📒54分間の至福。

不思議と目が覚める。

降りればそこは、勤務先の最寄り駅。
体内時計の正確さに、毎度ながら驚きを隠せない。

毎朝電車に乗って座ると、意識が遠のいていく。
防犯上はよくないけれど、それが心地よかったりする。

あえていうなら、大人のゆりかご。
54分間の至福の時。

別に疲れがあるわけじゃない。
うたた寝している方が脳が活性化する。ただそれだけのこと。

人はきっと『本』とか『新聞』とか何かを読んでいた方が時間を有効に使えていると考えるのかもしれない。私だってそう思う。

でも、

でも、

ぼやっと、漠然とした、あの心地よさに勝るものはない。

あの生きているんだか死んでいるんだか、わからない瀬戸際のときほど、良いアイデアが浮かぶ。いつもそうだ。

限られた54分間の中で、ぼやっとしながらも、頭はフル回転している。
私はそれを残すことに必死だ。

シャボン玉のように、パンとすぐに弾けてしまいそうなアイデア。そうなってしまったら、二度と私の脳にはあらわれない。必死になってスマホのメモに書き留める。

意識がシャキッと戻ったころには『なんのこっちゃ』がほとんどだけれど、生きるヒントになっていたりする。断片的な記憶は、記録として残り、必ず生かされる。

そのスリルが楽しいのかもしれない。おぼろげな記憶の中で、何となく面白さを覚える。泉のように湧き出る言葉たちが、頭の中を巡っている。出勤前に一日の仕事を終えた気持ちだ。

薄ら目を開けて閉じてを繰り返すこと54分。周りから見れば、居眠りしている女がただそこにいるだけ。しかし私にとっては違う。誰にも理解できないであろう、有意義な時間だ。

乗車時間残り5分。すっと目が開く。体はきちんと54分を刻んでいるのだ。

何ともいえない清々しさに、今日も始まると合図が送られたようだ。まるでひと仕事を終えたような、そんな思い。

やっと耳につけたイヤホンから音楽が流れてきた。創造する時間は、どんな音もかき消されてしまう。

電車での過ごし方は色々ある。居眠り女でさえこれだから、他人の眠りにも意味があるのではと考えてしまう。ただ疲れているからと、単純な理由ではないと思う。

眠りに深い意味なんてない。そうかもしれない。しかし、私はそうではない。

今、ここに綴る言葉。これまで書いてきた文章。それは全て、居眠りから出来上がったもの。54分間が、私の全てを作り上げている。そういっても過言ではない。

24時間のうちのたった54分間。大切な時間を、これからも有意義に使っていく。さて、今日も満を持して寝る。