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どんなお題でも語る #1「中間業」

こんにちは、ばさつと申します。
このnoteでは「どんなお題でも語る」をモットーに、皆様から貰ったお題について専門外だろうがなんだろうが小噺にして語っていきます。

#1「中間業」

ナカマに初めて会ったのは、長野で一人暮らしをしていた大学2年の秋だった。

当時の私はサークルもバイトもせず、ただ時間を持て余していた。
授業が終わると自転車で下宿先までの道にかかる橋の途中まで行き、やたらグニャグニャな川をぼんやり眺めてから帰る。
帰宅後はとりあえずつけたテレビの声に相槌を打ちながら適当に課題をこなして寝るだけ。

そんなハリのない生活を送っていたある水曜日、川を眺めていた私に話しかけてきたのがナカマだった。

「ここからだと中途半端に怪我をするだけだから、やめた方がいいですよ?」

ナカマは私が飛び降りると思ったらしい。
そんなつもりはないと告げると安心したのか、やや紅潮していたナカマの顔は健康的な血色に戻り、そのまま話し始めた。

私と同じ大学の同級生だということ。
父親から「日本の中心を見てこい」と言われ無理やり長野の大学に通わされたこと。
慣れない生活で気が滅入っていたときに私を見つけ、コレはまずいと思い声をかけたこと。
刺激しない様に平静を装っていたが、内心は焦っていたこと。

私も上信(?)組だと伝えると、嬉しそうに連絡先交換を申し出たので応じた。
正直、私も久々の会話が嬉しかった。

ナカマとは学科が違うので授業で会うことはないが、一緒に昼食を食べる友人になった。
ある日、ずっと気になっていたことを聞いてみた。

父親のことだ。

日本の中心(諸説あるが)というだけで長野に送り込む父親とは一体何者なのだろう。

「中間業って知ってる?ウチの父親がその第一人者なんだ」

簡単に言うと全ての物事の丁度良い箇所(中間)を設定する仕事で、遺産相続や領地紛争、ときにはカフェオレの割合まで設定するのだそうだ。
特に政治面では重宝されていて、与党の出す法案の裏には殆ど中間業の人間が絡んでいるらしい。

しかし、「冷静と情熱のあいだは微熱だ」とか、「某コント番組の”ザ・センターマン”のモデルは父親だ」とか、本当なのか冗談なのかよく分からない話と共に説明してくれたせいで、どうも信憑性に欠けるが、彼の熱弁から察するに本当なのだろう。

「父親は立派だと思うけど、大学まで決められたのはいまだに納得いってないよ!しかも家業を継ぐ気なんてないし。」

そうなのか?でも、絶対向いてるよ。
お前、大学2年の秋の水曜日に日本の真ん中で且つ橋の真ん中で私に話しかけたんだそ?
なんなら今だって昼食を一緒に食べてるじゃないか。

私がそう言うと、困った表情を浮かべるナカマの顔は少し紅潮している。

・・・微熱か!

中間が身体に染み付いているぞ、お前。


あれから20年。

ナカマは卒業後こそ一般企業に勤めたが数年で辞め、父親の仕事を手伝ったのちに社長に就任した。
今は地球環境と経済活動の丁度良いバランスを見つけては企業に売り込んでウハウハらしい。
ずっと思っていたけど、稼ぎは中間じゃないんだな。

私はなんだかんだ長野に馴染んでしまい、市役所の職員として働いている。
30歳で同僚と結婚し、二人の子供にも恵まれた。
今は思春期の娘とマイホームのローンと戦う毎日だ。
派手ではないが、堅実にそこそこ楽しく暮らしている。

ーーーナカマ。お前の仕業か?

#1「中間業」完

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