めに抑えられている。

総評:
Zone%が高い制球がまとまった投手だ。一方でPutAway%はどの球種も低く、決め球には欠け三振奪取には苦労しそうだ。グラブ側に横変化するスライダーなど空振りが取れる球種を1つ身につけたい。

コディ・ポティート(Cody Poteet)

フォーシーム:
球速、変化量等球質的にはほぼリーグ平均並みとなっている。ただZone%は非常に高くストライクを取る能力に優れている。MLBレベルでも平均的な速球の価値を生み出せており、NPBでは強力なカウント球となりうる。

スライダー:
球質的には平均的な球質だ。この球質ならもう少しSwStr%やPutAway%、xPV(打球結果についてはxwOBAvalueを用いたPitch Value)は良くてもよさそうだが実際は伸び悩んでいる。

 statcastにはAttack Zoneと呼ばれるゾーン区分がある。このゾーン区分の投球割合を見ていく。

 スライダーのゾーン別valueを見ていくとHeart、Shadowの得点価値が低く(失点のリスクが低く)、Chase、Wasteの得点価値が高い(失点のリスクが高い)。特にShadowの価値が低く投手はスライダーをShadowゾーンに投げ込むことが求められる。コディ・ポティートのAttack Zoneへの投球割合を見るとShadowが低くChaseの割合が高い。スライダーの制球に苦しんでいるようでvalueを良化させるにはこの点の改善は必須だ。

チェンジアップ:
縦変化が8.3cmとMLB平均と比較すると沈む軌道となっている。それもあってかPut Away%が高く決め球としてのポテンシャルが高い球種だ。特に対左打者にSwStr%19.4と有効だ。

カーブ:
カーブは軌道としては平均よりグラブ側への変化が大きいのが特徴だ。

 ポティートのカーブはHeartへの投球数が非常に多い。ストライクを取るのに苦労はしていないようだ。しかし、甘いHeartへの投球内容が多いためかxwOBAcon(打球の失点リスク)は.558と非常に高く、valueの低下につながっている。ただ、打球の総数は24と少なくイベントの発生が偏った可能性もあり、現時点で価値の低い球種とは断定できない。投球コースの割合を見ると2ストライク未満でカウントアップできる球種としてポテンシャルがありそうだ。

総評:
フォーシーム、カーブは投球コース、チェンジアップはPutAway%から判断するとポテンシャルが高い球種だ。一方でスライダーは球質的には平均的なものの投球コースに課題を抱えている。スライダーの制球が苦手でチェンジアップの球質が優秀ということもあって、右投手ながら右打者(xwOBA.364)より左打者(xwOBA.316)を得意とするタイプだ。右打者対策としてスライダーの制球を改善したい。

エリック・スワンソン(Erik Swanson)

フォーシーム:
投球の大半を占める球種でもっとも自信のあるボールのようだ。便宜上変化タイプはNOMAL-NOMALとしているが同球速帯(148~153km/h)の平均変化量(41.0cm)より6.3cmほどRISEしている。そのため、PutAway%やSwStr%が平均値より高めなのが特徴だ。通常、変化球のほうがこれらの値は高くなりやすいのだがスワンソンの場合は持ち球のなかでフォーシームがもっとも優れている。そのためカウント球かつ決め球となる球種だ。Zone%も平均以上とコントロールも破綻していない。球質的にも制球的にもポテンシャルは高そうだ。

スライダー:
変化タイプこそNOMAL-NOMALと平均的だがMLB平均と比べてPutAway%は-4.7%、SwStr%は-8.7%と大きく下回る。

 ただゾーン別投球割合を見てもむしろHeartやShadowに投げ込めている。スタッツ的にはこの値に留まっているの理由は不明だ。

 現状のスライダーについては球速帯が135-140km/hでNOMAL-NOMALか、NOMAL-RISEに近いものとなっている。このタイプのスライダーはRV/100値がそれほどよくはない。改良するとすればGLOVE側への変化を増やしたいところだ。NPBのボールで投げれば引っかかりがよくなって変化量が増す可能性もないわけではないがこれについてはデータがないので判断は不可能。

チェンジアップ:
変化タイプとしてはARM-NOMAL(シュート変化が小さく平均的な沈みをする)となっている。このタイプのオフスピードボール(チェンジアップやスプリットなどの回転数を抑えることで変化させる球種)はRV/100(100球あたりの得点価値、高いほど失点のリスクが高い)が高い傾向にある。球種の速度と変化グループから推定したPVより実際のxPVは高いもののPutAway%は12.2%と決め球としての威力に欠ける球となっている。

 オフスピードボールで失点を抑止するためには基本的に平均的な変化量よりARM(アーム側)かDROP(沈む)変化をさせる必要がある。決め球として使いたいのであれば球種改良をする必要がありそうだ。(もしくはスプリットなどの新球種に取り組むか)

総評:
 ストレートの質・ゾーン投球率は素晴らしく、カウントアップにも決め球にも使えそうだ。一方で変化球には2球種とも課題が残る。球種の改良や新球種の習得に取り組む必要がありそうだ。



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