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SIX・大八木翼は、なぜバスキュールにジョインしたのか?

オフィス移転を機に、「プロジェクトデザインスタジオ」という新たな旗印を掲げたバスキュールに、SIX INC.のクリエイティブディレクターとして活躍する大八木翼が執行役員として加わることになりました。引き続きSIXとのパートナー業務を続けながら、ダブルワークという形でバスキュールのさまざまなプロジェクトに関わることになる大八木翼と代表の朴正義が、これからのクリエイティブ業界のあり方や広告に求められる役割、企業と個人の新しいつながり方、働き方などをテーマに対談しました。

(扉写真:左から大八木翼、 朴正義)

ダブルワークという新しい選択肢

ーまずは、大八木さんとバスキュールのこれまでの関係について教えてください。

大八木 バスキュールとはもう10年以上のおつきあいになりますよね。僕は博報堂に入社後、CMやコピーライティングの仕事などに関わっていたのですが、マス広告の世界には優秀な人たちが上の世代にたくさんいて、同じ山を登っていくことの難しさを感じるようになりました。その中で、もともとデジタルアートが好きだったこともあり、インタラクティブ広告などをつくり始め、少しずつ頭角を現していった感じです。これまで色々な会社と協働してきましたが、バスキュールは良い意味で最も純朴な会社だと感じていました。「純朴さ」は「従順さ」とは違い、好きなことと素直に向き合い続けているんですよね。それがバスキュールのさまざまな自社事業にもつながっていて、こうした部分は自分も学びたいところだと感じていました。

ー大八木さんがバスキュールの執行役員に就任するまでには、どんな経緯があったのですか?

大八木 2013年に博報堂出身の6人のクリエイティブディレクターと1人のビジネスプロデューサーと共にSIXという会社をつくったのがひとつめの転機でした。今回の役員就任は、僕にとって大きなふたつめの転機になります。この8年、広告会社から独立した立場のクリエイティブエージェンシーとして、それぞれのメンバーがヒエラルキーやノルマなどがないフェアな環境の中で仕事を続けてきました。やがて、その関係性をさらに発展させていくためには、「雇う」「雇われる」の関係ではない新しい働き方や仕組みが必要なんじゃないかと考えるようになったんです。同時に、企業とクリエイターにおいても受発注の立場を超えた共創関係を温めていくことにもチャレンジしたいという思いがありました。そして、自分のことを育ててくれたバスキュールにジョインすることで、こうしたチャレンジができる環境が手に入るのではないかと考え、朴さんにお話ししたんです。

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朴 バスキュールは、コロナ禍でリモートワークの状況下にあった2020年12月31日から2021年1月1日という最もネット環境が不安定な環境下で、2つの前代未聞なプロジェクトを実現してしまいました。これによって、それ以前には考えもしなかった環境でも仕事ができることが実証されてしまい、会社ってもっと柔軟に考えてもいいんだ、と思い巡らせていたところに、大八木さんから話があったんです。もともと僕は、会社の存続よりも、それぞれの人がライフワークと呼べるようなプロジェクトに出会えることの方が幸せなのではないかという仮説を持っていたんですね。それを見つけるための手段はいくつあっても良くて、そのひとつとしてダブルワークというのもあるなと。そして、何よりも大八木さんがうちに加わることは、クリエイティブ業界にとってインパクトになるという直感がありました。

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【 2020年末に実現したプロジェクトその1  】
KIBO宇宙放送局 THE SPACE SUNRISE LIVE 2021

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【 2020年末に実現したプロジェクトその2  】
This is 嵐 LIVE 2020.12.31

大八木 いま勢いのある組織には、アイデアを着想した人間の周りに人が集まり、さまざまなプロジェクトが形になっていくような環境があると思うんですね。それがバスキュールが掲げるプロジェクトデザインスタジオの形だと思うのですが、テクノロジードリブンの会社であるバスキュールという環境の中で、自分が広告の世界で培った能力を活かせるのではないかなと感じました。自分自身がプロジェクトのひとつとして入り込み、プロジェクトデザインスタジオのあり方を体現していける存在になれたら面白いなと思っています。

クリエイティブ業界のパラダイムシフト

ーコロナ禍によって個人の働き方や会社のあり方の変化は加速していると言えそうですね。

朴 そうですね。先行きの見えないVUCAの時代がやってきたという共通認識がクリエイティブ業界の中で一気に浸透した気がしますね。そこでの振る舞い方は人も会社もそれぞれで面白い。安定を求め大きな組織に身を寄せる人、一生懸命営業する人、無駄な出費を徹底的になくす人、価値があると信じるものづくりにぶっこむ人。正解はないのですが、うちは以前からいつも一番最後を選択してきたので、今回も迷わず宇宙にぶっこむ選択ができたのはよかったと思ってます。宇宙の取り組みはコロナ以前から始まっていて、想定される億単位の出費に対応するリターンの算段も全くつかなくなってしまったけれども、僕らにとって最悪なのは金銭的リターンがないことではなく、取り組むに値するプロジェクトが消えてしまうことだという判断で、むしろコロナ禍だからこそやるべきだし、必ずサポーターが現れるはず、と迷いなく決断できました。

大八木 受託マインド/発明マインドのどちらが強いかというのは、コロナ禍で明暗を分けたひとつのポイントだった気がします。これは個人にも言える話で、そもそもやりたいことがあって表現しているクリエイターはどんな状況でも良いものをつくりますが、周囲に合わせて自分を表現してマネタイズしていたような人たちは仕事がやせ細っていく印象があります。

朴 短期的な成果を期待される広告宣伝の仕事だけでなく、事業開発などの長期的視点でものづくりをご一緒していただける部署との未来の体験をつくる共創プロジェクトが多かったのはラッキーでした。宇宙と同様ですが、むしろこんな時代だからこそ継続するべきだという声は本当にありがたかったです。クリエイティブ業界に関わるみなさんも、自らのポートフォリオのバランスを見直す転機になってるんでしょうね。

大八木 ここまでの未曾有の危機に直面した時、1年目はしゃかりきになってなんとか踏ん張れるけど、2年目、3年目となると、火事場の馬鹿力のようなものだけでは続かないですもんね…。

朴 そうですね。とはいえ、突然、長期的な視野で物事を考えろと言われても難しいですよね。うちは創業時から未来にあったら楽しいものを基本に、自発的なプロトタイピングを続けてきたのが功を奏しました。少し前から、先ほども話した共創プロジェクト的な相談が増えていたのですが、そんな企業からの期待を得られた要因は、これまでの自社プロジェクトにおけるビジョニング、プロトタイピング、そしてその実行力でした。たしかに、うちのように頼まれてもないのにSNS業界やテレビ業界のトップ企業の門を叩いて、「一緒に共創して世の中変えちゃおうぜ!」と働きかけるクリエイティブの会社はあまりないし、VUCAの時代に突入したいま、企業が求めているのはそこなんだなと改めて思うようになりました。長年、自分たちを説明する言葉に困っていたんですが、「プロジェクトデザインスタジオ」が自分たちを定義する言葉なんだと信じて、発信することにしたんです。

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プロジェクトデザインの概念図

大八木 決められたルート通りにやっていれば評価される時代ではなくなっていることが浮き彫りになりましたよね。広告の世界においても、最近はクライアントと一緒に課題から設定したり、みんなの幸せを定義していくようなところに広告の役割が移ってきているように思います。だからこそ、単なる受発注の関係ではなく、共創関係の中で役割を分担し、お互いの利益になることに取り組んでいくことが大事なんだろうと。最近のSIXの案件もそういうものが多いですし、これは夢や妄想、あるいは技術ベースでものをつくっていくバスキュールのプロジェクトデザインにも重なるところがあると思っています。

朴 僕の中では、いつか出る冒険に備えて、先に必要なものをつくっておきたいという思いが強いんです。世の中はこっちに向かうはず!という場所に、まず旗を立ててしまうんです。同時に千万単位の大量のトランザクションをさばく仕組みや宇宙と地上がつながる仕組みなど、来たるべき未来に必要となるであろう領域のことであれば、いまはまだニーズがなかったとしても、先につくってしまうのが僕らのやり方なんです。結局のところ、僕らが開発しているのはネット技術をベースにした新しいコミュニケーション体験を提供するための準備なので、その時代が来ればみんな必要としてくれるはずだ、と思い切ることができるし、その姿勢が信頼につながっているのかなと思います。

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いまこそ求められる広告表現の力

ー時代とともに企業がクリエイターに求めるものも変わってきているように感じます。

大八木 そうですね。僕は長らく広告賞のインタラクティブやブランデッドコミュニケーション部門の審査員もしているのですが、いまや広告というのは「広く告げる」ことよりも、本当にそれを求めている人たちをつなげていく役割の方が大切になっていると感じています。「広告すること」単体ではもはや何も解決できないと言いますか…。共通の課題を自分たちで見出し、それを楽しく解決していく過程で仲間が増えたり、成長できたり、さらに利益も生まれるという世界をどのようにつくるのかということが求められています。僕自身そういったものを追求していきたいと考えていますし、21世紀の表現に関わる者として、20世紀的な旧来の価値観に新しいルールを持って挑んでいきたいという思いがあります。

朴 スマホやSNS浸透以前のコミュニケーションの解像度の低い時代は、一撃で多くの人たちの心を掴む新聞広告やTVCMなどのコミュニケーションが求められていたと思うんですよね。一方で、誰もが発信者となり、コミュニケーションの解像度が高まった時代に、一人ひとりに向き合うという新領域のクリエイションの扉が開き、うちのようなチームが活躍できる舞台が整いました。そしていま、さらに新しい力が求められていると思っています。それは、僕らが目指す未来が良いものだ、と世界の人々がイメージできるものにする力です。「広く告げる」ために切磋琢磨したクリエイティブの力が、これからは目指したい世界を表現するための技術として求められるようになると思っていて、大八木さんにはぜひその役割を担ってほしいんです。

大八木 まさにプロジェクトをどうデザインしていくのかという話ですよね。ディレクションとは方向性を指し示すことですが、さらに言うと「何をやらないのか」を決めることでもあります。まずは朴さんが見ている世界をしっかりつかむことでバスキュール的なプロトコルをインストールした上で、自分なりの課題感や趣向を重ね合わせたアウトプットに昇華していくことで、バスキュールの存在を再価値化していくような作業になるのかなと思っています。

朴 ぜひ僕らをキラキラさせてください(笑)。

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大八木 最近広告業界では、「パーパス」というものが流行っていますが、パーパスを定めればすべてが解決するわけではないんですよね。もちろん、みんなをまとめるためにはパーパスがあるに越したことはないですが、何もなかったところにパーパスをつくっていくような考え方には違和感があります。バスキュールにしてもそうですが、もともとそこにあったものに名前をつけることで、みんなが共有できる概念にすることが大事だと思っています。それによって周りの人たちが仲間になり、一緒に新しい世界を見ようという雰囲気が醸成されるといいですし、企業の人やクリエイター全員がプロジェクトデザイナーの一人だという意識を持ち、毎日ワクワクしながらプロジェクトに関われるような世界が来るといいなと思います。

バスキュールの大八木、SIXの大八木

ー今後大八木さんはバスキュールでどんなプロジェクトに関わっていく予定なのですか?

朴 まずは僕らが進めているプロジェクトの中で、旗は立てたもののボンヤリし過ぎていて誰にも見えていないような案件に力を貸してほしいですね。バスキュールは、クライアント側のステークホルダーを動かす経験のあるスタッフが少ないのですが、大八木さんはそうした向こう側のデザイン、つまりチームアップのプロセスに長けているんじゃないかと勝手に思っています。

大八木 チームアップは、ある意味それがすべてだというくらい大切なものだと思っています。例えば、クライアント側に適任者がいれば、その人にクリエイティブディレクター的な役割を担ってもらうということもプロジェクトを推進していくひとつのやり方です。また、企業の担当者が抱えている課題を整理したり、さらに踏み込んで予算取りまで一緒にするようなこともあるのですが、そうすることによってプロジェクトが持続し、長い目線でものがつくれるようになるんです。

朴 大八木さんのそうした能力を活かしてもらいながら、バスキュールが進めていくプロジェクトをより成功に近づけていってほしいですね。また、ここには他の広告会社ではトライしにくいことにもチャレンジできる環境があるので、一緒に新しいプロジェクトもつくっていけるといいですね。

大八木 僕はいま41歳なのですが、この年になると一年生になる機会がなくなるんですよね。「バスキュールの大八木」になることでこれまでとは違う世界が開ける気がしていますし、僕がジャンプインすることによってバスキュールに新しいケミストリーが起こり、世界に勝負できるコンテンツをつくっていく土壌が育まれるといいなと思っています。

朴 一方で、広告の案件などでは今後も「SIXの大八木翼」として、バスキュールの若手クリエイターたちの視野を広げるクリエイティブの機会を提供していただけるとうれしいです。

大八木 はい!今後もSIX主導のプロジェクトではデジタルクリエーションの部分でぜひご協力いただきたいですね。ただ、その線引きは大切で、バスキュールが広告会社になってしまったら意味がないと思っています。僕がバスキュールにジョインしたいと思った理由のひとつとして、少年漫画的な発明マインドというものがあるし、僕が入ることでそれが変わってしまったら良くないな、と。そういう自分も広告の世界の中では辺境に勝手に旗を立ててきた人間なので、そんな僕がここに加わることで、お互いの活動が広がって楽しくなるといいなと思っています。

ーバスキュールの新オフィスは、共にプロジェクトを進めていく企業やクリエイターが集う共創拠点にもなりますが、こうした場があることについてはどう思われますか?

大八木 僕は、場には磁力のようなものがあると思っていて、同じ場所にいるだけで伝わってくる情報というのもたくさんあるんですよね。コロナが広がる前までバスキュールは、毎週金曜にオフィスで夕食をつくって一緒に食べるというカルチャーがあったと思うのですが、そういうのは凄くいいですよね。しっかりワクチンを打った後には、またみんなで集まれる文化祭や勉強会的なことができるといいですし、それが面白いことをしたいけどまだできていない企業の人やクリエイターたちがつながれる機会にもなるといいなと思っています。

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[取材・文]原田優輝(Qonversations)


\ただ今、採用強化中/
新たにプロジェクトデザインスタジオとして動きだしたバスキュールでは、現在新しい仲間を募集しています!この新しいクリエイティブのあり方に共感し、今まで培ってきたスキルやノウハウを活かして一緒に新しい価値を生み出せる可能性を感じた方は、ぜひコンタクトください。
大八木がダブルワークという形を選択したように、プロジェクト単位でのジョインなど様々な働き方があると思っています。新たな仲間に出会えることを楽しみにしています。

まずは相談してみたいなど、お気軽にバスキュールのFacebookメッセンジャーからもお問い合わせください。

また、プロジェクトデザインに関する企業の方々からのお問い合わせもお待ちしています。まだ明確な依頼内容がない状態からでも、ワクワクする未来を描くために、まずはお互いを理解し合うところからスタートできればと思います。


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